体外受精とはどのような医療なのか?

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コラム

体外受精とはどのような医療なのか?

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2023年6月26日

女性の卵巣の中から卵子を体の外に取り出し、精子と受精させることを体外受精といいます。

高度生殖医療である体外受精が、それまで妊娠をあきらめなければならなかった女性に対し、妊娠を可能にしたことは間違いありません。

例えば、両方の卵管が閉塞、または外科的に切除してしまった女性において、体外受精なしには妊娠はあり得ませんでした。

 

ここでは体外受精という医療をわかりやすく説明したいと思います。

 

体外受精の現状

私は2006年に出版した『体外受精レッスン』(主婦と生活社)で、体外受精について次のように記しました。

 

「2002年末でわが国での体外受精児の数は、累計で10万人を突破しました。

さらに2003年の1年間で17、400人の体外受精児が誕生しています。

これは生まれてくる子供の実に65人に1人が体外受精児だ、ということを物語っているのです。

小学校のどのクラスにも、1人の体外受精によって生まれた子どもがいるということも、現実として視野に入ってきました」

 

そして2023年現在を調べてみますと、生まれてくる子どもの14人に1人が体外受精児となっています。

ですから、小学校のどのクラスにも、2〜3人の体外受精によって生まれた子どもがいることになります。

 

しかしそのいっぽうで体外受精による妊娠率は、 ここ10年余り20%前後の横ばい状態を続けています。

それにも関わらず体外受精児の数が増加している理由は、体外受精を受けるカップルの総数が増加しているからです。

 

体外受精の妊娠率20%の意味するところは、 この医療をおこなっても妊娠する女性は、5人に1人いうことです。

妊娠に至ったとしても流産する確率も高く、1回の体外受精で子どもを抱いて帰れる確率(生産率)は15%なのです。

 

体外受精は高額な医療であるため、つい妊娠という結果を期待しがちです。

しかし、このような厳粛な数字やデメリットも受け止め、体外受精という医療をどう考えるのか? どのように取り組んでいくのか、きちんと考える必要があると思います。

 

 

体外受精の過程とは

体外受精では、以下の5つの過程を行うことにより妊娠に至ることを目指します。

 

(1) 排卵誘発

(2) 採卵

(3) 採精、および精子の調整

(4) 受精、および培養

(5) 胚移植

を行うこととなります。

体外受精の流れ・その1—排卵誘発

体外受精の際の排卵誘発の方法は、ここ数年、医療機関によって非常にバリエーションが大きくなってきました。

 

排卵誘発剤は不妊治療においてタイミング法や、人工授精の際にもしばしば利用されます。

しかし、そうした際に排卵誘発剤を用いる目的は、排卵をより確実にする、あるいは黄体機能を改善させるということです。

しかし、体外受精の際に排卵誘発剤を用いる理由は、なるべく多くの卵子を成熟させるということです。

なるべく多くの卵子を成熟させるということは、裏を返せば、多くの卵子がないことには妊娠の可能性が低いということでもあるのです。

 

 

排卵誘発で一般的なロング法とは?

排卵誘発でよくおこなわれるロング法について説明します。

ロング法に際して、最初に用いられる薬はGnRHアゴニストと呼ばれる点鼻薬です。このGnRHアゴニストについては、少し解説する必要があると思います。

この薬は点鼻薬として用いるのですが、脳の下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体化ホルモン)といった卵胞を刺激し、排卵を促すホルモンの分泌を押さえる薬なのです。

 

このGnRHアゴニストを継続して使い続けると、脳下垂体からのホルモン分泌が抑制され、LHサージと呼ばれる排卵の引き金になる現象を消失させることができるのです。すなわち、ロング法においてGnRHアゴニストを用いるのは、女性の卵巣機能を一時的にフリーズさせて、白紙のような状態にするということなのです。

そうして、自然な卵巣の機能を押さえた上で、今度はhMGという注射を毎日行って、人為的に卵胞を成熟させるのです。

これによって、通常複数の卵胞が成長してきます。

それと平行して経腟超音波法による卵胞の観察を入念に行い、卵子が十分に成熟したと考えられるタイミングで、hCGという注射を行いLHサージを引き起こします。

それから36時間後に採卵するというスケジュールになります。

 

なぜロング法とネーミングされるのか?

