妊活サプリの正しい知識──医師が伝えたい“本当に必要なサプリ”の選び方

妊活サプリの正しい知識──医師が伝えたい“本当に必要なサプリ”の選び方

サプリメントとは何か?食品と薬の違いを理解しよう

サプリメントという言葉は、英語の「サプライ(supply)」──すなわち「供給する」という意味から来ています。補う対象は、私たちの体内で不足しがちな栄養素です。このことからも分かるように、サプリメントは基本的に“食品”の一種に分類されます。薬ではありません。つまり、効果や安全性の裏付けが十分にある「医薬品」とは異なり、個人の判断で購入・摂取できる、あくまで“補助栄養食品”なのです。

ですから、ドラッグストアや通販で手軽に手に入りますし、広告でも“効く”と謳われていることが多いのですが、そこに落とし穴もあります。「誰にとって、どれだけ必要なのか?」という視点を持たずに摂取を続けると、健康リスクを招くことがあります。

日本人の食生活と「本当に不足しやすい栄養素」

日本は四季がはっきりしており、海の幸・山の幸にも恵まれた国です。日常の食事をある程度意識していれば、通常のビタミンやミネラルが極端に不足することは、実はあまり多くありません。妊娠を希望される方も、まずは“食事の基本”を大切にすることが第一です。

しかし、民族的・地理的な背景から、日本人が慢性的に不足しやすい栄養素も存在します。代表的なのが「ビタミンD」です。ビタミンDは日光を浴びることで皮膚で合成されますが、日照時間の短い冬場や、紫外線対策を徹底している方、在宅勤務が多い方は不足しやすくなります。

また、加齢とともに体内で減っていく成分にも注意が必要です。妊娠・出産を望む年齢が上がっている現代、体内のホルモンバランスやエネルギー代謝に関与する物質が不足しがちになり、それが妊娠力に影響するケースも増えています。

医療的な視点からのサプリメントの活用

「不妊ルーム」では、サプリメントを“食品”としてではなく、“治療の一環”として位置づけています。つまり、ただ「なんとなく体によさそうだから」という理由では処方しません。必要かどうかを科学的に判断し、必要な量を適切に摂取していただくために、採血などの検査によって血中濃度を確認しています。

例えば、ビタミンDが不足している方には、具体的な数値をもとに補充量を決定します。また、ミネラルの一つである亜鉛についても、必要であれば、サプリメントではなく、医薬品として処方します。2018年から「亜鉛欠乏症を伴う不妊症」に対してノベルジンという亜鉛製剤の保険適用が認められています。このように、医療としてクスリ、サプリメントを扱うことは、効果と安全性の両立にとってとても重要なのです。

“自己流サプリ生活”に潜む危険とは?

近年、インターネットやSNSでは、「このサプリで妊娠しました!」「○○の栄養素が妊活に効く!」といった情報があふれています。栄養療法に特化した“栄養外来”を名乗る医療機関も増えてきました。その影響もあり、「とにかくたくさん摂ればいい」と誤解している方も少なくありません。

実際に「不妊ルーム」を受診される方の中にも、毎食後に大さじ1杯ほどの“色とりどりのサプリ”を服用している方がいます。その数は10種類以上になることも。ですが、これは決して健康的な方法とは言えません。過剰な摂取は、肝臓や腎臓に負担をかけ、思わぬ副作用を引き起こします。栄養素も“過ぎたるは及ばざるがごとし”なのです。

さらに、サプリメントには相互作用で吸収が妨げられることもあります。個人の体質、病歴、年齢、現在の栄養状態などを無視して摂取するのは、かえって妊活にマイナスとなるリスクがあるのです。

本当に必要な妊活サプリとは?

では、妊娠を望む女性にとって、医学的に意味があるとされるサプリメントにはどのようなものがあるのでしょうか?

当院で特に重視しているのは、ビタミンDとDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)です。ビタミンDは、免疫や骨代謝だけでなく、卵巣の機能にも関与することがわかっており、血中濃度が低いと着床率が下がる可能性があります。

DHEAは、副腎で作られるホルモンの一種で、加齢とともに体内量が減少します。近年の研究では、DHEAの補充が卵子の質を改善する可能性が示唆されています。ただし、これはあくまで医師の管理下で、ホルモン値を確認しながら使用する必要があるサプリメントです。

さらに、男性においては亜鉛が重要です。精子の形成や運動率にも関わる栄養素であり、明確な欠乏がある場合には、サプリメントではなく保険適用の薬で対応しています。

サプリメントは医師による「管理」が鍵

妊活におけるサプリメントの活用は、自己流ではなく、医師と相談しながら“根拠ある使い方”をすることが何よりも大切です。単なる気休めやネット情報ではなく、科学的な検査に基づいて、体に本当に必要なものを、適切な量だけ補う──それが、安全で効果的なサプリメントのあり方です。

もし「何を飲んだらいいのかわからない」「今のままで大丈夫なのか不安」と感じておられる方は、「不妊ルーム」にご相談ください。あなたに必要な栄養素を、医学的根拠をもとに提案いたします。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)

弘前大学医学部を1987年に卒業後、都内で内科研修を経てドイツ・フライブルク大学病院に留学し、帰国後は東京大学大学院で医学博士号を取得。2004年に「こまえクリニック」を開院し、不妊治療と相談を専門とする「不妊ルーム」を運営。自身も4年間の不妊治療経験を持ち、ストレスケアを重視した診療を行っている。『令和版 ポジティブ妊娠レッスン』(主婦と生活社)をはじめ、不妊治療に関する著書も多数出版している。

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