妊活と甲状腺ホルモン

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コラム

妊活と甲状腺ホルモン

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2024年11月25日

女性の身体は、脳から出るホルモンの指令によって卵巣からエストラジオール(女性ホルモン)、黄体ホルモンが出て生理周期、子宮内環境などが調節されると長らく考えられてきました。

ここ10年、甲状腺ホルモンと妊娠との関係が、とても注目されています。甲状腺は喉仏に存在する蝶々のような形をした小さな臓器で、ここから甲状腺ホルモンが分泌されます。そしてその甲状腺ホルモンは、脳からのTSH(甲状腺刺激ホルモン)によってコントロールされています。甲状腺ホルモンは一言で言えば、「元気の源ホルモン」です。このホルモンは生理周期や、卵子の質に深く関わっています。

 

1.甲状腺ホルモンと生殖機能の関係

甲状腺ホルモンには、主にT3(トリヨードサイロニン)とT4(サイロキシン)の2種類があり、これらのホルモンは、「元気の源ホルモン」ですから、体内でエネルギーの産生や代謝を促進する働きを持ちます。甲状腺ホルモンのバランスが乱れると、生殖機能にも悪影響を及ぼします。具体的には、甲状腺ホルモンは卵巣や子宮の働き、月経周期、ホルモンバランスに関与しており、女性の生殖機能に大きく影響を与えます。また、男性においても甲状腺ホルモンの異常は精子の質や量に影響を及ぼし、不妊の原因となり得ます。

 

2.甲状腺ホルモン異常と不妊

甲状腺ホルモンの異常には、主に「甲状腺機能低下症」と「甲状腺機能亢進症」の2つのタイプがあります。いずれも不妊の原因となることがあります。

 

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの分泌が不足し、代謝が低下します。これにより、エネルギー不足や冷え、疲労感、精神的な落ち込みなどが生じると同時に、月経不順や無排卵が引き起こされることがあります。甲状腺機能低下症では、ホルモン分泌の低下により元気がなくなるため、生理周期、特に低温期が長くなるため、卵子の成熟が遅れ、良質な卵子が育ちにくくなります。

また、低下症の人はプロラクチンというホルモンの分泌が増加する傾向があり、これがさらに排卵を抑制することがあります。甲状腺機能低下症が不妊に関与している場合、甲状腺ホルモン補充療法が行われ、適切なホルモンレベルを維持することで生殖機能が改善することが期待されます。

 

甲状腺機能亢進症

一方、甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態です。これにより、体の代謝が高まり、動悸や発汗、体重減少、不安感などの症状が現れます。甲状腺機能亢進症は、月経不順や早期閉経のリスクを増加させるため、妊娠が難しくなる場合があります。甲状腺機能亢進症では、「元気の源ホルモン」の分泌が活発になるため、生理周期が短縮し、卵子の成熟が速まりすぎて、質の良い卵子が育ちにくくなります。

妊娠中に甲状腺機能亢進症があると、流産や早産、低出生体重児などのリスクが高まるため、不妊治療中は甲状腺ホルモンレベルの管理が重要です。

 

3.不妊治療における甲状腺ホルモンの管理

不妊治療では、特にTSH(甲状腺刺激ホルモン)値の管理が重要です。TSHは、甲状腺ホルモンの分泌を調整するホルモンで、一般的に不妊治療においては、TSHを内科の基準値上限(4.2〜4.5)よりきびしい2.5以下であることが望ましいとされています。甲状腺ホルモンの値を適切な範囲内に管理することで、妊娠率の向上が期待されます。

 

4.甲状腺ホルモンと妊娠維持

妊娠中にも甲状腺ホルモンのバランスは重要です。妊娠初期は、胎児の発達に母体の甲状腺ホルモンが必要とされるため、母体のホルモンバランスが崩れていると胎児の発育に影響を与える可能性があります。また、甲状腺ホルモンが不足している場合、流産や早産のリスクが増加することが報告されています。妊娠が成立した後も、甲状腺ホルモンの適切な管理が妊娠の維持や胎児の健全な発育において重要です。

 

5.甲状腺ホルモン異常の診断と治療

不妊治療における甲状腺ホルモンの異常の診断には、血液検査でのTSH、T3、T4の測定が行われます。異常が確認された場合、甲状腺機能低下症にはチラージンなどのホルモン補充療法が行われ、甲状腺機能亢進症には抗甲状腺薬が使用されます。甲状腺の自己免疫疾患(例:橋本病やバセドウ病)も不妊に影響する可能性があるため、必要に応じて自己抗体の検査も行われます。

こうした数多くの報告に基づき、「不妊ルーム」でも甲状腺ホルモンのコントロールをTSH(甲状腺刺激ホルモン)を目安に厳格にコントロールしたところ、着実に妊娠される方が増えました。大切なことは、TSHには、内科的な基準値と、妊活基準値があるということです。

 

まとめ

甲状腺ホルモンは、体内のさまざまな機能に関わる重要なホルモンであり、妊活、不妊治療においても欠かせない要素です。甲状腺ホルモンの異常は女性の生殖機能に影響を及ぼし、不妊の原因となり得ます。そのため、不妊治療を進める際には甲状腺ホルモンの管理が重要であり、TSH値や甲状腺ホルモンのバランスを適切に維持することが妊娠や妊娠維持に貢献します。甲状腺ホルモンの異常がある場合には、早期に適切な治療を行い、ホルモンバランスを整えることで、より高い妊娠の可能性が期待されます。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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