不妊症とはどういうものなのでしょうか?

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コラム

不妊症とはどういうものなのでしょうか?

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2023年7月27日

不妊症とは?

不妊症は、カップルが赤ちゃんを欲しいと思ったとき、はじめて成り立ちます。
また不妊症には、「糖尿病」のような明確な診断基準があるわけでもありません。でも、こんなことばを聞いたことはありませんか?
「通常の夫婦生活をして、1年間妊娠しなければ不妊症」
しかしながら、ここでいう“通常の夫婦生活”が意味するものや、そのとらえ方も人それぞれです。
実際、夫婦生活の頻度が月に1回が“通常”であるカップルもいれば、ほとんど毎日が“通常”であるカップルもいます。
ですから、まず大切なことは、赤ちゃんができないからといってすぐに、自分たちを「不妊」と決めつけないことです。

「不妊症どのくらいの期間、赤ちゃんができなければ不妊の人が必ず不妊治療が必要なわけではない」

カップルの5組に1組が不妊に悩んでいるといわれています。ですが、必ず不妊治療が必要なわけではありません。
医学的な理由で高度生殖医療が必要な人は、不妊の方の10組に1組です。
なぜこのようなことを述べるのかというと、「不妊治療は大きなストレスをともなう」と私自身も実感してきたからです。また、経験された多くの方が訴えているからなのです。
たとえ男性のほうに原因があったとしても、治療を受けるのは主に女性だからということもあります。また時間的、経済的な負担もあります。皮肉なことに、このようなストレスが重なって、妊娠しづらい状況を招いてしまうことも少なくありません。自然妊娠できる可能性があったのに、不妊治療に熱心になるあまり、夫婦生活を行うことが苦痛になってしまうカップルも少なくありません。

これでは何のための治療かわかりません。できることは不妊治療の他にも沢山あります。私はまずそこから始めましょうと言いたいのです。今は医療の質が問われる時代です。まずはじっくりと考えてみてはいかがでしょうか。

「どのくらいの期間、赤ちゃんができなければ不妊症なの?」

ではどれだけの期間で「不妊」と考えたほうがいいのでしょうか?
先に述べたとおり「通常の夫婦生活を営んで1年間妊娠しない場合は不妊症」というのが、受け入れられてきた考え方でした。1年で不妊というその根拠はどこにあるのでしょうか?

不妊に対してまったく問題のない100組のカップルがいるとします。
(1回の生理周期あたりの妊娠率ですが、男女双方に不妊の問題がないカップルの場合15〜30%となります。)
仮に1周期あたりの妊娠率を25パーセントとすると、最初の1ヵ月で約25組が妊娠することになります。残り75組のうち25パーセントにあたる19組が、つぎの周期で妊娠することになります。残り56組のうち25パーセントにあたる8組が、そのつぎの周期で妊娠することになります。

このように計算していくと、1年後に妊娠しないまま残るカップルはわずか3組になるというわけです。ここから「1年経っても妊娠しなければ不妊」という考え方が出てくるのです。

しかし、これはカップルの双方に不妊に対してなんら問題がない場合の、あくまでもシミュレーションでしかありません。子どもを産みたいと考えたカップルの80パーセントが結婚して1年後に、90パーセントが2年後に妊娠しているといわれますが、夫婦の背景や夫婦生活のとらえ方は様々です。

「赤ちゃんが欲しいと思ってから1年経って妊娠しなければ不妊」というのは、あくまでひとつの目安にすぎません。1年以上たっても自然に妊娠するカップルもたくさんいることを心にとめておいてください。

現実に不妊症の定義は有名無実となりました

先ほど、「受け入れられてきた考え方でした」と、過去形で述べました。
ところが、近年、不妊治療における体外受精というものが普及し、こうした不妊期間の定義が有名無実になってしまっているのです。さらに22年4月から施行された不妊治療の保険適用拡大によって、その傾向にますます拍車がかかってしまいました。現在東京では不妊治療=体外受精の状況と言っても過言ではありません。だからこそ私は、原点(二人が出会ったとき)に立ち返ることを強調したいのです。

