不妊治療シンドロームとは?
不妊治療を受け始めたら、気をつけておかなければならないことがあります。それは夫婦生活を持つということが、子づくりのためだけになってしまいやすいということです。また、不妊治療のステップアップの結果、セックスレスになってしまうカップルもいます。私はこうした状態を、不妊治療シンドロームと呼んでいます。何年間も不妊治療に通っている人ほどこの傾向は顕著になります。
例えばスギ花粉症のシーズン中に「薬が効かなくなった」といって医師のもとを訪れる鼻炎のひとが多くいます。これは、点鼻薬の使いすぎです。このような症状は「点鼻薬性鼻炎」などと呼ばれます。これと同じように、不妊治療を受けて、不妊治療そのものがストレスとなり、さらに不妊症を悪化させてしまうという「不妊治療不妊」の方も多くいます。私もこれまでに不妊治療をやめたら妊娠したという方を多く知っています。これらの方は、もともと妊娠する能力は備わっていたのに、夫婦の歯車がかみあわず妊娠できず、そこに不妊治療がストレスをかけて、さらに状況を悪くしてしまったと考えられます。
タイミング法の落とし穴
不妊治療の初期の段階で、タイミング法による夫婦生活の指導がおこなわれますが、医師はもっとも妊娠する確率の高い日をポイントアウトします。しかしこのことは、ほかの日にセックスするなということではありません。ある女性のお話では、「不妊治療を受けて、長らくタイミング指導を受けているが、ドクターの指定した日にしかセックスをしなくなってしまった。この習慣から抜け出すにはしばらく時間が必要です」と言われます。こういう状況では、妊娠は遠のくと思います。さらに、人工授精まで進むと、この傾向はいっそう顕著になり、体外受精を受けているカップルでは、セックスレスの夫婦も少なくありません。これは、自分たちは人工授精でしか妊娠が期待できず、通常のセックスでは、妊娠はあり得ないという思いこみがあるからです。これは多くの場合、本当に思いこみです。
予想を超えて妊娠したカップル
私があるカップルから相談を受けたことをご紹介いたします。ある男性が20歳の時に、バイクの事故で脊髄損傷をうけ、男性機能が著しくそこなわれ、精液量が通常の1/5~1/10程度になってしまったそうです。幸いなことに、精子の質の問題はなく、計算上は人工授精で妊娠ができるかどうかのぎりぎりの線だと思いました。一方、女性側には不妊に関する問題はありませんでしたので、人工授精も体外受精も行える不妊治療の医療機関を紹介しました。紹介先の医療機関から、近々人工授精をおこないますという返事をもらい、それっきりになっていました。それからだいぶ期間が空いて、ご主人が風邪でひょっこり来院されました。診察のあとでそれとなく、「奥さんはいかがですか?」と尋ねると、「妊娠8ヶ月です」という返事です。それで、「人工授精がうまくいったのですか?」と尋ねると、「あそこの病院には1回行っただけで、そのあとすぐに、自然に妊娠しました」という答えに驚きました。
私は、男性因子(精液検査)が正常で、基礎体温が安定していて、卵管が通っていれば、妊娠はあり得ます。ですから、現在不妊治療を受けているということは、多くの場合、自然妊娠の可能性を否定するものではないのです。このことは本当に大切なことです。
思いこみ症候群も要注意!
また、思いこみ症候群にも、要注意です。一度精液検査を受けて、結果が悪かった男性が、自分は男性機能が劣っているという思いこみを持つ方が多くいます。こういう場合は、悩む前にもう一度再検査を受けることをおすすめします。なぜなら精液検査は体調や、採精の状況によって非常に変動するからです。また、女性の方も、高温期に黄体ホルモンの値を一度測定して値が低いと、黄体機能不全と思いこんでいる方もしばしばいらっしゃいます。黄体ホルモンの値は月経周期とのかねあいで非常に変動します。どのタイミングで採血したのかということがとても重要なのです。また、一度値が悪くても、何回か繰り返して検査を受ける必要があります。
ある医療機関で、卵管の片方が閉塞して、もう一方も通りが悪いといわれていた患者さんがいました。それで、別の不妊の専門医療機関で体外受精を4回おこないました。残念なことに、この医療機関では、子宮卵管造影の設備がありませんでした。それで、私が相談を受けたのですが、もう一度卵管の通過性を確認すべく、婦人科の先生に子宮卵管造影をお願いしたところ、両方の卵管の通過性が確認されたのです。それで、タイミング指導をしたのですが、2ヶ月で妊娠に至りました。この方も、自分は卵管が詰まっているので、通常の妊娠は望めないとずっと思いこんでいたのです。
セックスはふたりで行うものです!
