不妊治療における医療機関の選び方

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コラム

不妊治療における医療機関の選び方

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2023年7月12日

自分にあう病院を探すということ

現在不妊治療を受けられている方の中で「いろいろな検査を受け、そのまま治療が始まって、どんどん進んでしまい後戻りできない方」や「すぐに妊娠できると思ったのに時間や費用が掛かってしまい困っている方」も多いと思います。
そのような“不妊治療”に対して不安や疑問に思う方も多いでしょう。

主に不妊治療を行っているのは、不妊治療専門のクリニックや総合病院、産婦人科となります。産婦人科の場合は、待合室には不妊治療中の方以外に妊娠されている方も通院されます。休日にはカップルで診察に来られる方も増えるでしょう。通い始めた時は周囲の仲睦まじいカップルたちをほほえましく見ることも出来るかもしれません。
「早く自分もそうなれたらいいな」と思えるかもしれません。
しかし、時間が経ち治療が進み通院も頻繁になってくると、楽しそうに順番を待っているカップル達がそばにいてはどうしても心苦しくなってしまうと思うのです。そのような光景に対し、焦りと不安が日を追うごとに増してしまう可能性もあります。そんな時、「なぜ自分は上手くいかないのか」「自分以外の人は次々に妊娠しているのではないか」と考えてしまい、病院に行くのが憂鬱になってしまうのです。
不妊治療専門のクリニック等では産婦人科とは異なり、妊娠している方はほぼ通院されません。
加えて付き添い男性が一緒に来院されたとしても、待合室に入れるのは女性のみのクリニックもあります。もちろん産婦人科では不妊治療を受ける場合、不妊治療から出産まで同じ施設へ受診可能などのメリットがあります。長く通院する可能性も踏まえ、不妊治療を行う前に、セカンドオピニオンを提供してもらえる、ご自身にあった病院を探すことが大切です。そして、そうした産婦人科の医療機関を見つけることができれば、末永くおつきあいできる「かかりつけ医」にできます。

医療機関をチェックするポイント

よい医師・医療機関を見分けるには、どのようなことがポイントになるのでしょうか?
まずは、次に挙げるような要件をいくつ満たしているかチェックしてみてください。

1.不妊治療を担当している医師が複数いる
2.予約制をとっている
3.不妊学級や説明会がある
4.入院設備が整っている
5.ホームページに医療費が明示されている
6.不妊外来が独立している
7.産科がある場合、妊婦と不妊の人が会わなくてもすむ配慮がある

◯の数が少なかった方については、医療機関を変更することも考えたほうがよいかもしれません。ストレスは不妊の大敵です。ストレスがたまるいっぽうの医療機関では、期待した結果を得にくいと思います。改めて今の医療機関がご自身にあっているか、確認してみてください。
あとは
8.医師がよく話を聞いてくれる。
9.医師が検査の結果や治療の経過をきちんと説明してくれる。
ここも医療機関を選ぶ上で重要なポイントです。しかし、くれぐれも「お医者さんまかせ」にしないこと。自分が主体性をもっていることが重要です。

常勤医の数も大事

医療機関を決めるにあたってもう1つ大切な要素、それは「常勤の医師が何人いるか?」ということです。
不妊治療の医療機関は混んでいることが多く、医師1人では対応が困難な状況がほとんどです。単純に医師1人で担当するのか、複数の医師で担当するのかで、1人の患者さんに割ける時間は違ってきます。悲しい話ですが、二人の患者さんを2台の内診台で、1人の医師がほぼ同時に診察するという話を聞いています。自分の内診が終わっても、もう1人の患者さんが内診台で待っているので、質問もできない、医師からの説明もほとんどまったく無かった、と涙ながらに訴えられた患者さんがいました。
そういった思いをしないように、事前に医師の人数を確認することが大切です。ホームページや、あるいは直接医療機関に問い合わせて簡単に確認することができます。この点も大事なチェック項目として覚えておいてください。(ここで医師というのは、常勤の医師と考えて下さい。)

「家の近所、職場の近所で」は危険!

