卵巣セラピー(10)卵巣セラピーと甲状腺ホルモン

卵巣セラピー(10)卵巣セラピーと甲状腺ホルモン

卵巣セラピーにおいて欠かせないホルモンとして、

甲状腺ホルモンがあります。

 

甲状腺は喉仏の下にあるチョウチョウのような形の臓器で、

ここから分泌されるのが甲状腺ホルモンです。

 

甲状腺ホルモンは「元気の源ホルモン」であり、

生理周期にもかかわっています。

ようするに、甲状腺ホルモンが活発に働くと卵子の成熟が早まり、

一般に生理周期は短くなります。

逆に甲状腺ホルモンの働きが少ないと卵子の成熟は遅く、

生理周期は長めになる傾向があります。

 

甲状腺機能低下症の女性に生理不順が多いこと、

排卵障害が多く見られることは以前より知られていました。

 

最近になって、甲状腺ホルモンの値が正常範囲内にあっても、

甲状腺刺激ホルモン(TSH)をより厳密にコントロールすることにより、

質の高い卵子が育ち、妊娠した場合でも、

流産率が低くなることが知られてきました。

甲状腺ホルモンが血中に十分あると、よい卵子が育つのです。

 

これは婦人科医ではなく、内科の先生たちから提唱されてきたことです。

それを婦人科の先生方が受け入れ、不妊診療の現場に取り入れたところ、

妊娠率が向上することが、あちこちの施設から報告されたのです。

 

そこで、「不妊ルーム」でも甲状腺ホルモン製剤を取り入れたのですが、

私の予想以上に妊娠される女性が増えてきました。

さらに妊娠後も甲状腺ホルモンの値をコントロールし続けることは、

流産率の予防につながることもはっきりしてきました。

また甲状腺ホルモンは胎生期の胎児の成長にも重要なホルモンなので、

妊活とは切り離せないホルモンといえます。

 

甲状腺ホルモンは、人間の体の中で造られるホルモンです。

ですから、それを外から加えた場合でも、副作用が出にくいことも、

甲状腺の薬が使いやすい理由です。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)

弘前大学医学部を1987年に卒業後、都内で内科研修を経てドイツ・フライブルク大学病院に留学し、帰国後は東京大学大学院で医学博士号を取得。2004年に「こまえクリニック」を開院し、不妊治療と相談を専門とする「不妊ルーム」を運営。自身も4年間の不妊治療経験を持ち、ストレスケアを重視した診療を行っている。『令和版 ポジティブ妊娠レッスン』(主婦と生活社)をはじめ、不妊治療に関する著書も多数出版している。

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