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DHEAというホルモンを知っていますか?
「不妊ルーム」では、これまで2600名を超える方々の妊娠を見届けてきました。その妊活サポートの中で、私が大切にしているものの一つに、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)があります。DHEAは、女性のホルモン環境や卵巣機能を考えるうえで、注目しておきたいホルモンです。私は、卵巣をいたわり、その働きを支えるという観点から、DHEAをもう一度見直していただきたいと思っています。
DHEAは「マザーホルモン」
DHEAは、主に副腎で作られるステロイドホルモンです。実は、女性ホルモンであるエストロゲンや、男性ホルモンであるテストステロンの材料にもなる重要な物質です。
少しわかりやすく説明しましょう。コレステロールを砂糖に例えるなら、DHEAは角砂糖のようなものです。その角砂糖を材料に、体内でさまざまな性ホルモンが作られていきます。DHEAは、こうしたホルモン合成の上流に位置することから、「マザーホルモン」と呼ばれることがあります。女性の体にとって、それだけ重要な役割を担っているのです。
年齢とともに減少するDHEA
DHEAの分泌量は、若い時期に高く、その後、加齢とともに徐々に低下していきます。若い頃と比べると、中高年では大きく減少することが知られています。
女性の妊娠を考えるとき、年齢とともに卵巣予備能が低下していくことは避けられません。しかし、卵巣の状態を考えるうえで、年齢やAMHだけを見ていてよいのでしょうか。私は、卵巣を取り巻くホルモン環境にも目を向ける必要があると考えています。DHEAは、その一つの指標になる物質です。
DHEAサプリメントで何が期待できるのか
DHEAサプリメントは、体内で減少したDHEAを補うことを目的として使用されます。不妊診療の領域では、特に卵巣予備能が低下している方や、卵巣刺激に対する反応が乏しい方を対象に、卵巣機能への影響が研究されてきました。DHEAを補充することで、卵胞を取り巻く環境や卵子の成熟に関わるホルモン環境を整えられるのではないか、という考え方です。
ただし、ここで大切なのは、DHEAを飲めば誰でも卵子の質が改善し、妊娠率が上がるというものではないことです。近年の研究では、体外受精におけるDHEAの補充が、最終的な出産率を明確に改善するという十分な証拠は得られていません。2025年のESHRE(欧州ヒト生殖医学会)のガイドラインでも、体外受精の卵巣刺激に際して、DHEAを一律に使用することは推奨されていません。一方で、個々の女性のホルモン環境や卵巣の状態を丁寧に評価することの重要性は変わりません。
DHEAへの反応には個人差がある

「不妊ルーム」でDHEAを扱う際、私が重視しているのは個人差です。同じ量を服用しても、血中のDHEA-S(DHEA硫酸抱合体)の値の変化は人によって異なります。したがって、全員が同じ量を毎日服用すればよいというものではありません。血液検査で値を確認しながら、必要性や補充量を個別に判断することが大切です。
DHEAはホルモンの材料になる物質ですから、自己判断で服用することは勧められません。ニキビ、多毛、頭髪の変化など、男性ホルモン作用に関連する副作用にも注意が必要です。また、妊娠が判明した場合の服用についても、必ず医師に確認してください。
卵巣をいたわるという発想
私は、妊活において卵巣をいたわることを大切にしています。卵巣は、毎月、卵子を育て、排卵するという大切な仕事を続けています。しかし、妊娠を急ぐあまり、卵巣に強い刺激を与えることばかり考えてはいないでしょうか。
もちろん、必要な場合には排卵誘発や体外受精などの医療が大きな力になります。しかし、それと同時に、卵巣を取り巻く環境を整えるという視点も忘れてはいけません。私が提唱している「卵巣セラピー」は、漢方薬、DHEA、亜鉛と銅のバランス調整、甲状腺ホルモンのコントロールなどを組み合わせ、体の内側から妊娠しやすい環境を考えていく取り組みです。DHEAは、その中でも重要な位置を占めています。
サプリメントは医師と一緒に考える
サプリメントというと、薬より気軽に利用できるものと考える方が多いかもしれません。しかし、DHEAは単なる栄養補助食品とは異なり、ホルモン環境に影響する物質です。服用するかどうか、どのくらいの量が適切か、いつまで続けるかは、血液検査や年齢、卵巣の状態などを踏まえて判断する必要があります。「不妊ルーム」では、DHEA-Sの値などを確認しながら、一人ひとりに合った対応を考えています。
妊娠を目指すとき、私たちはどうしても卵子の数や年齢、AMHの数値に目を奪われがちです。しかし、妊娠力を考えるうえで大切なのは、それだけではありません。卵巣をいたわり、ホルモン環境を整え、自分の体が本来持っている力を支えていくことも大切です。DHEAは、その可能性を考えるための一つの手がかりです。妊娠を急ぐだけでなく、卵巣を大切にする妊活を始めてみませんか。


