不妊治療に伴う第三者の存在
不妊治療とは、人が人を望んだ時に、そこに人が介入してくることにほかなりません。そして、その介入してくる人とは、医師をはじめとする第三者です。そのことから、いろいろな問題が生じてくるのだと思います。それは、子供を持つという非常にプライベートなことに、医療というものさしで計測されること、そして、アドバイスを受けることへの違和感などに基づいているのだろうと私は思います。
心と体の負担、不妊治療を取り巻く環境
これまで、3000名を越える方の不妊の相談に応じてきましたので、不妊治療に関するストレス、苦情、苛立ちなど、本当にたくさんの声を聞いてきました。不妊治療を受けている方は、大なり小なり皆さんストレスをため込んでいることは十分知っているつもりです。
しかし、全体的な傾向としては、不妊治療を取り巻く状況、すなわちインフラは少しずつではありますが、改善してきているように思います。皆さん方の苦情に耳を傾けるいっぽうで、私の心の中には、「あなたが経験されたことも大変辛かったでしょうが、私がかつて経験したことはまさに『患者の人格を否定する医療』であり、今は治療を受けるカップルに対してずいぶん配慮がなされるようになってきた」と。私自身、不妊治療のいわば奈落の底まで見てきたという思いがあるからかもしれませんが、これから体外受精に望もうという方に向けては、希望的な要素もお話ししたいという気持ちからでもあります。
それでも、みなさんが視野に入っている体外受精などの高度生殖医療(ART)は、これまでの治療に比べて、精神的、肉体的、経済的な負担は格段に大きくなります。まずはそのことを現実として認識しておかなければなりません。
それでは、そうした医療に立ち向かっていくために、ARTを受けるカップルが準備すべきこと、心得ておくべきことはなんでしょうか? インターネットに首ったけになり、不妊症やART(前半に説明)に関する情報を収集することでしょうか?あるいは、本屋さんへ行って不妊治療に関する本を片っ端から買ってくることでしょうか?私の答えはもちろん「NO」です。むしろ、こうした行動を行えば、かえってストレスを溜め込むことになってしまいます。
不妊症、不妊治療に詳しくなろう
必要最小限の情報はもちろん必要なのですが、私は皆さんにとって必要なものは、情報、知識よりも、知恵、すなわち不妊治療に対する「目利き」になることだと思います。不妊治療の目利き、これからはこれを不妊治療の「リテラシー」と呼ぶことにします。
皆さん方にARTに関する必要な情報を提供するとともに、ARTに挑むためのリテラシーを持てるようになっていただきたいというのが、心からの願いなのです。正しいリテラシーを持たずにARTに挑むことによって、医療不信になってしまったり、あるいは、夫婦関係そのものに悪影響がでてくるということも十分心しておくべきことだと思います。
不妊治療の主役はあくまでも、あなた方二人の夫婦です。医師やスタッフはあくまで仲介者であり、脇役にすぎません。正しいリテラシーを持つことが、自分にとって最良の医療機関を選ぶことにも、不信感や不満を極力抱かずに治療にのぞむことにもつながるのだと、私は思います。