ロング法採卵の体外受精を勧めない理由

不妊治療、とりわけ体外受精を検討されている方から、「ロング法と低刺激法は何が違うのですか?」「なぜ先生はロング法を勧めないのですか?」という質問を受けることがよくあります。

今日は、その理由をできるだけわかりやすく、医師としての経験を交えながらお話ししたいと思います。

体外受精の排卵誘発には二つの考え方があります

体外受精における排卵誘発法は、大きく分けて二つあります。

ひとつはロング法に代表される高刺激法、もうひとつは低刺激法です。

この違いを一言で表すなら、「生理のリズムを壊して卵を集めにいく方法」か、「生理のリズムに寄り添いながら卵を育てる方法」か、その違いだと私は考えています。

ロング法とは、GnRHアゴニストなどを用いて一度女性本来のホルモン分泌を強く抑制し、いわば体のリズムをリセットしたうえで、hMGなどの注射を頻回に行い、卵巣を一気に刺激して多数の卵子を育て、採卵する方法です。

短期間で多くの卵子が採れることが期待できるため、効率が良い、成功率が高いと説明されることも少なくありません。

一方、低刺激法は、女性がもともと持っている月経周期の流れを尊重します。

クロミッドなどの経口排卵誘発剤を中心に、必要最小限の刺激で卵胞の成熟を促し、自然に近い形で採卵を行います。

刺激は穏やかで、体への負担も比較的少ない方法です。

ロング法を勧めない二つの大きな理由

では、なぜ私はロング法を積極的にお勧めしないのか。その理由は大きく二つあります。

ひとつ目は、「卵巣の老化を加速させてしまう可能性がある」という点です。

卵巣は一生使い切りの臓器です。

生まれたときに持っている卵子の数は決まっており、年齢とともに減少し、質も変化していきます。

強い刺激で一度に多くの卵胞を育てるということは、それだけ多くの卵子予備軍を一気に消費することを意味します。

私はこれまで、ロング法採卵を繰り返した結果、卵巣機能が急激に低下し、40代半ばで閉経してしまった女性を何人も見てきました。

日本人女性の平均閉経年齢は50.5歳とされています。

それよりも5年も早く卵巣の役目が終わってしまう現実を、私は見続けてきたのです。

ふたつ目は、「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスク」です。

OHSSは、卵巣が過剰に反応することで腹水や胸水が溜まり、重症化すると命に関わることもある合併症です。

もちろん現在の医療では予防策も進歩していますが、「起こりうる治療」を選ぶ必要が本当にあるのか、私は常に自問します。

不妊治療は、命を守る治療ではありません。

だからこそ、安全性には最大限配慮すべきだと考えています。

「低刺激=卵が少ない」は本当でしょうか?

ここでよく聞かれるのが、「低刺激だと卵が少ししか採れないのでは?」という疑問です。

しかし、これは必ずしも正しくありません。

低刺激でも、医師の技術と工夫次第で採卵数を確保することは可能です。

細い採卵針を用い、小さな卵胞の中の卵子を丁寧に回収していけば、決して“数が取れない治療”ではないのです。

むしろ、少ない刺激で育った卵子のほうが、その人本来のホルモン環境の中で成熟しており、質の面で良好なことも少なくありません。

さいごに

私は、不妊治療は「今月の結果」だけで評価されるべきものではないと考えています。

その女性が5年後、10年後も健康で、自分の体を大切に思えているかどうか。

その視点を失った治療は、どれだけ妊娠率の数字が良くても、正解とは言えないのではないでしょうか。

だから私は、ロング法採卵を安易に勧めません。

女性の体のリズムを尊重し、卵巣の未来を守りながら進める治療を、一緒に考えていきたい。

それが「不妊ルーム」を運営する医師としての、私の揺るがないスタンスなのです。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)