不妊治療を考えるあなたへー「よくある悩みと乗り越えるためのポイント」

思い通りにいかないこともある「不妊治療のリアル」

妊活を始めてみると、思っていたよりずっと長い道のりになることがあります。

すぐに赤ちゃんを授かる方もいれば、なかなか結果が出ずに心が折れそうになる方も。

「周りは自然に妊娠しているのに、どうして自分たちは…」──

そう感じるのは、決してあなただけではありません。

国立成育医療研究センターの調査(2021年)によると、体外受精などの不妊治療を始めた女性の半数以上に抑うつ症状が見られたとされています。

それほどまでに、不妊治療は心の負担が大きいもの。

ここからは、治療中に多くの方が感じやすい“つらさ”と、その乗り越え方を考えていきましょう。

不妊治療で多くの人が感じる「つらさ」

1. 先が見えない不安

どれだけ通院しても結果が出ない時期は、「このままでいいのかな」と焦りが募ります。

治療の過程には個人差があり、1回で妊娠する人もいれば数年かかる人もいるのが現実。

努力が見えづらい分、「頑張っても報われない」という思いに変わってしまうことがあります。

2. 周囲との比較や孤独感

SNSや職場で妊娠報告を目にすると、喜ばしいはずなのに心がざわつくことがあります。

「なぜ自分だけ」と感じる瞬間は、誰にでもあるもの。

けれど、比較するほど心が疲れてしまうのも事実です。

妊活は人と比べるものではなく、自分のペースで進めていいということを、忘れないでください。

3. 経済的・時間的な負担

人工授精は1回あたり5,000円台から保険適用で受けられますが、体外受精になると薬剤・培養費などを含めて1回あたり数万円以上かかることもあります。

また、採卵・移植などで通院回数が増えると、仕事との両立が難しくなる場合も。

時間的・金銭的負担は、妊活を続けるうえで最も現実的な課題の一つです。

4. 身体的なつらさ・副作用

ホルモン治療や採卵・移植の処置では、腹部の張りや頭痛、倦怠感などを感じることがあります。

体調の変化が続くと「もう続けられない」と感じる方も少なくありません。

無理せず体を休めながら、自分のペースで治療を進めていくことが大切です。

不妊治療の現実を正しく知る

正しい知識を持つことで、治療への不安はぐっと減ります。

ここでは代表的な治療法と成功率を簡単に整理しておきましょう。

人工授精(IUI)手軽で体への負担が少ない治療

排卵時期に合わせて精子を子宮に注入する方法で、体への負担が少ないのが特徴。

保険適用で1回あたり約5,460円、妊娠率は5〜8%程度とされています。

比較的手軽な反面、結果が出にくい場合は体外受精へのステップアップを検討します。

体外受精(IVF)とは? ─ 妊娠率は約22%、生産率は15〜16%

体外受精は、卵子を体外に取り出し、人工的な環境で受精・培養した後、受精卵を子宮に戻す方法です。

人工授精よりも高度な技術を要し、妊娠率は約22〜23%、出産まで至る「生産率」は15〜16%が全国平均です。

「体外受精をすれば必ず妊娠できる」と誤解されがちですが、実際には複数回の移植を経てやっと妊娠される方も多いのが実情です。

つらい不妊治療を乗り越えるための4つのヒント

不妊治療は、心も体も大きなエネルギーを使う“長距離マラソン”。

焦らず、自分のペースで歩み続けるために、以下の4つの視点を意識してみましょう。

1. パートナーと“共有”する勇気を持つ

不妊治療は“夫婦のチーム戦”です。

検査結果や通院内容を共有することで、相手にも当事者意識が生まれます。

「今日はこうだったよ」と小さな報告を続けることが、信頼と安心の積み重ねになります。

また、職場や友人に打ち明けて理解を得ることで、急な通院や早退の際にもサポートが受けやすくなります。

2. SNSは“情報”より“共感”の場に

同じ悩みを持つ人たちの声を聞くだけで、孤独感が和らぐことがあります。

ただしSNSには誤情報も多いため、“情報収集”よりも“心のつながり”を目的に使うのがおすすめです。

小さな気持ちを共有し合うことで、治療中でも前向きな気持ちを取り戻せるでしょう。

3. プロのカウンセリングで“心の整理”を

治療が長引くほど、焦りや罪悪感、孤独感を抱きやすくなります。

専門カウンセラーへの相談は、気持ちの整理だけでなく、治療方針を冷静に見直すきっかけにもなります。

「吐き出せる場所」「泣いてもいい場所」を持つことが、妊活を続けるための大きな支えになります。

4. あえて“治療を忘れる時間”をつくる

1周期でも早く進めたい気持ちは誰もが抱えます。

しかし、疲労やストレスが蓄積すると、ホルモンバランスの乱れにつながることも。

あえて治療を休み、旅行や美味しい食事など「自分を満たす時間」を持つことが、再び前を向く力をくれます。

“休む勇気”もまた、治療の一部。

焦らずに歩みを整えることが、結果的に遠回りに見えて最短の道になることもあります。

まとめ:焦らず、でも立ち止まらない妊活を

不妊治療は、医学的にも心理的にも長い旅路です。

結果が出ない時間は“無駄”ではなく、“次のステップへの準備期間”。

焦る必要はありません。

あなたが歩んできた道のり自体が、確かに“前進”なのです。

不妊治療を検討している方は、まずは自分の気持ちを整理する相談から始めてみてください。

あなたの心と体に寄り添ってくれる医療が、きっと見つかります。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)