妊活にはNBMが有効かつ重要!

妊活にはNBMが有効かつ重要!

ナラティブ・ベースド・メディスンとは? Narrative-Based Medicine:NBMをご存じでしょうか?「narrative」とは、もともとは「物語」や「語り」という意味の英語です。通常の医療(エビデンス・ベ […]

ナラティブ・ベースド・メディスンとは?

Narrative-Based Medicine:NBMをご存じでしょうか?「narrative」とは、もともとは「物語」や「語り」という意味の英語です。通常の医療(エビデンス・ベースド・メディスン:EBM)は、検査結果やデータに基づいて診断・治療を進めていきます。

医療分野での「ナラティブ」は、患者さんやクライアントの「語り」、つまりその人自身の体験や感情、考え方を重視する姿勢のことです。ですからNBMは、患者の物語に耳を傾ける医療のことです。人の体や心は複雑ですから、数字だけでは見えない、その人ならではの「背景」や「思い」があるはずです。

そこで「不妊ルーム」では、こう考えます。患者さん一人ひとりが、妊活とどう向き合ってきたか、その“語り”に耳を傾けることで、その人に合った医療が見つかると思います。

同じ「不妊症」という診断でも、ある人は「とにかく妊娠したい」、別の人は「体への負担が心配」、さらに別の人は「パートナーとの関係がつらい」など、それぞれ違うストーリー(ナラティブ)を持っています。医師や医療従事者が、その「語り」に耳を傾けることで、その人にとってよりよいサポートが見つけやすくなります。

振り返れば「不妊ルーム」では、開設当初よりこのNBM的なアプローチをおこなっていると思います。それは当院に相談に来られる方には、事前に結婚からこれまでの経過や、不妊治療に対する希望を、A4の紙に書いてまとめてきてもらいます。私はこれを含めた問診票に基づいて相談に応じています。ですから、カップルの全体像を把握しやすいのです。

妊活には、「その人の人生、カップルの価値観」が強く関係します。だからこそ、EBMだけでは見えない“語り”を聴く姿勢=NBMが本当に大切です。では、NBMを「不妊ルーム」のケースで説明します。

ケース①:治療を繰り返しても妊娠できない女性のケース

状況:30代後半の女性。タイミング法から、人工授精ステップアップし、人工授精を4回くり返しても結果が出なかった。医師から「年齢的にも次のステップを急ぎましょう」と体外受精を提案されました。

EBM的アプローチ:年齢、AMH(卵巣年齢)、ホルモン値のデータに基づいた判断でもあり、科学的(EBM的)に妥当な判断でしょう。

彼女のナラティブ:何度もの人工授精で体調を崩し、心がボロボロになっていた。パートナーとの関係もぎくしゃくし、「もう限界かも…」と感じていた。実は「一旦休んで、体と心を整えたい」と思っていたが、言い出せずにいた。

NBM的アプローチ:治療成績の数字だけでなく、「不妊ルーム」のカウンセリングで彼女の語りに耳を傾け、「つらい気持ちを我慢して続けていたんですね」「少し立ち止まって考える時間も、大切かもしれませんね」と伝える。

結果:彼女は不妊治療を休み、カウンセリングや卵巣セラピーで妊娠しやすい体づくりに専念。数ヶ月後、漢方薬+タイミング法で妊娠に至る。

ケース②:パートナーの温度差に悩む女性のケース

状況:40歳女性。自分は妊活に積極的だが、パートナーが「自然でできなければ仕方ない」と非協力的。クリニックに通っても、夫は一緒に来てくれない。

EBM的アプローチ:年齢的理由から早期の体外受精を提案され、治療のほとんどが彼女一人でも進められると言われる。

彼女のナラティブ:子どもが欲しいのは「夫婦の人生の物語の一部」だと思っていたのに、夫は「他人事」のように感じられて、孤独や不安が募っていた。

NBM的アプローチ:「ご夫婦でどんな未来を思い描いていますか?」と問いかけ、「わかりません」という返答を受け、夫に来院してもらう機会をつくる。

結果:夫は「妻がこんなにも悩んでいるとは知らなかった」と理解を示し、通院に協力的になる。2人の気持ちが揃ったことで、妊活にも前向きな気持ちに変化が見られた。

さいごに

こまえクリニック「不妊ルーム」は医療機関ですから、クスリはもとより、サプリに至るまでEBMに則った医療をおこなっています。しかし、EBMだけでは妊活の全体像は見えないと私は考えています。それでNBM的なアプローチが必要だと痛感するのです。

2階建ての家で例えるならば、1階がEBMで、2階がNBMだと考えるとわかりやすくないでしょうか。家の1階だけで物事を解決しようとせずに、2階に上がってみることも妊活ではとても大切なのです。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)