どちらかの一方的な気持ちだけでは、なかなか愛あるセックスとはいえません。
結婚して時間がたつほど、セックスがマンネリになりがちです。
以前、次のようなメールをもらったことがあります。
病院でタイミング法のことを聞いて、主人にも説明しましたが、
やはり「今日、明日、頑張ろうね」と言うのは、互いにプレッシャーになるような気がしました。考えた末、基礎体温表をトイレに貼ることにしました。毎日、さりげなく「今日はこのあたりなんだな」ということが確認できればそれでいいと思っています。だいたいの時期を知った上で、体調が良ければチャレンジし、ダメであれば無理をしない、というスタンスでしばらくやってみようと思います
私はこのメールを読んで、女性側からすれば、言葉にせずともさりげなく伝えられる方法なのかもしれませんが、ご主人からするとプレッシャーになってしまう可能性もあるのではないかと思います。
その日にセックスをしたいと思ったなら、もっと感情的で、人間的なメッセージをストレートに発するのも良いのではないでしょうか。
次に紹介するメールのような自然でよい結果が得られる場合もあります。
満足のいくセックスをすると妊娠率が上がるというご意見はもっともだと思います。
実際、私たちがそうでした。結婚して8年経ちますが子宝に恵まれません。でも一度だけ(結果は流産に終わりましたが)3年前に自然妊娠したのです。その時のセックスがずばり満足のいくものでした。おはずかしい話ですが、友人から借りた女性向けのAVビデオを2人で鑑賞後、普段はない性欲を感じてのセックスでした。そして珍しく粘液の分泌が多かったのです。
私はこのメールを読んで、アダルトビデオと聞くだけで拒否反応を示す女性は少なくないでしょう。しかし映像などで刺激を受けることで、性的興奮が高まることは自然なことです。そして、ふたりきりで楽しめるのですから、よいコミュニケーション・ツールにもなります。最近は、セックスのハウツー本がベストセラーになったりもしています。
セックスによる快感は、その後の妊娠・出産という大事業を女性が成し遂げるための「ごほうび」だという人もいます。楽しんで妊娠できれば、これに越したことはありません。
不妊治療が生むセックスレス
実は、不妊治療を受けている人の中には、治療そのものがストレスになり不妊症をますます悪化させてしまう「不妊治療不妊」の人が沢山います。加えて、不妊治療を受けてセックスレスになってしまうカップルも少なくありません。ホ-ムページ「不妊ルーム」や、カウセリングでも、セックスレスについての相談をたくさん受けます。
不妊治療を続けていると、夫婦生活をもつことが、子づくりの目的のみに行われるようになりやすいということです。このような思考が芽生えると、セックスすることを負担に感じ、セックスそのものを拒否することにつながってしまします。また、そこまでいかなくても、排卵日のみにセックスして、あとはセックスレスになっているカップルもよくいます。
不妊治療においてタイミング法を行う場合、医師はもっとも確率が高い日を指示しますが、何も「ほかの日にセックスしてはいけない」ということではありません。逆に、ほかの日にセックスしないと妊娠の確率は低くなります。これでは、みすみす自然妊娠の可能性を狭めていることになり、何のために治療を受けているか分からなくなります。このような傾向は、何年間も不妊治療に通っている人ほど顕著になります。
不妊治療を休んでみる
前記でお伝えした「不妊治療不妊」やそれに近い状態になったカップルが、そこから抜け出すための有効な方法の1つに、不妊治療を休んでみるというのがあります。
例えば登山に例えると、北壁から登ると険しい登山に見えても、南側に回ると、案外ハイキング感覚で頂上に登れるかもしれません。「不妊ルーム」のモットーは、”不妊治療だけが妊娠に至る道ではない”ということです。
妊娠には、「追いかけると逃げてゆく、忘れた頃にやってくる」性質があります。体外受精を何度おこなっても妊娠できなかったカップルが、漢方薬のみ、それにDHEAサプリメント、亜鉛、銅の血中バランスの調整などをおこなうだけで、妊娠に至るケースをたくさん経験しています。