「先生、卵巣セラピーとは何ですか?」
「不妊ルーム」で最もよく受ける質問の一つです。
私はこの質問を受けるたびに、まずひとつの大切なことをお話しします。
それは、「卵巣という臓器は、子宮の両側にあるティースプーンほどの大きさしかない、とても小さく繊細な臓器ですよ」ということです。
妊娠について考えるとき、多くの方は子宮に注目します。
しかし、本当に妊娠のスタートラインに立つために最も重要なのは卵巣です。
なぜなら、妊娠は質の良い卵子が育たなければ始まらないからです。
ところが、この小さな卵巣は、毎月卵子を育てるという大きな仕事を何十年も休むことなく続けています。
しかもストレス、睡眠不足、栄養不足、加齢、喫煙、肥満、過度なダイエットなど、さまざまな影響を受けながら働き続けています。
私は、この頑張り続けている卵巣をもっと大切に扱うべきではないかと考えています。
「北風」ではなく「太陽」の発想へ
一方で、不妊治療を振り返ってみると、その多くは卵巣を刺激する治療です。
タイミング法でも排卵誘発剤を使いますし、人工授精でも排卵を促す注射を行います。
そして体外受精では、より多くの卵子を採取するために、強力な排卵誘発を行うことが一般的です。
もちろん、これらは医学的に必要であり、多くの命を誕生させてきた大切な治療です。
しかし見方を変えれば、不妊治療とは、この小さな卵巣に「もっと頑張って」と働きかける治療ともいえるのです。
ここで思い出していただきたいのが、イソップ寓話の「北風と太陽」です。
北風は旅人のマントを力ずくで吹き飛ばそうとしました。
しかし旅人は寒さに耐えようとして、ますますマントをしっかり握りしめました。
一方、太陽は優しく日差しを降り注ぎました。旅人は自然と暖かさを感じ、自らマントを脱ぎました。
もし旅人がマントを脱ぐことを「妊娠」に例えるなら、私は不妊治療は北風に近い部分があると感じています。
卵巣を刺激し、「もっと卵を作って」「もっと頑張って」と働きかける方法です。
それに対して「卵巣セラピー」は太陽のような考え方です。
無理に卵巣を働かせるのではなく、「いつも頑張ってくれてありがとう」という気持ちで卵巣が本来持っている力を発揮しやすい環境を整えることを目指します。
私はこの「いたわる」という発想こそ、これからの妊活に最も必要な考え方ではないかと思っています。
卵巣をいたわることが、質の良い卵子を育てる
では、卵巣をいたわるとは具体的にどういうことでしょうか。
「不妊ルーム」では、まず卵巣に必要な栄養状態を確認します。
ビタミンDは不足していないか、亜鉛は十分か、甲状腺機能に問題はないか、必要に応じてDHEAやコエンザイムQ10など、卵子の質に関わる可能性がある要素も確認します。
漢方薬を取り入れ、血流や自律神経を整えることもあります。
さらに、睡眠、食事、運動、ストレス、夫婦関係など、生活全体の見直をすすめることもあります。
卵巣は自律神経やホルモンの影響を非常に受けやすい臓器です。
心と身体が疲れ切っている状態では、本来の力を十分に発揮することは難しくなります。
だから私は、「オキシトシン生活」も提案しています。
家族と笑うこと、パートナーと安心して過ごすこと、好きな音楽を聴くこと、ペットと触れ合うこと、深呼吸をすること、感謝すること。
こうした何気ない毎日が、自律神経を整え、視床下部を介して卵巣にも良い影響を与える可能性があります。
妊活とは、決して卵巣を追い込むことではありません。卵巣が気持ちよく働ける環境を整えることなのです。
頑張る妊活から、いたわる妊活へ
自然妊娠でも、人工授精でも、体外受精でも、妊娠に重要なのは「質の良い卵子」です。
くり返しますが、その卵子を育てているのは、わずかティースプーンほどの小さな卵巣です。
だから私は、どのような治療を選択する場合でも、まず卵巣をいたわることから始めてほしいと考えています。
実際に「不妊ルーム」では、この考え方を大切にしながら、多くの女性が妊娠されています。
特に40歳を超えた女性の妊娠例が数多く生まれていることは、私にとって大きな確信となっています。
もちろん、すべての方が同じ結果になるわけではありません。
しかし少なくとも、卵巣に優しく寄り添い、その力を最大限に引き出そうとすることは、年齢に関係なくすべての女性にとって意味のあるアプローチだと信じています。
妊活とは、卵巣とともに戦うことではありません。卵巣は、あなたの一生を通じて働き続けてくれる、かけがえのないパートナーです。
だからこそ、私は「卵巣セラピー」という言葉に、「卵巣をいたわる」という願いを込めています。
頑張らせる妊活から、いたわる妊活へ。
発想を転換してみませんか。


