妊娠への第一歩は「現在地を知ること」
妊娠を望むご夫婦の中には、「早く不妊治療を始めなければ」と焦る気持ちを抱えて「不妊ルーム」に来院される方が少なくありません。
しかし、私がおすすめしているのは、治療にエントリーする前の「妊活力チェック」です。
登山に例えるなら、いきなり険しい山道を登り始める人はいません。
まずはベースキャンプを整え、地図を確認し、装備を点検し、自分の体調を把握してから山頂を目指します。
妊活も同じです。現在の身体の状態を知ることが、効率的で安全な妊娠への第一歩になるのです。
ブライダルチェックを一歩進めた「妊活力チェック」
ブライダルチェックという言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。
しかし、「妊活力チェック」は、それをさらに一歩進めたものです。
私が「不妊ルーム」に見えた方に、「まず1か月だけ時間をください」とお伝えするのには理由があります。
女性の身体は約1か月の生理周期の中で大きく変化します。
その変化を一巡しながら確認することで、本来のホルモンバランスや卵巣機能、子宮の状態をより正確に把握することができるからです。
具体的には、いつでも行える検査に加え、高温期、生理中という異なるタイミングで採血によるホルモンチェックを行い、それぞれの時期の評価をします。
また、超音波検査によって子宮や卵巣の状態も確認します。
そして可能であれば、この期間中にパートナーにも精液検査を受けていただくようアドバイスします。
こうして基本的なデータを集めることで、妊娠へのスタートラインが初めて明確になるのです。
ベースキャンプが整えば、不要な治療を避けられる
妊活力チェックの結果、特に問題が見つからないことも珍しくありません。
そのような場合には、年齢や状況を考慮しながら「もう少し様子を見てみましょう」という提案をすることもあります。
必要のない治療を急いで始めるよりも、ご夫婦が本来持っている妊娠する力を信じ、適切なタイミングを待つことも立派な選択肢だからです。
一方で、ホルモン値が高すぎるものは薬で抑え、不足しているものは適切に補充します。
つまり、身体のバランスを整えて、本来の妊娠力が発揮できる環境をつくることを優先します。
土台が傾いた家にどんな立派な屋根を載せても長持ちしないように、身体の基盤が整わないまま高度な不妊治療を重ねても、思うような結果につながりにくくなります。
まずベースキャンプをしっかり築くことが、その後の道のりを大きく左右します。
半数のご夫婦がフォローアップの中で妊娠へ
「不妊ルーム」では、妊活力チェックの結果に基づいて、一人ひとりに合わせたフォローアップを行っています。
生活習慣や、必要な薬やサプリメントの調整、タイミングの取り方などをサポートしていくことで、多くのご夫婦が本来の妊娠力を取り戻していきます。
実際に、このようなフォローアップだけで約半数のカップルが妊娠という結果につながっています。
必ずしも高度な不妊治療だけが妊娠への近道ではないことを、多くのカップルが証明しています。
必要なときには次のステージへ進む
もちろん、すべてのケースが、「不妊ルーム」のフォローアップで解決するわけではありません。
年齢や検査結果、経過を総合的に判断し、当院だけでの対応が難しいと判断した場合や、ご夫婦が積極的な不妊治療を希望される場合には、信頼できる専門医療機関をご紹介しています。
その際も、妊活力チェックによって得られた情報があることで、紹介先でもスムーズに治療を開始でき、コラボレーションすることができます。
焦るより、まずベースキャンプを整えよう
妊娠を願う気持ちが強いほど、「何か治療を始めなければ」と焦ってしまうものです。
しかし、本当に大切なのは、闇雲に前へ進むことではありません。
今の自分たちの身体を正しく知り、必要な準備を整え、最適なルートを選ぶことです。
妊活力チェックは、そのためのベースキャンプづくりです。
しっかりとした土台があれば、その先に自然妊娠という道が開けるかもしれませんし、必要に応じて不妊治療へ進む場合でも、その効果を最大限に引き出すことができます。
「治療を始める前に、まず自分たちの妊活力を知る」この一歩が、妊娠への近道となると、私たちは考えています。