この卵巣刺激法がロング法と呼ばれるのは、GnRHアゴニストを生理開始前から採卵の直前まで、長期間使用されるためです。

しかし、女性の年齢が高齢である場合、卵巣機能が低下していることも考えられます。こうした場合、ロング法ではなく、GnRHアゴニストの使用期間を短くするショート法と呼ばれる方法が行われることもあります。

 

ところで、GnRHアゴニストにはちょっと変わった特徴があります。

それは、排卵前に短期間用いると、一時的にFSHやLHの分泌が高まり、排卵しやすくなるのです。

これをフレアアップ現象といいます。

つまりロング法とはまったく逆の作用を期待してGnRHアゴニストを使うわけです。

この方法の場合、GnRHアゴニストは生理が始まってから使用されるため、ロング法に対してショート法と呼ばれます。

 

しかし、排卵誘発の方法は単純にロング、ショートと二分されるわけではもちろんなく、女性の年齢、卵胞の発育速度など、さまざまなバックグラウンドに応じて、ケースバイケースで薬が使用されることが多いのです。

さらに最近になって、hMG、hCG製剤の問題点が指摘されるようになり、体外受精における排卵誘発の方法は、混沌としてきている状況にあります。

 

体外受精の流れ・その2—採卵

排卵誘発の結果、卵胞の成熟が順調に経過すれば、次は採卵ということになります。採卵は、現在では無麻酔で、あるいは局所麻酔、静脈麻酔下に経腟的に注射針を用いて行うという方法が世界中で行われています。

超音波で卵胞の場所を観察しながら、経腟的に注射針で採卵が行えるようになったことが、体外受精が今日のような爆発的な広がりをみせた大きな理由です。

 

採卵に先立つ36時間前にhCGという注射を多くの場合使用します。

この注射により、卵胞内の卵子の成熟がより促進されるのみならず、核内で減数分裂などが始まります。

別の言い方をすると、冬眠状態であった卵子が、このときはじめて受精に向けて目覚めるのです。

排卵はhCGの刺激から36時間前後で行わなければなりません。

そして、このとき一斉に成熟した卵胞内の卵子を採取するのです。

 

 

体外受精の流れ・その3—採精および精子の調整

採卵と平行して行われるのが採精、すなわちパートナーがマスターベーション法によって精液を採取し、医療機関側に提供することです。

この時、採精に際して「禁欲期間をどれほどとればいいのですか?」という疑問をもつ方もいると思います。

私は禁欲期間にこだわる必要はないと思います。

むしろ、禁欲期間が長いと精巣内に長く存在していた古い精子の割合が多くなるので、禁欲期間をとることは、かえって精子の状態を悪くしてしまいます。

 

 

体外受精は精子のサバイバルレースを手助けすること

通常の自然妊娠においては、腟内に放出された数千万から数億といった精子の間での激しいサバイバルレースが展開されます。

卵管膨大部に待機する卵子までの平均約15cmの距離を泳いで行かなくてはならないのです。

このサバイバルレースで、1個の精子が最終的に受精するために、そのスタートラインには最低数千万の精子が必要と考えられています。

それでWHOでは精子の数の基準値を1mlあたり2千万以上としています。

 

体外受精とは、自然妊娠で精子が泳ぐ15cmの距離を、実質的に限りなく0に近づけてしまう行為と言えます。この場合に要求されるのは精子の数ではなく、少数でも運動性、直進性の高い精子(以下、運動精子)を選別して採集することが大切であり、このことが妊娠率を左右する大きな因子となります。

 

体外受精の流れ・その4—受精および培養

採卵および精子の調整が終了すると、いよいよ精子と卵子を引き合わせることになります。

培養液の入った容器(シャーレ)の中で、卵子と精子を一緒にして培養することを媒精といいます。

媒精の際には通常10万から20万程度の運動精子を用います。

男性因子が認められない精液には、通常1億以上の精子が存在していますから、媒精に用いられる1〜2%の運動精子は、選抜された精鋭集団ということができます。

 

逆の言い方をすると、10万程度の運動精子が得られないような状態、すなわち乏精子症や精子無力症が高度であれば、最近ではすみやかに顕微授精に切り替える傾向になっています。

