よい卵子が育つまでの物語 —卵胞の中で起きていることを知っていますか?—

よい卵子が育つまでの物語 —卵胞の中で起きていることを知っていますか?—

卵子は生まれたときから準備されている

女性の体には、生まれたときすでにたくさんの卵子の「もと」が卵巣の中に用意されています。この卵子の「もと」は、「原始卵胞(げんしらんぽう)」と呼ばれ、思春期を迎えるまでずっと眠った状態で待機しています。

月経が始まる思春期以降、体は毎月この原始卵胞を少しずつ目覚めさせ、「卵胞(らんほう)」という袋の中で卵子を成熟させていきます。そして排卵に向けて1つの卵子だけが選ばれ、妊娠のチャンスへとつながっていくのです。

では、その卵胞の中で、いったい何が起こっているのでしょうか?

卵胞とは? 〜卵子を包むベッドのような存在〜

卵胞とは、卵子を包んでいる小さな袋のようなものです。卵子は、卵胞の中で守られ、栄養をもらいながら、少しずつ成熟していきます。まるで赤ちゃんがママのおなかの中で育つように、卵子もこの「ベッド」の中で育てられるのです。

ひとつの卵巣には、何十万という数の原始卵胞がありますが、毎月その中から数十個程度が目覚め、成長をはじめます。その中で1個だけが最終的に「排卵」される、というのが一般的な流れです。

卵胞の成長段階を知ろう

卵胞は、いくつかのステップを経て成熟します。主なステップは以下の通りです。

  1. 原始卵胞(げんしらんぽう)
    これはまだ眠っている状態の卵胞です。生まれたときに卵巣にあるのは、すべてこの段階の卵胞です。
  2. 一次卵胞 → 二次卵胞
    目覚めた原始卵胞は「一次卵胞」となり、徐々に成長していきます。卵子の周りには「顆粒膜細胞(かりゅうまくさいぼう)」という細胞が増えてきて、栄養を届けたり、ホルモンのやり取りをしたりする役割を担います。やがて「二次卵胞」に進むと、卵胞の中に「卵胞液(らんぽうえき)」がたまり始め、袋が少しずつ大きくなってきます。
  3. グラーフ卵胞(成熟卵胞)
    この段階になると、卵胞は20mm前後の大きさになり、超音波検査でもはっきりと確認できるようになります。これは「成熟卵胞(せいじゅくらんぽう)」、あるいは「グラーフ卵胞」とも呼ばれます。この中にいる卵子が、排卵のタイミングで飛び出してくるわけです。

排卵:卵子が飛び出す瞬間

成熟卵胞まで育った卵子は、やがて「排卵ホルモン(LH)」の合図を受けて、卵巣から飛び出します。これが「排卵」です。排卵された卵子は、卵管へと取り込まれ、そこで精子と出会えば受精する可能性があります。

この排卵のタイミングを見極めることが、妊娠を目指す上ではとても大切です。

ホルモンの働き:卵胞を育てる秘密の指令役

卵胞の成長は、ホルモンの細やかな指令によってコントロールされています。とくに重要なのが以下の2つです。

  • FSH(卵胞刺激ホルモン)
    脳の「下垂体(かすいたい)」という場所から分泌されるホルモンで、卵胞に「さあ、育ってください」という命令を出します。このホルモンが十分に分泌されることで、卵胞は大きく育っていきます。
  • LH(黄体形成ホルモン)
    排卵の直前に急激に増えるホルモンで、「排卵のスイッチ」を入れる役割を担っています。この「LHサージ」が起きてから、およそ24〜36時間後に排卵が起こるとされています。

卵胞がうまく育たないときには?

年齢や体質によっては、卵胞がうまく育たなかったり、途中で成長が止まってしまったりすることもあります。そういった場合は、ホルモン剤などを使って、体の働きをサポートする方法もあります。また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のように、たくさんの卵胞が育つけれど排卵まで至らない、という状態もあります。

ここに「不妊ルーム」の役割があります。女性は、年齢が高くなると卵子の育ちが悪くなりやすく、それはDHEAの不足や、亜鉛-銅バランスが乱れることが関係しています。ですから、こうした女性にDHEAサプリメントを服用してもらったり、亜鉛-銅バランスを微調整することで、質の良い卵子が育ちやすくなります。

また若い女性に多いPCOSも、排卵を促す漢方薬を使ったり、経口の排卵誘発剤を併用することで、妊娠に至るケースをしばしば経験します。

卵胞の中で起きている奇跡

普段は目に見えない卵胞の世界で、毎月1個の卵子が育ち、排卵のチャンスを迎えているというのは、本当に奇跡のようなことです。

妊活をしていると、焦りや不安が先立ってしまいがちですが、自分の体の中で何が起きているのかを知ることで、見方が少し変わるかもしれません。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)

弘前大学医学部を1987年に卒業後、都内で内科研修を経てドイツ・フライブルク大学病院に留学し、帰国後は東京大学大学院で医学博士号を取得。2004年に「こまえクリニック」を開院し、不妊治療と相談を専門とする「不妊ルーム」を運営。自身も4年間の不妊治療経験を持ち、ストレスケアを重視した診療を行っている。『令和版 ポジティブ妊娠レッスン』(主婦と生活社)をはじめ、不妊治療に関する著書も多数出版している。

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