不妊治療の現状と課題

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コラム

不妊治療の現状と課題

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2024年6月24日

不妊カップルの増加

不妊に悩むカップルは確実に増加しています。私が今から22年前に「妊娠レッスン」という本を書いた時は、本の中に、「カップルの10組に1組が不妊で悩んでいます」と記しました。しかしながら、現在では結婚したカップルの4〜5組に1組が不妊で悩んでいると言われています。

その理由は明快で、結婚年齢、妊活を開始する年齢が、年とともに高齢化しているからです。年齢が上がるにつれて、卵子の数は減少しますし、老化もしますので、当然のことながら、妊娠しづらくなります。

しかし、年齢だけが理由ではありません。今、私たちの生活を取り巻く環境にはアミューズメントが溢れているのです。外に出かけなくても、室内でもNetflix・Amazon Primeなどで映画はたくさん見れますし、外に出れば楽しいことがたくさんあります。すなわちカップルにとって、セックスの意味合いが低下してきているのです。「不妊ルーム」に来られるカップルを見ていても、年をおうごとに夫婦生活を持つ頻度は低下していることが顕著です。こうしたことが根本的に解決されないと、なかなか妊娠に結びつかないではないかと私は思っています。妊娠を望むカップルがラビリンス(迷宮)状態になっていることが本当に多いのです。

こうしたカップルが不妊治療のドアをノックするわけですが、不妊治療そのものが年とともに変化しており、正しいドアをノックするとことが難しくなっているのが、今の不妊治療の現場だと思います。

 

不妊治療の成功率

不妊治療の成功率ですが、これを数字で出すのは極めて難しいと思います。まずタイミング法ですが、これは自然妊娠との線引きが難しく、クロミッドなどの排卵誘発剤を使う場合もありますので、正確な妊娠率を出すことはできないのです。またほとんどの医療機関でタイミング法における妊娠率は出していないと思います。タイミング法での妊娠率も年齢と相関します。年齢が高いとタイミング法をスルーする医療機関が多くなります。

次に人工授精ですが、人工授精の妊娠率はおしなべて低く、どの医療機関でも5%〜8%です。私のこれまでの1万人近い「不妊ルーム」での相談経験からでも人工授精の妊娠率の高い医療機関というのは存在していません。人工授精は、もともと診療報酬が低いので医療機関も積極的ではなく、タイミング法同様にスルーしてしまう医療機関も少なくありません。

私は以前よりなんとか人工授精の妊娠率が上昇するイノベーションが出現しないかと願ってはいるのですが、いつまでたってもそうしたものは現れません。人工授精の妊娠率が上昇すれば、不妊治療というものがもっと身軽なものになると思います。

そして、最も注目されるのは、体外受精を始めとする顕微受精などの高度生殖医療における成功率だと思います。よく不妊治療の医療機関等のホームページのトップページなどに、「当院での体外受精の妊娠率は50%」などという数字が記されています。トップページはインパクトがありますから、信じがたい数字を目にするのです。しかし、これらはありえない数字なのです。

成功率というものを少し深掘りして考えると、「妊娠率」と、「生産率」(妊娠が継続して分娩に至る確率)に分けて考えることが重要です。「率」というのは、分子を分母で割ったものです。ですから、何を分母とし、何を分子とするかによって率は当然変わってくるのです。また、妊娠率、生産率ともに年齢と高く相関します。ですから、そうしたことにも注意を向けていなければいけないのですが、ホームページは医療機関の宣伝の色彩が強く、ホームページから正しい情報を読み取ることは難しいと考えてください。

最も信頼できる数字である、日本産科婦人科学会のホームページによれば、体外受精1回あたりの妊娠率は、22〜23%、生産率は15〜16%です。これに年齢を照らし合わせると、40歳女性の生産率は10%、42歳が5%です。これが厳粛な数字です。不妊治療が2022年4月より保険適用となりましたが、体外受精の保険適用が43歳未満と設定されたのは、こうした妊娠率、生産率の数字があるからです。したがって、体外受精の妊娠率が50%の医療機関は存在しないと考えてください。

ですから、43歳以上の女性が高度生殖医療にエントリーしようと思う場合は、医療機関の選択が極めて重要です。そして、たとえ正しい医療機関を選択したとしても、妊娠率は低い事実を受け止め、夫婦でよく話し合って納得した上で、決断することがとても大切です。

不妊治療の費用負担

不妊治療の費用負担ですが、2022年4月からは、人工授精も、体外受精、顕微受精などの高度生殖医療も全て保険適用となりました。しかし、年齢制限が設けられ、40歳未満は移植が6回まで、43歳未満が移植3回まで完全適用となります。43歳以上は自由診療ですから、体外受精などの高度生殖医療の費用は跳ね上がるのみならず、妊娠率は極めて低いのです。

不妊治療が保険適用になったとはいえ、体外受精ともなると、時間的・精神的・肉体的負担が格段に大きくなります。私が心配するのは体外受精によって、多くの女性が働いていることを考えた場合、その大切な時間を奪ってしまうということです。

不妊治療へのアクセス

不妊治療へのアクセスですが、不妊治療はどの医療機関にエントリーするかということが決定的に重要です。

ここ10年間の不妊治療の推移を見てきても、年を追うにエントリーから体外受精までの助走期間が短くなっていました。そして2022年4月から不妊治療が体外受精や顕微受精まで全てが保険適用になったことにより、さらに助走期間が短くなりました。

特に東京においては、不妊治療=体外受精と言ってもよいような状況を呈しています。ですから、不妊治療を考えるにあたって、簡単に不妊治療のドアをノックするのではなく、カップルがしっかりとした「不妊治療リテラシー」を持っていることが何よりも大切なのです。医師の言われるままに体外受精に誘導されて、結果が出ずに「不妊ルーム」に相談に来るカップルが後を絶ちません。

 

「不妊ルーム」では、こうしたカップルに適切なセカンドオピニオンを与えることに重きを置いています。特に痛感するのは体外受精などを行うのであれば、エントリーする前に相談に来てほしいということです。

大切なのは、インターネットなどで得られる知識ではなく、繰り返しになりますが、「不妊治療リテラシー」なのです。私はそうしたリテラシーを皆様方に身につけてほしくて、このコラムを書いているのです。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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