そして、「とりあえず近所の産婦人科の先生に相談してみよう」と考える人が多いと思いますが、
私はここに大きな落とし穴があるように思います。それは、産婦人科医のすべてが、不妊治療医とはいえないからです。現在不妊治療を行っている婦人科の先生は、不妊治療に特化している場合が多いのですが、逆の言い方をすると、婦人科の先生すべてが、不妊治療に精通しているわけではないということになるのです。にもかかわらず、不妊治療を担当している婦人科医が多すぎるのではないか?と、私は常々そう感じています。

・体外受精の医療機関選びはここをチェック!

ここまでは、不妊治療全般における医療機関選びのチェックポイントについて述べてきました。しかし、不妊治療の最終段階ともいえる体外受精の医療機関選びともなると、さらなる厳しい目が必要になってきます。なぜなら、体外受精は医療機関選びがすべてと言っても過言ではないからです。

同じ体外受精を行うのでも、35歳の女性と40歳の女性では、妊娠率が違うのは当然です。とくに女性が40歳を過ぎている場合は、いかに優秀な医療機関を選ぶことが大切か、ということになってきます。
「不妊ルーム」での経験もふまえて、体外受精をする医療機関選びの5つのポイントをお話ししましょう。

1 採血の結果がその日のうちに出る
2 タイミング法、人工授精のオプション的に、「体外受精もできます」、というクリニックは選ばない
3 自然周期採卵・低刺激採卵に力を入れている(hMGの自己注射を行わない)
4 AMHを強調しない
5 保険適用を遵守している

1 採血の結果がその日のうちに出る

一流の医療機関では採血をこまめに行う傾向が顕著です。そして各種ホルモンの採血の結果が、その日のうちに出ることがきわめて重要です。
これを漁師にたとえて説明しましょう。漁に出るときに、今日の天候や風向きを見て漁に出るかどうか判断します。今日の天気を見て、3日後に漁に出る漁師はいません。つまり、「今の状況を知ることが大切」なのであって、「結果がすぐ出る」ことをどれだけ大切にしているか、院内ですぐに結果が出るシステムが整っているかということなのです。

それがないところで体外受精を行っても、安定的な妊娠という結果は期待できないのです。
もちろん、体外受精は緊急性がある手術などとは違いますが、卵子だけでなく、卵巣に働きかけるホルモンの分泌などの状態は、刻一刻と変化しています。体外受精の高い技術を持つ医師は、いってみれば優秀な“エッグハンター”でもあります。そのための重要な情報が、血液からのホルモンの値なのです。その情報をいかに大切にしているかがチェックポイントになります。
また、信頼できる医療機関は、とくに生理3日目(D3といいます)のホルモン値を見て、その場で「今回は行けそうだ」「今回は見送ったほうがいい」と判断します。そして見送るだけでなく「卵巣を休ませたほうがいい」という判断もします。黄体ホルモン製剤を処方して、経過を観察し、その結果、次のD3の結果が改善されれば、体外受精にGOサインを出します。

2 タイミング法、人工授精のオプション的に、「体外受精もできます」、というクリニックは選ばない

理由は明快で、タイミング法と人工授精に力を入れるのは、体外受精に自信、実績がないところが多いのです。
もちろん体外受精をおこなわず、タイミング法と人工授精を行っているクリニックは、この限りではありません。

3 自然周期採卵・低刺激採卵に力を入れている(hMGの自己注射を行わない)

自然周期採卵・低刺激採卵は、体に負担の少ない体外受精です。これができるクリニックは、医師・胚培養士(卵を育てる人)の実力が高いといえるでしょう。
hMGの自己注射とは、卵巣から卵子をできるだけたくさん取るために、卵巣に強い刺激を与える注射で、患者さん自身が行うものです。
私が信頼する体外受精を行う先生はかつて、「体外受精を希望する患者さんを紹介するなら、何もしないでほしい」とおっしゃっていました。「そうすればすぐに妊娠できる」と。
どういうことかというと、体外受精にエントリーして、その治療の過程でたくさん注射をすることにより、妊娠できない体になってしまうと言います。
「不妊ルーム」に相談に来られる方でも、自己注射を含め、hMG製剤を多用していた方は、妊娠に至りにくい印象があります。
体外受精であろうと自然妊娠であろうと、妊娠するためには、「いかにいい卵が排卵されるか(体外受精の場合は採卵できるか)」ということにかかっているのです。
ですから薬剤で強い負荷をかけないほうがいいというのは、考え方として正しいと思います。女性の年齢が高くなればなるほど、残っている卵子を温存するため、卵巣にやさしい体外受精を行わなければなりません。
先ほど述べた、採血の結果がその日に出ない場合、その医療機関では、
刺激法採卵しか行えない可能性が強いのです。
ティースプーンほどの小さな臓器・卵巣を守るためには、注射を頻回に行うべきではないのです。
また、hMGは卵巣にだけ働くわけではありません。血管にも働いて、水分を血管の外に押し出す働きがあります。血管から水分が失われれば相対的に血液が濃縮されるため、血栓(血液の塊)ができやすくなります。
血栓が血流に乗って、もしも頭の血管に詰まったら、脳梗塞となってしまいます。hMGは、医療機関で医師の管理のもとで慎重に行うべき注射です。

