「不妊ルーム」25年を振り返って

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コラム

「不妊ルーム」25年を振り返って

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2024年12月13日

「不妊ルーム」では現在、40代女性が妊娠されることが普通になってきました。しかし、ここに至るまでは、本当に山あり谷ありでした。通院された多くの女性たちにも助けていただきました。「不妊ルーム」は通院される女性たちとともに歩んできたことが大きな特徴です。「不妊ルーム」の四半世紀を振り返ってみたいと思います。

 

「不妊ルーム」開設前夜 – なぜ内科医が不妊に関わったのか?

「不妊ルーム」は今から1999年にスタートしました。そして2000年にホームページを立ち上げ、本格的に不妊相談に取り組み始めました。こうしたアクションを起こしたのは、私自身が不妊治療の患者体験があったからです。その時の悲惨な状況は、今とは比べものにならないものでした。産婦人科の待合室で、妊婦さんと妊婦さんの間に、不妊治療の女性が押し込まれているという感じでした。こうした経験は、医師である私にとって、何か力になれるのではないかという思いが頭の中でもたげ始めたのです。

私の頭の中に2つの疑問ありました。

①不妊に悩む方すべてに不妊治療なるものが必要なのか?

②不妊治療をやめたら妊娠した人が周りにたくさんいるのはなぜか?

私はこの2つの疑問に対して、自分なりの回答を出したいと思ったのです。

そして、クリニックもホームページ(HP)を持ち始める流れの中で、私もHPを立ち上げました。そしてその中に「不妊でお悩みの方へ」という1ページを設けたのです。これが今から振り返れば「不妊ルーム」の原点でした。

 

最初にフォローアップした女性とは

開設してしばらくの間は、不妊に悩まれる女性に最も適切と思われるアドバイスを行っていました。「あなたは、人工授精を行った方が良い」とか、「今のままでも自然妊娠は期待できるのではないか」といったアドバイスをしていたのです。

そしてある時、33歳の女性が、「不妊ルーム」に訪ねてこられたのです。その女性は、半年間のタイミング指導を行った後、人工授精を2回行っても妊娠できないという状況でした。私は、彼女の年齢やこれまでの経過から、「今の治療をこのまま継続することによって妊娠できるのではないか」そういったアドバイスをしたのです。

しかし、彼女は私の言葉を遮るように、「子どもが欲しい気持ちに変わりはありません。しかし、もう私には不妊治療を続ける勇気が湧いてこないのです」とおっしゃったのです。私はこの言葉を聞いて、医師として逃げるわけにはいかないと思いました。

 

インターネット&メールに助けられ

「不妊ルーム」でのフォローアップを開始するにあたって、大変に幸運だったのは、ちょうどその頃にインターネットが急速に普及し始め、HPにメールアドレスがついていることで、本来なら知りようのない遠方の方々とも、簡単にコミュニケーションができるようになったことです。

私は内科医ですから、婦人科の先生に「こんなことを聞いたら恥ずかしい」などといった気後れはまったくありませんでした。また、相談を受けた多くの婦人科の先生は大変にフレンドリーで、私は短期間に急速に知識が増え、スキルアップすることができました。

最初の女性話しを戻します。この女性のフォローアップの相談をすると、ある遠方のドクターは、「重要な検査が抜けています。子宮卵管造影検査を行うべきです」とのアドバイスをいただきました。それで私は、彼女にこの検査を勧め、それが行える医療機関に紹介状を書きました。なんと彼女は卵管造影を行った周期に無事妊娠することができたのです。最初にフォローアップした患者さんに、短期間に妊娠してもらうことができたことで、私は少し自信をつけました。

それからも「不妊ルーム」を訪れる女性の流れは止まりませんでした。その事実は取りも直さず、「妊活」という言葉がなかった時代に、不妊治療というラビリンス(迷宮)の中で迷子になっているカップルが非常に多かったということです。こうした方々にフォローアップを行ったところ、漢方薬を基本として世界で最も使われている不妊治療薬、排卵誘発剤「クロミッド」を併用することで、妊娠される方は着実に増えていきました。こうしたことで不妊に悩む方をフォローアップする体制も、少しずつ整ってきたのです。

 

基礎体温表というコンパス

内科医である私が不妊に悩む方のフォローアップをするにあたって、よりどころとしたのが、当時患者さんがほとんどつけていた基礎体温表でした。私はその基礎体温表の中に検査データや、使った薬を書き込み、一方患者さんの方では生理や夫婦生活などにマーキングしてもらいました。こうすることで、基礎体温表で患者さんの子宮・卵巣の状態が、〝見える化〟されるようになったわけです。一方、患者さんのほうも、「基礎体温をつけることが苦痛でなくなりました」などというコメントをいただくようになりました。基礎体温表こそが妊娠にアプローチするためのコンパスという認識を強く持ちました。

それだけに、現在の不妊治療の現場において、基礎体温表がないがしろにされている現状にとても危機感を持っていますし、「基礎体温表なんてつけなくていいですよ」と言う医師に不信感を覚えます。

基礎体温表はもともとアメリカで発明されたものなのですが、敗戦とともに進駐軍と呼ばれる米国人が日本に持ち込んだのです。そして本国のアメリカでピルが普及し始めると、基礎体温表は急速に廃れていきました。しかしながら、輸入国の日本の婦人科診療の現場で広く用いられるようになったのです。私は基礎体温表という紙をこれからも大切にしてゆきたいと思います。基礎体温表であなたも妊娠にナビゲーションできると思います。

(つづくかな?)

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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