「私、体質を改善したいんです。だから漢方薬を出してください」
「不妊ルーム」にこられる女性の中には、こうした相談をされる方が少なくありません。どうやら漢方薬とは、妊娠しやすい体に体質改善してくれる“魔法の薬”のように認識されている節があります。
もちろん、そうしたイメージがまったくの誤解というわけではありません。ただ、私自身が日々の診療で感じている漢方薬の役割は、少し違います。「体質改善」というより、「体の土台づくり」という表現のほうがしっくりきます。
漢方薬が担う“土台づくり”
不妊治療において、卵子の質を高めることは非常に重要です。良質な卵子を育てるためには、卵巣そのものの元気が不可欠です。その卵巣を元気にするために、まず必要なのが、身体全体の基礎的な状態——つまり“土台”を整えることです。
この“土台”がしっかりしていないまま、DHEAサプリメントや、亜鉛-銅のバランスを整える治療、甲状腺ホルモンなどを服用しても、思うような効果は得られません。そこで登場するのが漢方薬です。私は、漢方薬を通じてまず身体を立て直すことで、ほかの薬やサプリメントの効果が発揮されると考えています。
“体質改善”ではなく“体調の地ならし”
漢方薬に長期間服用が必要というイメージを持たれる方もいます。「1年も2年も飲み続けなければならないのですか?」という質問もよく受けます。しかし私自身は、漢方薬を“何年もかけて体質を変えるもの”とは考えていません。
むしろ、服用した周期に効果が現れ、実際に妊娠される方も珍しくありません。また、服用して2〜3ヶ月たっても検査所見に改善が見られない場合は、次の漢方薬へ切り替えます。データを見ながら効果を判断し、調整を加えるのが「不妊ルーム」の基本スタンスです。
ファンデーションのような存在
私は男性ですから化粧はしませんが、漢方薬は化粧品でいえば「ファンデーション」に近い存在だと感じています。肌を整えてからメイクを施すように、身体の状態を整えてから次の治療ステップへと進む——そんなイメージです。
土台が整っていなければ、いくら高価な化粧品を使っても、その効果は半減してしまうでしょう。同様に、身体の基盤が整っていない状態で、サプリメントやホルモン療法を行っても、思うような成果は得られません。漢方薬はまさに、その“整える役割”を担っているのです。
数値で確認する「変化」
「不妊ルーム」では、漢方薬の効果を女性の感覚で判断するのではなく、血液検査のデータで数値としてしっかり確認していきます。これは非常に大事なポイントです。検査を通して、ホルモンバランスの推移を追跡し、効果を見極めます。
つまり、「体感にたよる漢方薬」ではなく、「データに基づいた戦略的な漢方活用」こそが、「不妊ルーム」のスタイルなのです。実際、妊娠される方は、こうしたホルモンバランスが良好な周期に妊娠されるケースが多く、日々その有効性を実感しています。
「不妊ルーム」に欠かせない存在
このように、漢方薬は「体質を根本から変える」ことを目指すものというよりは、「身体を整えていく」ことに力を発揮します。
私たちが目指しているのは、西洋医学一辺倒ではなく、東洋医学の知恵を融合させた“ハイブリッド型”のアプローチです。その意味で、「不妊ルーム」にとって漢方薬は欠かせないのです。「不妊ルーム」では、これからも漢方薬を大切な治療の一環として取り入れていく方針です。〝漢方薬なしの「不妊ルーム」はない〟そう言い切っても過言ではありません。