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黄体機能不全と多嚢性卵巣症候群(PCOS)

黄体機能不全と多嚢胞性卵巣症候群の
治療と高まる妊娠率

黄体機能不全について

黄体機能不全というのは、不妊に関して悩みを抱える方の中に少なくない病気のひとつです。黄体は、からだの体温を上昇させ、妊娠を継続させる上で大切なはたらきをするホルモンであり、妊娠のメカニズムと密接な関係があります。

卵巣の中で卵が成熟し、卵胞の直径がおよそ20mmになると排卵が起こります。排卵後に卵胞が変化することで、黄体へと変わります。黄体には黄体ホルモンを分泌すするはたらきがあり、これにより女性の体温を上昇させ、妊娠が行われやすい子宮内環境を作り上げていきます。

ここからは黄体機能不全の治療についてみていきましょう。かつての黄体機能不全の治療においては、黄体ホルモンを注射や経口薬等で補う形で行う一般的でした。ですが近年、治療する上での考え方に変化がおきつつあります。黄体機能不全はそもそも卵胞の発育や卵子の排出において何らかが阻害されているケースが基本のため、黄体自体に問題が起きているわけではないことが多いのです。

したがって、黄体機能不全の治療方法として、ただ単純に黄体ホルモンを補うよりも、排卵誘発剤を用いての卵子排出を促進する方法をとったほうが、妊妊娠には効果的であるケースも多く見られます。

黄体機能不全にかかっている患者さんの場合、黄体期(高温期)が短くなったり、月経周期が短くなったりする傾向にあります。現状、この病気に関する診断基準には明確ではない部分があるのは否めません。ですが、黄体機能不全にかかっている患者の方の数が少なくないのは間違いないと見られています。

黄体機能不全は、各患者さんの状況にもよりますが、治療を行うことで改善が見られやすい病気です。そのため不妊原因としては「早期妊娠にいたりやすい」と言ってもよいでしょう。

また症状に関しては比較的分かりやすい部類に入るため、病院等へ相談するよりも前に、ご自身で「もしかして自分は黄体機能不全ではないか?」という疑問を持つことも可能となります。基礎体温表を見た際、もし以下のような傾向にあるようなら、黄体機能不全を疑ってみるほうがよいかもしれません。

  • 1)基礎体温表の高温期が10日よりも短い場合
  • 2)低温期と高温期の平均体温差が0.3℃よりも低い場合

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)について

なかなか妊娠できずに悩む方がかかえていることが少なくない病気として、多嚢胞性卵巣症候群も考えられます。この病は、排卵障害に分類されるもののひとつです。女性の体内において卵子というのは、卵巣内で成熟し排出されていくのですが、多嚢胞性卵巣症候群の場合、ホルモンバランスの影響で卵巣の外膜が硬くなっている等の要因で排卵できない状況となります。

この病気についてご説明する上で、金魚鉢と中にいる一匹の金魚をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。金魚鉢が卵巣で、金魚の口から出た1つの泡が卵胞です。泡は水面に向かって上昇しつつ大きくなり、水面に達したところではじけるように消滅します。これが排卵にあたる現象のようなものです。多嚢胞性卵巣症候群においては、ぽっと泡が出て、だんだん大きくなるところまではしっかり行われています。ですが外との連絡通路となるはずの“水面”にあたる部分が油膜のようなもので覆われており(卵巣の場合、膜の表面が硬化しているような形)、外へと出ることが不可能になってしまっています。超音波検査で多嚢胞性卵巣症候群にかかっている患者さんの卵巣を確認すると、卵巣に球体のような空洞(嚢胞)状の部分が並んでいる様子が見られます。産婦人科の先生は、これを「ネックレスサイン」と呼んでいるのだとか。

発症に関係している現象として、男性ホルモンの分泌に関する異常があると考えられています。またこの病にかかっている時であっても、変わらず脳からは指令が出ていますので、排卵を促進するはたらきがあるホルモン(LH/黄体化ホルモン)の分泌が促されることとなります。各ホルモンの検査としては、毎月の生理開始後2~5日目頃に行う検査があります。この際に計測された値のことを「基礎値」と呼びます。通常時の基礎値では、黄体化ホルモンよりも卵胞刺激ホルモン(FSH)のほうが多く分泌されている形です。ですが多嚢胞性卵巣症候群にかかっているとその比率が逆になり「FSH<LH」という結果が見られる傾向にあります。

多嚢胞性卵巣症候群にかかっている患者さんの傾向として、肥満気味の方に多いと言われています。ほかにも体毛の増加、声の低音化、基礎体温の乱れ、月経の不順等の減少も見られます。ですが発症は肥満気味の方だけに限らず、痩せ気味の女性への発症も確認されていますし、多毛をはじめとする代表的な症状が全く見られないのにもかかわらずこの病気にかかっている方も少なくありませんから、気を付けなければなりません。

多嚢胞性卵巣症候群の治療方法として、初期には経口もしくは注射による排卵誘発が行われます。ですが、体は常に排卵させるべくはたらいているわけですから、排卵誘発剤を使用すると、通常時よりも卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が発症しやすい状況になります。

他に外科的な治療のやり方として、腹腔鏡治療も存在します。これは腹腔鏡で腹部内を観察しつつ、卵巣の表面に穴をあける処置を行うことで排卵へと導くものです。どの治療方法が合うのか、医師へと相談してみるのがよいでしょう。

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院

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