人間はなかなか妊娠しない生き物

1回の生理周期あたりの妊娠率ですが、
男女双方に不妊の問題がないカップルの場合15〜30%となります。
ところが同じ哺乳類で最も人類に近いといわれるチンパンジーだと70%が妊娠します。
更にマウスともなると、排卵された卵子のほとんど全てが受精し、子宮内で発育することがわかっています。
つまり人間は、「妊娠しやすい生き物ではない」のです。
チンパンジーやマウスと比べなくても、と思うかもしれませんが、
このような例をあげたのは「子どもが欲しいのに妊娠しない」=「不妊症」だと思い込んでしまう人がたくさんいるからです。

ただ先程もお伝えした通り、全く不妊の原因がない夫婦が排卵日に合わせてセックスをしても半数以上は妊娠しないわけですから、まずは肩の力を抜いて深呼吸してみてください。

「妊娠力」は「夫婦力」

不妊のカウンセリングに訪れた女性やカップルに「まず、あなたたち夫婦がもっと仲良くしましょう」と私が言うと、キョトンとした顔をされることがよくあります。
妊活のカウンセリングなんだから、医学的なアドバイスをもらえると期待してこられた方にしてみれば、こんな当たり前のことを聞きにきたんじゃないと思ってしまうのかもしれません。
でも私がこのようなことを言うのには、わけがあります。よい夫婦関係を築くことは妊娠の基本であり、その結果妊娠につながったというケースを、実際に数多く経験しているからです。
当たり前のことを言うようですが、赤ちゃんは、一人の努力ではどうにもなりません。あなたと、あなたのパートナーが愛し合い、体を合わせることからスタートします。

しかし、皮肉なことに、赤ちゃんがほしいと熱心になればなるほど、夫婦の心に隙間ができてしまうことが多いものです。「もしかしたら不妊症?」という小さな疑惑が芽生え、その不安が少しずつだれにもわからないんだから気楽にやろう大きくなって病院を訪ねるようになり、やがてセックスは医師の指示に従って行う「義務」になり……。そうなっていないか今一度振り返ってみませんか?

このようなことから、ふたりの関係がぎくしゃくし始め、子どもを作るために不可欠なセックスがうまくいかなくなってしまう。これが不妊治療のピットフォール(落とし穴)です。「愛し合うためのセックスから、子作りのためのセックスへ」この意識の変化がふたりの関係に与える影響は、思った以上に大きいものです。向き合っていてもお互いが見えていない、体を合わせていてもそのぬくもりに気づいていない…。あなた方はそんな状況に陥ってはいないでしょうか?

愛のあるセックスであれば、回数だって増えるでしょう。そうすれば妊娠のチャンスが増えるのは、当然のことです。この単純な事実を「赤ちゃんが欲しい」と思い込み、忘れてしまいがちです。

妊娠は追いかけると逃げてゆく!

妊娠、赤ちゃんのことにとらわれすぎないことは大切です。
夫婦の会話の中心が、妊娠のことばかりになっていませんか?
あるいは、ことあるごとに不妊の話をパートナーにもちかけていませんか?
もういちど、最近の日常をふりかえってみましょう。
もし、そういうことがあれば、一度、赤ちゃんのことや不妊治療のことを頭から切り離す勇気をもってください。

私がいつも感じていることは、不妊は一刻を争う病気ではないということと、一刻を争っているカップルほど、かえって妊娠しにくいということです。
毎月タイミング法を試みているという人は、たとえば2〜3か月、不妊のことも排卵日のことも忘れて夫婦の生活を楽しんでみてはいかがでしょうか。そのほうが、かえってよい結果を生むことも少なくありません。

それからもう1つ、できるだけ妊娠を気楽に考えるということも大切です。
赤ちゃんができるかどうかはだれにもわからないから気楽にやろう、そう思えると、気持ちが前向きになれるし、自分とパートナーの関係を冷静に見つめなおすきっかけにもなります。不妊治療よりも、妊娠よりも、その前にもっと大切なこと(愛し合うこと)があることを忘れないで下さい。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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