【書籍試し読み】不妊治療の不都合な真実(9)

不妊治療の不都合な真実

不妊ルーム院長が執筆いたしました書籍「不妊治療の不都合な真実」の内容の一部をご紹介いたします。

 

■「ステップダウン」という発想が必要 

これほどまでに多くの問題があるにもかかわらず、不妊患者さんの多くは「タイミング法」からはじまり、「人工授精」を経て「体外受精」に至る道だけが、不妊治療の標準ルートだという考え方の落とし穴にはまっています。ひたすら上へ、上へと登らされるだけで、いちど後戻りしてみよう、とは考えられなくなる。ようするに「ステップアップ(上り道)」ばかりで、「ステップダウン(下り道)」という発想がないのです。

私は不妊治療にこそ「ステップダウン」が必要だと感じ、多くの患者さんにそれを伝えてきました。不妊治療に行き詰まっている患者さんのなかには「ステップダウン」という言葉を知って、はじめてそれまでの迷いから解き放たれたという方がとても多いのです。

こまえクリニックでのフォローアップで妊娠した人の7割は、それまでに不妊治療を経験しています。なかには人工授精や体外受精を経験し、それでも妊娠しなかった人も数多くいます。ところが、こうした方々が、うちで処方した漢方薬だけで、あるいは、経口排卵誘発剤クロミッドを服用するだけで、自然に近いかたちで妊娠に至ることが少なくありません。

こうしたことが起きるのは、いったい何を意味しているのでしょうか? 私の考えでは、体外受精が本当に必要な患者さんだけでなく、もともと自然妊娠が可能な人までも、体外受精に誘導される流れがあるということです。

女性の初婚年齢はこの十数年、どんどん上がっています。それと反比例するかのように、体外受精のエントリーのハードルがどんどん下げられています。そうした流れの中で、「不妊」の定義も変わりました。

日本産科婦人科学会では、2015年に「不妊」の定義を変更しました。それまでの定義では、「結婚して通常の夫婦生活をもちながら、2年間妊娠しない」状態のことを指していましたが、それを「1年間」に短縮したのです。これはあきらかに社会情勢の変化に合わせたものです。なぜなら、いま40歳の人が2年間も待っていたら、体外受精をしたところで妊娠できなくなってしまいます。

「ステップダウン」を阻んでいるもう一つの要因は、「医療のことはすべてお医者さんにお任せする」という日本人特有の考え方です。しかも「A先生のところでタイミング法から人工授精までお世話になったのだから、体外受精もA先生のところでやらなくては」と考えがちな患者さんがとても多いのです。

そこで、私はこういう喩え話をします。

あなたがデパートの地下の売り場でお総菜を買ったとします。不妊治療においては、いちばん気楽に試すことのできる「タイミング法」がこれに相当します。そのあとでエスカレーターに乗って三階へ行って、婦人服を買いました。不妊治療においては「人工授精」がこれに相当します。さて、あなたはさらに七階にあがって、同じデパートで80万円のダイヤモンドを買うでしょうか? 

たとえ一瞬、「買おうかな」と思ったとしても、これだけの高額商品をその場ですぐには買わないでしょう。他のデパートや専門店にも寄って、他のダイヤモンドと比較してみたり、本当にダイヤモンドが欲しいのかを、いったん家に帰って頭を冷やして考えるはずです。不妊治療においては、これが「体外受精」に相当することはわかると思います。

ところが体外受精となると、こういう冷静な判断が利かなくなるのです。不妊治療医療機関という建物の中に閉じ込められた状態では、後戻りする「ステップダウン」という考え方をもつことができなくなってしまうのです。

そうした雰囲気のなかで、「あなたは37歳だけれど、AMHの値は1・03を示している。これは42歳に相当する数値です。ですからすぐに体外受精をしないと赤ちゃんはできませんよ」

などと言われると、袋小路にはまって引き下がれなくなるのです。

 

 

不妊治療の不都合な真実

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