なぜ「たくさん採る」が正解とは限らないのか
「できるだけ多くの卵を採ったほうが妊娠しやすいのではないか」
「高刺激の排卵誘発のほうが成功率が高いと聞いた」
体外受精(IVF)を検討されている女性から、そういった質問を受けることがよくあります。
確かに、hMGなどの排卵誘発剤を大量に使用し、一度に多くの卵子を採取する「高刺激採卵」は、現在でも広く行われている治療法です。
しかし私は、体外受精においてこの高刺激の排卵誘発を基本的にお勧めしていません。
その理由は、短期的に卵の「数」を増やすことが、必ずしも妊娠率の向上につながらず、むしろ妊娠しにくい体をつくってしまう可能性があるからです。
高刺激によって起こるOHSSという合併症
高刺激の排卵誘発で最も注意すべき点が、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)です。
OHSSとは、卵巣が過剰に反応して腫れ上がり、腹水がたまったり、腹痛、吐き気、息苦しさなどを引き起こす状態を指します。
軽症で済むこともありますが、重症になると入院が必要になったり、血栓症など命に関わる合併症につながることもあります。
妊娠を目指すための治療が、女性の体に強い負担や危険を与えてしまう可能性がある点で、高刺激採卵は慎重に選択されるべき治療だと考えています。
体外受精を受ける女性の年齢は高くなっている
現在、体外受精を受ける女性の多くは30代後半から40代です。
年齢を重ねるにつれて、卵巣の回復力やホルモン変動への耐性は徐々に低下していきます。
若い頃であれば耐えられた強い刺激でも、年齢を重ねた卵巣にとっては大きな負担となり、治療後の回復に時間がかかったり、次の周期に悪影響を及ぼすことがあります。
高刺激は一時的に多くの卵を採取できる反面、卵巣を疲弊させてしまうリスクが高い方法でもあるのです。
卵巣予備能が低い女性ほど高刺激は適さない
AMHが低い、これまでの採卵数が少ない、といった卵巣予備能が低い女性ほど、「強く刺激しなければ卵が育たないのではないか」と考えがちです。
しかし実際には、卵巣予備能が低い女性ほど、高刺激採卵には慎重になる必要があります。
すでに余力の少ない卵巣に強い刺激を加えると、卵の質が低下したり、刺激に反応しなくなったり、次の周期以降さらに卵が採れなくなります。
卵巣の状態に合わせて、必要最小限の刺激を行う方が、結果的に良好な卵が得られることが少なくありません。
私はこれまで、高刺激の体外受精を繰り返した後に月経が不安定になったり、卵巣の反応が急激に低下した女性を数多く診てきました。
卵巣は「使えば減る」臓器です。必要以上に酷使することで、卵巣機能の低下が早まり、結果として妊娠のチャンスを狭めてしまう可能性があります。
こうしたケースを数多く経験しているからこそ、高刺激を安易に選択すべきではないと考えています。
生理周期は脳-卵巣-子宮の協調で成り立っている
女性の生理周期は、脳(視床下部-下垂体)- 卵巣-子宮が連携することで、非常に精密にコントロールされています。
この自然なリズムが整っていることが、排卵や妊娠の土台となります。
しかし高刺激の排卵誘発は、この脳—卵巣—子宮の協調に強制的に介入する治療です。
一時的に複数の採卵はできても、ホルモン分泌のバランスが乱れ、排卵や黄体機能が不安定になるなど、生理周期全体の質が低下しやすくなります。
高刺激採卵の後、「なかなか生理が来なかった」「周期が乱れたまま戻らない」という訴えは少なくありません。
妊娠を目指すうえで、整った生理周期は何よりも重要な基盤です。
採卵を急ぐあまり、その後の周期や治療の流れに悪影響を及ぼしてしまっては、本来の目的から外れてしまいます。
卵の数よりも体全体のバランスを大切に
体外受精は、卵の数を競う治療ではありません。
大切なのは、良い卵を、良いタイミングで、良い環境に戻すことです。
高刺激が必要となる状況も確かに存在します。
しかし、それは慎重に選ばれるべき選択肢であり、すべての方に当てはまる方法ではありません。
「不妊ルーム」が体外受精を希望されるカップルを、低刺激や自然に近い採卵をする医療機関に紹介しているのは、妊娠だけでなく、その先の女性の体と人生を守りたいと考えているからです。
無理のない方法で、あなたの体に合った妊活を考えましょう。

