タイムラプス培養というイノベーション

タイムラプス培養というイノベーション

タイムラプス・インキュベーターという、

ちょっと聞き慣れない機器の話をしたいと思います。

 

タイム(時間)、ラプス(経過)、です。

インキュベーターとは、保温器のことで、

産婦人科領域では、未熟児を育てる保育器がインキュベーターですし、

受精卵を培養する機器もインキュベーターです。

 

インキュベーターとは、例えて言えば、冷蔵庫ならぬ温蔵庫のようなもので、

小さなシャーレ皿の中で受精卵を培養液ととも育てるわけです。

順調に育っているかどうか、毎日顕微鏡で観察しなければなりません。

そのためインキュベーターの扉を毎日開閉することになります。

 

1つのインキュベーターの中にはいくつもの受精卵が育てられています。

インキュベーターは卵管内の状態を再現したものですから、

37℃という温度のみならず、酸素、二酸化炭素濃度などが、

厳格にコントロールされています。

しかしシャーレ皿を取り出して顕微鏡で見るわけですから、

受精卵にとってストレス以外のなにものでもありません。

このことが妊娠率の低下につながっているのではないかと、

かねてより危惧されてきました。

 

冷蔵庫の開け閉めを何回も行えば、

中の食材が十分に冷えないのは容易に想像されるでしょう。

インキュベーターも全く同じで、

できるだけ扉の開閉を少なくすることが、これまでも課題でした。

 

そこで数年前から登場したのが、タイムラプス・インキュベーターです。

このインキュベーターには、カメラが内蔵されているのです。

しかもシャーレ皿1つにつき、1部屋が与えられていて、

それぞれにカメラが付いており、5分〜10分間隔で受精卵を撮影し、

画像が自動的にハードディスクの中に保存されます。

これによって、いちいちシャーレ皿を外に取り出さなくても、

受精卵が育つ様子がほぼリアルタイムでわかるようになりました。

 

このタイムラプス・インキュベーターが急速に普及し始めています。

従来のインキュベーターに比べて、妊娠率の向上も報告されています。

これから体外受精で使用するインキュベーターは、

このタイプのものに置き換わっていくだろうと思います。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)

弘前大学医学部を1987年に卒業後、都内で内科研修を経てドイツ・フライブルク大学病院に留学し、帰国後は東京大学大学院で医学博士号を取得。2004年に「こまえクリニック」を開院し、不妊治療と相談を専門とする「不妊ルーム」を運営。自身も4年間の不妊治療経験を持ち、ストレスケアを重視した診療を行っている。『令和版 ポジティブ妊娠レッスン』(主婦と生活社)をはじめ、不妊治療に関する著書も多数出版している。

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