不妊治療へのエントリーにあたって——自分らしい一歩を踏み出すために

まず立ち止まって考える

妊活を続けて結果が出ないと、やがてこんな問いにぶつかることになります。

「やることはやった。でも、うまくいかない。次はどうする?」

基礎体温を測ったり、排卵日を意識してタイミングを工夫したり。

多くの方が、まずは自然に妊娠できるよう努力を重ねています。

でも、結果がなかなか出なかった。そういう場合、不妊治療を考えるのはごく自然なことです。

ただ、ここで大切なのは「自分たちなりに、できることはやり切った」と思えるかどうか。

この自覚がないまま治療に進むと、流されるようにステップアップを重ねてしまい、気づけば体外受精まで…ということも少なくありません。

「やり切った感」の大切さ

妊活も不妊治療も、主役はあなた方です。医療はあくまでサポートの一部にすぎません。

だからこそ「やれることはやった」という感覚があると、その後の治療の受け止め方がまったく違ってきます。

治療を始めると、どうしても「結果」に心が揺さぶられやすくなります。

でも、自分たちで〝イニシアチブ〟を持って進んでいるという意識があれば、たとえ望んだ結果がすぐに出なくても「納得して歩めている」と感じられます。

後悔を少なくするために、この「やり切った感」はとても大切なのです。

妊活の神様はあまのじゃく

私はよく「不妊ルーム」に通院されている方に、「妊活の神様はあまのじゃくなんですよ」とお伝えします。

真剣に頑張っているときほどなかなか振り向いてくれないのに、ふっと力を抜いたときにウィンクしてくれる。そんな存在です。

不妊治療も、その神様にウィンクしてもらうための一つの方法、と考えてみてください。治療が必ず妊娠に直結するわけではありません。

でも、新しい選択肢を与えてくれたり、あなた方に安心感をもたらしてくれたりすることは確かです。

だからこそ、少し肩の力を抜いて、「気まぐれな神様に備える」くらいの気持ちで向き合うのがちょうどいいのかもしれません。

最初の一歩があなたの未来を左右します

不妊治療を始めるときの大事なポイントは、「どの医療機関のドアを最初にノックするか」です。

ここを焦って選んでしまうと、出口が見えないラットレースにはまり込んでしまうことになりかねません。

ステップを重ねるうちに「自分たちはどこへ向かっているのか」が分からなくなり、ただ流されてしまう。

私はそういうご夫婦をこれまでたくさん見てきました。

だからこそ、初動が大切です。

医療機関の方針や雰囲気が自分たちの価値観と合っているかどうか、しっかり見極めて選ぶことをおすすめします。

また、医師や医療機関との相性(chemistry)をとても大切です。

この先生とは反りが合わないと思いながら治療を続けても、なかなか良い結果が出るものではありません。

「不妊治療リテラシー」を持つ

ラットレースに陥らないために必要なのが不妊治療〝リテラシー〟です。

難しい言葉ですが、要は「自分たちが今どこにいて、どんな選択肢があって、その先に何が待っているのか」を理解しながら進める力のことです。

タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精——治療には段階があります。

でも、そのどこで立ち止まり、あるいは先へ進むかを決めるのは、ご夫婦自身です。

「先生に言われたから」ではなく、「自分たちで納得したから」進む。この違いはとても大きいのです。

医師まかせにしない勇気

「先生が言うなら…」と考えるのは自然ですし、医師を信頼することももちろん大切です。

ただ、不妊治療では「医師まかせにしない勇気」も同じくらい大事です。

「この治療をあと何回続けるのか」「次に進むべきか」「少し休むべきか」——こうした判断を自分たちで下すことが、結果的に後悔の少ない妊活につながります。

医師は伴走者であって、主役はいつもあなたたち。どうかそのことを忘れないでください。

「不妊ルーム」はベースキャンプ

「不妊ルーム」は、自然妊娠と不妊治療の間に位置する「ベースキャンプ」のような場所です。

2階建ての家にたとえるなら、1階が自然妊娠、2階が不妊治療。その階段の踊り場に「不妊ルーム」があります。

ここで卵巣セラピーなどを通じて体を整えながら、まずはできる限り自然に近い形で妊娠を目指します。

そして妊娠に至らず不妊治療が必要になった場合、1万件近いカップルの相談経験をもとに、ご夫婦に合った医療機関をご紹介しています。

実際に、紹介先で妊娠された方や、紹介先の治療と並行して当院で卵巣セラピーをおこない、妊娠された方も多くいます。

自分たちらしい一歩を

不妊治療に進むというのは、大きな決断です。

でも、その一歩を「自分たちらしく」踏み出すことができれば、治療はただの試練ではなく、人生を豊かにするプロセスのひとつになります。

やり切ったという実感を持ち、主体性を大切にし、初動を慎重に選び、リテラシーを磨く。

そして医師まかせにせず、自分たちで決めていく。——その積み重ねが、後悔の少ない妊活&不妊治療につながるのです。

妊活の神様は気まぐれです。

でも、そんな神様に振り回されるのではなく、笑顔で向き合えるように。

あなた方ご夫婦にとって納得できる一歩を、自分たちらしく選び取ってください。

そして、いつも次の3つ「LIC」を、頭の中にインプットしておきましょう。

L:リテラシー → literacy(治療の目利きになる)

I:イニシアチブ → initiative(自分たちが主導権を持っているという自覚)

C:ケミストリー → chemistry(医師や医療機関との相性)

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)