不妊治療における受精の難しさ
IVFは正式にはIVF-ET、つまり体外受精と胚移植の二つに分けて考えなければならないと述べました。そして、移植を行うためには、妊娠の可能性を秘めた分割卵が準備されなければなりません。その目的のために、これまでロング法という排卵誘発法が、いわば世界標準として行われてきました。排卵誘発法は、卵巣を強く刺激することによって一度に多くの卵を採取し、最終的に移植可能な卵子を準備しようというものです。最初に多くの卵が必要になるのは、言うまでもなく体外受精のそれぞれのステップで、ドロップアウトが見られるからです。すなわち、シャーレ内の卵子の傍らに多くの精子を持ってきても、受精するかどうかという問題がまず生じます。無事受精しても、今度は順調に分割するのかどうかわかりません。そして、分割卵のうち、グレードの高いものが胚移植となります。仮に10個の卵子を採取できたとしても、最終的に移植に適する分割卵になるのは、そのうちの3割程度というのが一般的だと思います。
こうした流れに対して、まったく薬を使用しない自然周期、もしくは経口の排卵誘発剤などの軽い刺激で少数の卵子を採取し、体外受精−胚移植を行うという方法が、すこしずつ支持を集めてきています。この方法は、少数の卵子で体外受精を行うだけに、より高い技術が求められます。こうした立場をとる医師たちは、できるだけ卵巣に負荷をかけないで、卵を採取した方がより質の高い卵子が得られると考えています。さらにこうした立場に立つ医師たちは、通常の排卵誘発法で使用されるhCG−hMGの頻用が、卵子の質を低下させると主張します。
自然周期、経口排卵誘発剤周期の採卵のメリット
hCGを打ち続けてたくさん採卵してもそれは結局「質の良くない卵」をたくさん作っているだけであって、妊娠〜出産には「質の良い卵」がたった一つあればいいという考え方です。
私のこれまでの不妊相談からの印象でも、タイミング法や人工授精の段階でhCG−hMGを多用している患者は、ARTにエントリーしても妊娠に至りにくいとかねがね思ってきました。ロング法などでは卵巣に強い負荷をかけるため、その周期の体外受精−胚移植が不成功に終わった場合、卵巣を休ませるために通常2〜3周期クールダウンの期間を必要とします。一方、自然周期、経口排卵誘発剤周期の採卵では、経済的な事情が許せばの話ですが、繰り返し体外受精−胚移植にトライすることも可能です。
自然周期での体外受精の流れ
自然周期で体外受精を行うとどのような経過をたどるのでしょうか?それを経験された方の実例を示して説明します。
この方は、子宮卵管造影で、骨盤内癒着という診断を受けていました。そして、38歳という年齢から、ARTが適切と判断しました。また、不妊の原因がおもに通過因子であることから、強い排卵誘発は必要ないと考え、自然周期などでの体外受精をおこなえる信頼できる医療機関に紹介しました。そして、最初の受診時が、排卵直前だったこともあり、4回の通院で妊娠となりました。
Iさんの経過報告
○月/28 初診
診察の結果、卵胞が適度な大きさに育っているため、明日の朝採卵とのこと。
○月/29 採卵
am7:40 受付→麻酔無しで採卵(針を刺す時と卵子吸引時のみ、チクッとした痛み有り)
ope室に培養師がいて、採取した卵胞をその場で顕微鏡下で確認し、口頭で卵子があるという報告を受けました。採卵後は、20分ほど臥床で休憩し出血・腹痛が無かったので、待合室へ移動。その後診察に呼ばれ、医師より卵子の状態及び、移植について説明がありました。夫は遅れて来院。採精室で採精→採精結果が出るまでの約1時間、院内で待機。1時間後、培養師より卵子・精子の状態について説明有り。良い精子は集まってきているが、卵子がまだ未成熟なので、状態によっては顕微授精になる可能性があると説明されました。
○月/30 受精確認
培養師より卵子の成熟が遅く今朝、顕微授精をしたとのこと。
○月/31 受精確認
分割が始まったとのこと。受精卵の状態が良ければ、明日午後より移植とのこと。
翌月/1 受精確認
順調に分割しているので、移植可能。受付終了後、培養師より受精卵の状態及び移植後の生活についての説明有り。ope室にて移植。モニターにて受精卵の顕微写真を見る。また、移植時、経腟エコー画面にて移植の状況が見えました。移植後、臥床にて20分ほど安静。その後、移植した受精卵のグレード・フラグメントの有無・妊娠判定日を看護師から聞き、黄体ホルモンの処方を受けました。
同月/13 妊娠判定
am11:00までに受診。血液と尿検査を受け、妊娠判定陽性とのこと。次回、11/21に胎嚢確認のため受診予定。