「奇跡ですね!」と思わず口にした妊娠報告
40歳のTさんが、体外受精で妊娠されました。
妊娠の報告を受けた時、私は思わず「奇跡ですね!」と言いました。
するとTさんも「私もそう思います」と笑顔で答えてくださいました。
それには、以下のような理由があります。
今回のケースは、「卵巣を守ること」の重要性を改めて教えてくれる出来事でした。
不妊治療に積極的ではなかったTさん
Tさんが初めて当院に来られたのは3年前です。
お子さんを望む気持ちはあるものの、不妊治療に対しては積極的ではありませんでした。
そのため、まずは「不妊ルーム」で、生活習慣や栄養、ストレスケアを含めたフォローアップを続けていました。
しかし、なかなか妊娠に至らず、人工授精へステップアップすることになりました。
hCG注射後にFSH95.5へ急上昇
ところが、ここで大きな問題が起きました。
人工授精の際、排卵を促すためにhCG注射を行ったのですが、その後の検査でFSHが95.5まで跳ね上がってしまったのです。
FSHとは、卵胞を育てるために脳から分泌されるホルモンです。
卵巣機能が低下すると、脳は「もっと頑張れ!」と卵巣を強く刺激しようとするため、FSHが高くなります。
つまりFSHが高いということは、卵巣が疲弊しているサインなのです。
一般的に40歳前後でFSHが15でも、決して楽観できる数字ではありません。
しかし95.5という値は、閉経後女性、場合によっては70代女性にみられるレベルです。
この結果を見た時、私は「これ以上、卵巣を刺激してはいけない」と判断し、人工授精を中止するようアドバイスしました。
卵巣は“機械”ではない
不妊治療では、「早く結果を出したい」という気持ちから、どうしても刺激を強めた治療に進みたくなります。
しかし、卵巣は“機械”ではありません。
無理に働かせれば、さらに疲弊してしまうことがあります。
私は以前から、「妊娠率を上げるためには、まず卵巣をいたわることが大切」と考えてきました。
Tさんのケースは、まさにそれを象徴していました。
“攻める治療”から“守る治療”へ
そこで私は、“攻める治療”ではなく、“卵巣を守る治療”へ方向転換しましょうと言いました。
DHEAサプリによるホルモン環境のサポート、亜鉛と銅のバランス調整、漢方薬による血流改善など、いわゆる「卵巣セラピー」を「不妊ルーム」で地道に続けたのです。
卵巣はとても繊細な臓器です。
ストレス、睡眠不足、栄養不足、冷え、慢性的な炎症など、さまざまな影響を受けています。
そして、卵巣が疲れている時に強い刺激を加えると、ますます反応が悪くなることがあります。
逆に、卵巣を休ませ、血流を改善し、細胞レベルの環境を整えることで、卵巣機能が回復してくるケースもあるのです。
FSH20以下まで改善
Tさんは決して派手な治療をしたわけではありません。
しかし、コツコツと身体を整える努力を続けられました。
その結果、FSHは徐々に低下し、20以下まで戻ってきたのです。
この時点で、私は体外受精を提案しました。
体外受精で本当に大切なのは「卵子の質」
体外受精というと、「たくさん卵子を採ること」が大切と思われがちです。
しかし、本当に重要なのは“数”ではなく“質”です。
卵子の質が良好であれば、少ない卵子でも妊娠につながることがあります。
一方、卵巣を無理に刺激して数だけ増やしても、良い結果につながらないことも少なくありません。
Tさんは、体外受精で良好な卵子が採れました。
そして胚移植もうまくいき、妊娠に至ったのです。
この経過を振り返ると、「卵巣をいたわること」が、結果的に妊娠への近道になることを実感します。
不妊治療は“身体に耳を傾ける医療”
私は、不妊治療とは単に「妊娠させる医療」ではないと思っています。
女性の身体を守りながら、未来につながる妊娠を目指す医療であるべきです。
卵巣に無理をさせ続ければ、治療そのものが女性を苦しめてしまうことになります。
特に40歳前後になると、「時間がないから急がなければ」と焦りや不安が強くなります。
しかし、焦って卵巣を酷使することが、逆に遠回りになることもあります。
だからこそ「不妊ルーム」は、「卵巣をいたわる」という視点を大切にしたいのです。


