高度生殖医療に進んだのに結果が出ない——そのとき、どうするか?
「体外受精まで進んだのに、なぜ妊娠できないのか…」
「年齢的にも、もう限界かもしれない…」
不妊治療が長引き、体外受精までステップアップしたにもかかわらず結果が出ないとき、多くの女性がこうした思いに直面します。費やした時間、かけた費用、受けた身体への負担、そして希望。それらすべてが結果につながらなかったとき、深い喪失感が押し寄せます。
しかし、そんなときこそ立ち止まり、「今、自分の治療は本当に正しい方向に進んでいるのか?」と問い直すことが極めて重要です。とくに体外受精においては、医療機関によって治療成績や方針に大きな違いがあるため、「どこで治療を受けるか」が、妊娠の可否を左右することもあるのです。
今回は、40歳のYさんの治療経過をもとに、「治療の方向性を見直すべきサイン」と「転院の必要性」についてお伝えします。
Yさんのこれまでの治療
Yさんは半年間のタイミング法から不妊治療を始め、次に人工授精を4回実施。その後、同じクリニックで体外受精に進みました。排卵誘発には「ショート法」を用い、卵胞は8個育ちましたが、採卵できたのはわずか2個。さらに、いずれの受精卵も胚盤胞まで育たず、移植には至りませんでした。
検査では、AMHは0.62と低く、卵巣の予備能は低下していると考えられましたが、生理周期は安定しています。
見えてきた問題点と現在の課題
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採卵数が極端に少ない
成熟卵胞が8個育っていたにもかかわらず、実際に採れた卵子は2個。これは採卵率として非常に低く、誘発のタイミングが合っていなかったか、排卵前の成熟管理が不適切だった可能性があります。これらは、医師の判断やクリニックの技術に大きく依存する部分です。 -
胚の発育がうまくいかない
採れた卵子が胚盤胞まで育たなかった背景には、卵子の質だけでなく、精子の状態、培養環境、胚培養士の技量など、複合的な要因が関わっています。特に、胚の発育は「培養技術の差」が出やすい部分であり、施設間での技術格差が妊娠率に直結するのです。
体外受精は「どこで」行うかが結果を左右する
タイミング法や人工授精の段階では、治療施設による差はそれほど大きくありません。しかし、体外受精では事情が一変します。治療戦略の立て方、排卵誘発の選択、採卵・培養の技術、胚移植のタイミング——これらすべてが高度な判断を要するため、クリニックごとの「力量の差」が如実に出ます。
Yさんは、タイミング法を受けていたクリニックでそのまま体外受精までステップアップされましたが、この“流れに乗ったままのステップアップ”が、実は妊娠への遠回りになってしまっているケースが多いのです。
「治療方針の再構築」と「転院」の必要性
この段階で必要なのは、「これまでの治療は妥当だったのか?」「今後はどんな選択肢があるのか?」を、まったく別の視点から見直すことです。その意味で、セカンドオピニオンは極めて有効です。しかし、さらに踏み込んで「医療機関自体を変える」——つまり、転院を検討することが、妊娠に近づくための本質的な一手となることも少なくありません。
Yさんに提案した「次の一手」〜転院を見据えた戦略〜
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排卵誘発法の再検討
現在のような「ショート法」による強い刺激は、卵巣に負担をかけるだけでなく、良質な卵子が採れるとは限りません。Yさんの場合、40歳という年齢を考えれば、低刺激法や自然周期採卵によって、卵巣にやさしく、質の高い卵子を目指す治療の方が適していると思います。 -
卵子の質を高めるための補助療法
「不妊ルーム」では卵巣セラピーに力を入れています。卵巣セラピーとは、漢方薬に加え、甲状腺ホルモン、ビタミンD、ミトコンドリアの機能を高めるサプリメント、亜鉛、銅などの微量元素のバランスを整え、卵巣をいたわり、良好な卵が育ち、着床しやすい環境を作る治療です。
「転院」は“最終手段”ではなく“新たなスタート”
転院は「今のクリニックではもう限界だ」と諦めてするものではありません。むしろ、「妊娠にたどりつくための確率を上げるために、最も合理的な選択をする」という、前向きなステップです。
「医療機関を変えたら、すぐ妊娠できた」というケースは、実際に多数あります。これは、施設によって治療技術・設備・チームの力量に大きな差があることの証です。「不妊ルーム」は、1万組近いカップルの相談経験から得られた「不妊治療マップ」をもとに、医療機関に関しても、いろいろとアドバイスをおこなっております。
あなたの妊娠率は、医療機関選びで変わる
不妊治療において、「どこで、どう治療するか」は非常に重要な要素です。とくに体外受精では、医療機関によって妊娠率に差があるのが現実です。
いま結果が出ていないのなら、それはあなたの体の限界ではなく、治療方針と医療技術の限界かもしれません。
- 今のクリニックで続けるべきか
- 他の施設の意見を聞いてみるべきか
- 転院することで、もっと妊娠に近づけるのではないか
迷ったときこそ、冷静に治療を“俯瞰”して見つめ直しましょう。転院は、妊娠への扉を開く勇気ある選択肢です。