タイムラプス・インキュベーターという、
ちょっと聞き慣れない機器の話をしたいと思います。
タイム(時間)、ラプス(経過)、です。
インキュベーターとは、保温器のことで、
産婦人科領域では、未熟児を育てる保育器がインキュベーターですし、
受精卵を培養する機器もインキュベーターです。
インキュベーターとは、例えて言えば、冷蔵庫ならぬ温蔵庫のようなもので、
小さなシャーレ皿の中で受精卵を培養液ととも育てるわけです。
順調に育っているかどうか、毎日顕微鏡で観察しなければなりません。
そのためインキュベーターの扉を毎日開閉することになります。
1つのインキュベーターの中にはいくつもの受精卵が育てられています。
インキュベーターは卵管内の状態を再現したものですから、
37℃という温度のみならず、酸素、二酸化炭素濃度などが、
厳格にコントロールされています。
しかしシャーレ皿を取り出して顕微鏡で見るわけですから、
受精卵にとってストレス以外のなにものでもありません。
このことが妊娠率の低下につながっているのではないかと、
かねてより危惧されてきました。
冷蔵庫の開け閉めを何回も行えば、
中の食材が十分に冷えないのは容易に想像されるでしょう。
インキュベーターも全く同じで、
できるだけ扉の開閉を少なくすることが、これまでも課題でした。
そこで数年前から登場したのが、タイムラプス・インキュベーターです。
このインキュベーターには、カメラが内蔵されているのです。
しかもシャーレ皿1つにつき、1部屋が与えられていて、
それぞれにカメラが付いており、5分〜10分間隔で受精卵を撮影し、
画像が自動的にハードディスクの中に保存されます。
これによって、いちいちシャーレ皿を外に取り出さなくても、
受精卵が育つ様子がほぼリアルタイムでわかるようになりました。
このタイムラプス・インキュベーターが急速に普及し始めています。
従来のインキュベーターに比べて、妊娠率の向上も報告されています。
これから体外受精で使用するインキュベーターは、
このタイプのものに置き換わっていくだろうと思います。