人工授精の妊娠率は低い。でも「使い方」で価値は変わる
人工授精(AIH)と聞くと、「妊娠率が5〜8%と低い」「やっても意味がないのでは」と感じる方が少なくありません。
確かに、体外受精と比べれば妊娠率は高くありません。
しかし私は、人工授精は“やる価値のない治療”では決してないと考えています。
むしろ、考え方次第ではコストパフォーマンスの高い治療です。
現在、人工授精は保険適用となり、自己負担は3割で約5,460円。
年齢制限も回数制限もありません。つまり、身体的・経済的な負担を抑えながら、妊娠の可能性を上げることができる治療なのです。
妊娠は確率の積み重ねです。
一回一回の妊娠率だけを見て切り捨ててしまうのは、少しもったいないと思います。
人工授精は「タイミング法を強化する治療」
人工授精の本質は何かというと、「最も排卵しやすいタイミングで、確実に精子を子宮内に届けること」です。
つまり、これはタイミング法を医学的に強化した方法だと捉えることができます。
重要なのは、人工授精を行った“その日”だけで完結させないことです。
人工授精当日、そしてその翌日は、排卵前後の最も妊娠しやすいゴールデンタイムです。
このタイミングで夫婦生活を持つことで、人工授精+タイミング法という「ダブルの妊娠チャンス」を作ることができます。
実際、人工授精だけに頼り、当日の夫婦生活を避けてしまう方もいますが、それでは本来のポテンシャルを活かしきれていません。
人工授精は、夫婦で協力して“妊娠しやすい環境を最大化する治療”とも言えます。
妊娠の大前提は「排卵したときに精子がいること」
妊娠にとって、実は最も大切で、最もシンプルな条件があります。
それは「排卵した瞬間に、そこに精子が存在していること」です。
どれほどホルモン値が良くても、子宮内膜が整っていても、精子がいなければ妊娠は成立しません。
人工授精は、この“当たり前だけれど最重要な条件”を、高い確率で満たすための手段です。
しかも、費用負担は少なく、身体への侵襲もほとんどありません。
そう考えると、この安価で安全な方法を、もう少し賢く、戦略的に使わない手はないと私は思います。
特に「タイミングが合っているか不安」「仕事の都合で排卵日に合わせにくい」というご夫婦にとって、人工授精は心強いサポートになります。
人工授精を経て体外受精へ。それは自然なステップ
人工授精を数回行い、それでも妊娠に至らなかった場合、体外受精へ進むという選択を、私はまったく否定しません。
むしろ、人工授精をきちんと活用したうえで体外受精に進むことは、心理的にも納得感のあるステップだと思います。
一方で、最初から人工授精を軽視し、「すぐ体外受精を」と勧める、あるいは人工授精を渋る医師であれば、その治療方針がご自身に合っているか、一度立ち止まって、転院を含めて考えてみてもよいでしょう。
不妊治療に正解は一つではありません。
大切なのは、ご夫婦が納得し、イニシアティブをとり、前向きに取り組める選択を積み重ねていくことです。
人工授精は、そのための“賢い一手”になり得ますし、体外受精を考える準備期間にもなります。

