私は2002年に『妊娠レッスン』(主婦と生活社)という本を出版しました。この本は大変好意的に受け入れられ、12刷6万部のベストセラーとなりました。『妊娠レッスン』の主張を一言で言えば、〝不妊治療だけが妊娠に至る道ではない〟ということです。そして、不妊治療に代わるものとして「3つの法則」を提案しました。
「3つの法則」はじつにシンプル
「3つの法則」とは、下記です。
1、基礎体温表で自分の体温のパターンを知る
2、排卵日検査薬で排卵日を予測する
3、排卵日に合わせてなるべく多くセックスする
こく当たりまえのように思えるかもしれませんが、この「3つの法則」によって多くのカップルが妊娠しています。
「不妊ルーム」に来られる方へのアドバイスも根本は「3つの法則」です。子供を望む夫婦の半数近くは、この法則で妊娠できると私は思っています。もちろん、基礎体温表のつけ方、排卵日検査薬の使い方、セックスのタイミングについてもそれぞれに大切なポイントがあります。
基礎体温表は卵巣の状態を映す鏡
妊活の基本の基が「基礎体温表」をつけるということです。最近、不妊治療の現場では、この基礎体温表がないがしろにされており、残念なことです。また、つけることが目的となって、有効に活用していない方もたくさんいます。基礎体温とは、目がさめたらベッドから起き上がる前に測る体温のことです。測るといっても普通の体温計ではなく「婦人体温計」を使います。
私は、基礎体温表つけることは、妊娠を望む人にとって、ほかのどんな検査よりも重要だと感じています。なぜなら、基礎体温表を2〜3か月もつけていると、鏡があなたの姿を映し出すように、基礎体温表があなたの卵巣の状態を映し出しようになってきます。もちろん、排卵の日を予測するという意味でも重要です。基礎体温を測ることは、いわば家庭でできる不妊の検査です。これから不妊治療を受けるという人にも、基礎体温表をつけることをぜひともおすすめします。
基礎体温は毎朝7時に測るものだと思っている人も多いようですが、これも正しくはありません。時間にこだわりすぎと、なにより長続きしなくなります。基礎体温は、起床の直前に測る体温だと思ってください。そして、基礎体温を測ったら、必ず基礎体温表に書き込んでください。
最近ではスマートフォンの中に無数の基礎体温表アプリがありますので、自分が気に入ったものを使うとよいでしょう。スマホの基礎体温表であれば、電車の中などでも気軽にチェックできてとても便利だと思います。一方、紙の基礎体温表は、3〜4ヶ月間が一目で見れるといった長所もあります。いいとこ取りをするのも1つの方法です。
排卵日検査薬で排卵日を知る!
基礎体温表は現在の自分のからだの状態を知るうえでも貴重なデータになります。2〜3か月つけていくことで、おおよその排卵日を知ることもできますが、基礎体温表だけで排卵日を予測することは、難しいことといえます。とくに生理周期が不規則であったり、低温相と高温相の幅が少ない場合などは、予測が困難です。排卵がないといったケースもあります。
そこで、より排卵日を正確に予測するために、私は「排卵日検査薬」を使うことをすすめます。「基礎体温表」と「排卵日検査薬」を組み合わせることで、かなり正確に排卵のタイミングを予測することができます。
女性は排卵日の直前にLHホルモン(黄体形成ホルモン)が急上昇します。この現象をLHサージと言います。いわば排卵は、LHホルモンに促されて起こるのです。排卵はLHサージのあと16時間〜24時間後に起こるとされています。「排卵日検査薬」は、このLHサージを知らせてくれるのです。
排卵日検査薬陽性から回数を増やそう!
さて、セックスのタイミングですが、排卵日検査薬で陽性とでたあと、なるべく頻回にセックスすることがとても重要なことです。頻回とはどの程度のことをいうのでしょうか。私は、可能なら「3日間連続でセックスしてください」とアドバイスしています。
排卵日検査薬で陽性がでた日のみでなく、“なぜそのあとも重要なのか?”、その根拠を述べます。LHサージのピーク時に、排卵日検査薬はもっとも強く陽性反応がでます。しかし、このとき排卵するのではありません。排卵はLHサージのピーク時から16時間〜24時間後に起こるといわれているのです。すなわち陽性反応が強くでた当日より、翌日のほうが妊娠する確率は高くなります。
そして、大切なことは、精子の寿命は3日間、卵子の寿命は12〜24時間ということです。排卵日の前日のセックスでも妊娠に至る可能性があります。ですから、排卵のある前後にできるだけ多くセックスすることが、卵子と精子が出会う確率を高める、すなわち、妊娠する確率は高まるのです。
「卵巣セラピー」は「3つの法則」のかけ算になる
この「3つの法則」によって、多くのカップルが妊娠することは、「不妊ルーム」の経験のみならず、『妊娠レッスン』の読者から、「妊娠しました」メールがたくさん届いたことからも実証されています。
しかしながら、近年のカップル、とりわけ女性の妊活開始年齢の高齢化を考えれば、この「3つの法則」だけで対応できない方もたくさんいるのも事実です。要するに、卵子の老化という壁に突き当たってしまうのです。そして、この卵子の老化に対するアンチエイジングのブレイクスルーとなったのが、これまでこのコラムで、度々述べてきた「卵巣セラピー」です。
「3つの法則」×「卵巣セラピー」は、「自分たちでできること」×「医療機関でできること」の相乗効果(掛け算)を期待することです。こうしたアプローチで、不妊治療、とりわけ体外受精でも妊娠できなかったカップルが、「不妊ルーム」でたくさん妊娠に至っているのは、私にとってもうれしいことです。最近では、40歳以上の女性の妊娠が普通になってきました。