最終的に受精する精子は1個なのですが、精子が卵子の周りを群をなして取り囲むことによって、精子の受精能が高まると考えられています。

 

培養器の中は卵管の状態を再現している

精子と卵子をいっしょにしたシャーレは、培養器の中に入れられます。

培養器は37℃という温度管理のみならず、酸素5%、二酸化炭素5%、窒素90%の割合にコンピューターで厳密に制御されるようになっています。

これら3つの気体の混合比率は、卵子と精子が受精する場所である卵管内の環境を再現しているのです。

通常、媒精から2時間ほどで卵子の中に精子が進入すると考えられていますが、18時間ほど経過すると、受精を顕微鏡下に確認することができます。

正常に受精すると、卵子の細胞質内に、卵子由来と精子由来それぞれの、前核という小さな核が2つ認められます。

培養から48〜72時間が経過すると、4〜8つに分割した胚となります。そして、その中の良好な胚を子宮の中に移植することになります。

 

体外受精の流れ・その5—胚移植

培養器の中の卵子の受精が確認されると、さらに培養を進めます。

順調に経過すれば、培養開始から約48時間後に4ないし8分割の分割卵を認めることができます。

この分割卵(=胚)を子宮の中に移すことを胚移植と呼びます。

 

しかし、分割卵であれば、すべて胚移植に適するというわけではありません。

妊娠が成立するためには、その分割卵が良好なものであるかどうかが重要な要素となるのです。

この分割卵がどの程度良好なのか(グレード)を形態学的に評価する指標として、Veeckの5段階分類が最も一般的に用いられています。

この分類は分割した各々の細胞、これを割球といいますが、その形と、フラグメントと呼ばれる小さな細胞質の断片の割合を指標としています。

 

Veeck の 5 段階分類

Grade 1: 分割してできた細胞(割球)の形態が均等で、フラグメントを認めないもの

Grade 2: 割球の形態は均等であるが、わずかにフラグメントを認めるもの

Grade 3: 割球の形態が不均等なもの、フラグメントが存在してもわずかであるもの

Grade 4: 割球の形態は均等または不均等で、かなりのフラグメントを認めるもの

Grade 5: 割球をほとんど認めず、フラグメントが著しいもの

通常、この分類で妊娠に適するのはグレード1もしくは2の卵といわれ、グレード4,5では妊娠がほとんど期待されないといわれています。

 

胚盤胞培養という新たなイノベーション

体外受精における胚移植に関しては、当初よりある問題が指摘されていました。

それは通常の自然妊娠において、卵管膨大部で受精した受精卵(=胚)は4日〜5日という時間をかけて、ゆっくりと卵管から子宮に向かって移動し、子宮内膜に着床します。

この時、受精卵は胚盤胞という70〜100個の細胞からなっています。

しかしながら、通常の胚移植においては、培養2日後の4〜8分割卵を移植します。すなわち、通常の自然妊娠での着床と、体外受精における胚移植には、タイムラグがあることが指摘されていたのです。

 

しかしながら当初は胚盤胞まで培養する技術がありませんでしたし、「体外」という非生理的な環境下に置かれる時間は、短い方がよいだろうとも考えられていました。

 

そして、培養技術の進歩とともに、胚盤胞の状態まで培養できるようになりました。

通常の初期胚に比べて、胚盤胞を移植した方が妊娠率が高いことがはっきりしてきました。

ですから技術の高いART医療機関においては、近年胚盤胞移植が積極的に行われ、中には胚盤胞移植しか行わないクリニックもあります。

 

体外受精と漢方薬は相乗効果を発揮します

「不妊ルーム」から体外受精などを行う専門医療機関に紹介した方からの妊娠の報告が増えてきています。それには理由があります。

 

私は体外受精にエントリーする方へ、“漢方薬を服用し続けましょう”と、アドバイスしているためこのような報告が相次いでいます。

漢方薬によって妊娠しやすい体になっているわけですから、体外受精を行う際も、漢方薬を続けることは大切です。

 

そして、採卵、培養、分割がうまくいって、良好卵となり、胚移植という段階になると、私は流産を予防する漢方薬に変更し、服用を止めないようにと、アドバイスしています。

 

ですから「不妊ルーム」では、体外受精にエントリーする方も、漢方薬は妊娠に近づくために、なくてはならない薬なのです。

 

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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