「亜鉛は男性のため」というイメージは間違いです
「亜鉛」と聞くと、「牡蠣を食べると精力がつく」「男性の精子を元気にするミネラル」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
確かに亜鉛は精子の形成や男性ホルモンの働きに欠かせない栄養素です。
しかし近年の研究によって、亜鉛は男性だけでなく、女性の妊娠力を支える極めて重要なミネラルであることが明らかになってきました。
特に卵子の成熟や受精、その後の胚の発育にまで深く関わることが分かり、妊活において最も注目すべきミネラルの一つとなっています。
「不妊ルーム」でも、私は亜鉛を卵巣を元気にするための重要な栄養素として位置づけています。
卵子は体の中で最も亜鉛を必要とする細胞です
実は人体の中で最も多く亜鉛を蓄えている細胞は卵子です。
卵子は排卵までの長い年月をかけて成熟しますが、その過程で大量の亜鉛を必要とします。
亜鉛は細胞分裂やDNAの合成、タンパク質の合成、抗酸化作用など、生命活動の根幹に関わる働きを担っています。
そのため亜鉛が不足すると、卵子が十分に成熟できず、受精する力やその後に育つ力まで低下する可能性があります。
つまり、妊娠できるかどうかは、卵子の数ではなく、卵子の質であり、どれだけ生命力が蓄えられているかが重要です。
そして、その生命力を支える栄養素が亜鉛なのです。
体外受精が教えてくれた「亜鉛スパーク」
体外受精の研究から、非常に興味深い現象が発見されました。
精子が卵子の中へ飛び込む瞬間、卵子から大量の亜鉛が一気に放出されるのです。
この現象は「亜鉛スパーク(Zinc Spark)」と呼ばれています。
まるで花火が打ち上がるように亜鉛が放出される様子が特殊な顕微鏡で観察され、世界中の研究者を驚かせました。
さらに重要なのは、この亜鉛スパークが大きい受精卵ほど、その後の細胞分裂が順調に進み、良好な胚へ発育し、妊娠率も高いことが分かったことです。
つまり、受精の瞬間に十分な亜鉛を放出できる卵子ほど、本来持っている生命力が高いと考えられています。
卵子は受精の瞬間に、自ら蓄えてきた亜鉛を使って新しい命のスタートを切っているのです。
この発見は、「卵子の質」を考える上で、亜鉛が欠かせないことを科学的に証明した画期的な研究でした。
「不妊ルーム」で見えてきた亜鉛欠乏という落とし穴
2018年には、「亜鉛欠乏症を伴う疾患」に対する治療薬であるノベルジンが保険適用となり、医療現場でも亜鉛欠乏が注目されるようになりました。
そこで「不妊ルーム」でも通院されている女性の血液中の亜鉛濃度を測定してみたところ、驚くほど多くの方が亜鉛不足であることが分かりました。
特に、食事には気をつけている方や健康意識の高い方でも不足しているケースが少なくありませんでした。
亜鉛は体内で作ることができず、毎日の食事から補給しなければならない栄養素です。
しかし、ストレス、胃腸の不調、偏った食事、ダイエット、加齢などによって不足しやすいことも知られています。
そのため、自分では十分摂取しているつもりでも、実際には欠乏している方が少なくないのです。
ノベルジンで妊娠される女性が増えています
「不妊ルーム」で、亜鉛欠乏が確認された女性にノベルジン補充を開始したところ、妊娠される方が次々と現れました。
もちろん妊娠は亜鉛だけで決まるものではありません。
しかし、卵巣が本来持っている力を引き出すためには、必要な栄養素が十分に満たされていることが大前提になります。
特に印象的だったのは、40歳以上の女性でも妊娠例が増えたことです。
一般的には年齢とともに卵子の質の低下が心配されますが、必要な栄養を補い、卵巣の環境を整えることで、本来の力を取り戻せる可能性があることを、私は日々の診療で実感しています。
亜鉛は「卵巣セラピー」のセンター
人体で最も多い必須微量元素は鉄ですが、二番目に多い元素が亜鉛です。
亜鉛は味覚や嗅覚を正常に保ち、皮膚や粘膜を健康に維持し、免疫機能を支え、傷の治癒を促し、300種類以上の酵素の働きを助けています。
つまり、妊娠だけではなく、女性の健康そのものを支える非常に重要なミネラルなのです。
私は妊活を「赤ちゃんを授かるためだけの活動」とは考えていません。
女性自身が健康になり、卵巣が元気を取り戻し、その結果として妊娠しやすい体質へ変わっていくことが本来の妊活だと考えています。
その考え方の中心にあるのが「卵巣セラピー」です。ビタミンD、甲状腺機能、漢方薬、DHEAなどと並び、ノベルジンによる亜鉛補充は「卵巣セラピー」のセンターです。
卵子は毎月新しく作られるものではありません。
何か月もかけて大切に育てられています。
その卵子を健やかに育てるために、自身の体の中に十分な亜鉛があるかどうか一度チェックしてみませんか。