4 AMHを強調しない

AMHは、抗ミュラー管ホルモンの略で、卵巣の中に残っている原始卵胞(覚醒前の卵胞)の数の指標とされており、「卵巣年齢」などと言われています。最近では、年齢と並んで、AMHが、体外受精に誘導されるキラーワードになっています。AMHは、数の指標ですが、卵子の質を表すものではありません。また、生理周期による値の変動もみられます。
AMHの値を知ること自体には意味はありますが、この値だけで「体外受精」にステップアップするための理由にはなりません。AMHを含め、数値だけで一喜一憂しないようにしましょう。

5 保険適用を遵守している

保険適用の体外受精を行うことは大切というより、当然です。何よりも本人の経済的負担が3割になるのです。
私は厚生労働省が示した保険適用の体外受精の内容をHPで詳しく精査しましたが、「体外受精で妊娠」という結果を十分に出せる検査・治療内容です。事実、保険適用の体外受精で妊娠したという報告も、私の元にすでにたくさん届いています。
これからは保険適用内で結果が出せるか出せないかで、医療機関の実力が問われることになっていくでしょう。
次のようなメールをいただきました。
「私たちのような所得の低い夫婦にとって、体外受精は雲の上の医療でした。
今回、保険適用になって、体外受精は手を伸ばせば届く医療になりました。主人に問題があった私たちでしたが、体外受精という医療のおかげで妊娠することができました。この巡り合わせに心から感謝しています」
体外受精の保険適用が、必要とされる多くのカップルに希望を与えるものになることを、私も望んでいます。
上の5つのポイントに加えて、開院して5年以上経っていることも医療機関選びには重要です。なぜなら、培養室などの体外受精インフラが安定するためには、5年以上かかるからです。またマンパワーならぬドクターパワーも多いに越したことはありません。

「IVFカウンセリング」をはじめた理由(わけ)

私はカウンセリングをはじめて数年後に、「IVFカウンセリング」を開始しました。
なぜなら体外受精という医療は、経済的、精神的、肉体的な負担が格段に違うからです。
また、体外受精を受けるのであれば、エントリー前に相談に来てほしい
という思いもありました。体外受精を何度かおこなって結果が出ない方でも、
軌道修正をおこない、妊娠された方も多くいます。
IVFカウンセリングを受けたある女性は、
「私はこれまでホームページなどで、体外受精に関することをいろいろ調べてきました。
しかし、今日の先生からのお話は、なにもかもが私の知らなかったことばかりで、
目から鱗が何枚も落ちました。先生のお話はインターネットでは知り得ない情報だと思いました」と感想を述べてくれました。

自分に合った病院を探しましょう

不妊治療に限った話ではないですが、日本人には「病気のことは医者まかせ」という考え方が根強く残っています。しかし、患者さん自身が不妊症について基本的な知識をもつことも必要です。

不妊治療の場合、とくに高度生殖医療にまで進むと、医療費の負担は大きくなり、加えて肉体的、精神的な負担もかかります。医師がすすめるままに高度生殖医療まで進み、あとで後悔するということもなりかねません。本やインターネット、SNSなどを「上手に」利用しながら、「自分の意見をもって医師の意見を聞く」という態度でのぞむことが大切です。

同時に、よい医師を見分ける目を持つこと、必要に応じてセカンドオピニオンを求めることが大切だと考えています。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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