不妊治療とリテラシー

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コラム

不妊治療とリテラシー

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2023年7月26日

「リテラシー」と「アカウンタビリティー」という言葉

ここでリテラシーとアカウンタビリティーという、少し難しい言葉について説明したいと思います。
リテラシーとは、平たく言えば「目利きである」「物事の本質を自分で見極める力がある」ということです。一方、アカウンタビリティーという言葉は、「説明責任」などと訳され、最近だと政治の世界などでもよく耳にするようにもなりました。私がここで、この2つの単語を取り上げるのは、不妊治療を受け、妊娠に至らなかった二人の患者さんから、非常に対照的な経験を聞かされたからです。

グレードの低い受精卵を無断で移植されていたAさん

Aさんはある医療機関で、体外受精にトライしましたが、妊娠に至りませんでした。
体外受精1回当たりの妊娠率は20%強と言われているため、よくあることなのですが、驚くべきことは彼女が不妊治療を受けた産婦人科では、治療開始当初からほとんど治療内容などについての説明がなく、体外受精をおこなうにあたっても、資料を渡され、それを読んで体外受精を受けるかどうか決めろ。と言われただけだったことです。

彼女は体外受精が失敗後、自身で調べたところ、体外受精をおこなう場合には、採卵した卵、受精卵などについて医療機関から、説明を受けているということを知りました。彼女の場合、そうしたことがまったくなかったことに疑問を持ったわけです。

ご主人と相談し、その産婦人科に出向き、2個移植したという受精卵の写真の提示を求めました。すると、医師は「ウチではそんな写真は撮っていない」と一蹴されたそうです。さらに驚いたのは、その移植に際して、受精卵の質についてまったく説明がなかったことです。

最終的にその医師は移植した卵が、グレード4,グレード5だったことを認めましたが、彼女の体外受精においては、説明がまったくないままグレード4,5というほとんどまったく妊娠が期待できない受精卵を移植されたわけです。移植にかかる医療費も請求されています。
このケースにおいて、担当の医師は、アカウンタビリティー(説明責任)をまったく果たしていないといえるのではないでしょうか。さらに、受精卵の写真を撮影しないということは、証拠を残さないということです。
私は彼女の話を聞いて非常に驚いたのを覚えています。

グレードとは

体外受精をおこない、シャーレの中で育った受精卵(=胚)は、ベークの5段階分類がなされます。受精卵の質を、分割卵の形などから、グレード1からグレード5までの5段階に分類します。一般的に、グレード1、もしくはグレード2の胚を移植しないと、妊娠は成立しないと言われています。

妊娠できなくても、十分な説明に納得できたBさん

次のような患者さんの体験を聞きました。
42歳のBさんは、ある医療機関で体外受精をおこない、この方も妊娠に至りませんでした。私はこれまで、9000名をこえる不妊相談を受けてはおりますが、彼女が体外受精を受けた医療機関というのは、正直なところ、初めて聞いた医療機関でしたので、そこでおこなわれている体外受精の数は少ないのではないかと推察しました。しかし彼女の説明を聞いていくうちに、私は驚きというよりも、感動に近いものを覚えました。

彼女の体外受精に関して医師は、紙に図などを書いて何度も説明をしたそうです。また採卵においては、大学病院からアシストの医師を呼んでまで行ってくれたそうです。そして、彼女は医師からうまく受精したという2枚の写真をもらいました。そこには、私の目で見てグレード1,グレード3と思われる2つの受精卵が映し出されていました。さらに、排卵誘発などにおいても、最新の治療薬などを取りよせて使用していました。また料金が非常に良心的なことも印象に残りました。

彼女自身も体外受精は失敗に終わったものの、その医師に対して感謝の念を示していました。私は彼女に、「42歳であれば、排卵誘発をおこなっても卵子を採卵できないことの方が多いのです。その先生は2個採卵し、さらにそれらをグレード1、グレード3の受精卵として、あなたに移植しています。体外受精のどのプロセスも整然とおこなわれており、大変優秀な先生だと思います。」という感想を述べました。
Aさんの例と比べていかがでしょうか?

医師のアカウンタビリティーと患者のリテラシー

体外受精という同じ医療をおこない、ともに妊娠に至らなかったという、同じ結果に終わった2組のケースですが、非常に対象的であり、アカウンタビリティーは、雲泥の差があると言えるのではないでしょうか。体外受精は健康保険診療下でも、移植までいけば、1回当たりの医療費が15万〜20万と高額です。患者に対して、十分なアカウンタビリティーを果たすことは、医師としての当然の義務です。

医師からしっかりとしたアカウンタビリティーを果たしてもらうために、患者側もそれに備えるべくリテラシーを持っておくということが、本当に大切な時代だと痛感しました。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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