いま、なぜ「Back to 基礎体温表」なのか
「先生、基礎体温って、もうつけなくていいんですよね?」
「不妊ルーム」で診察をしていると、こうした質問を受けることが増えてきました。
中には、以前かかっていた不妊治療施設で
「基礎体温表? あんなものは必要ありません。時間の無駄ですから」
と言われた、という方もいます。
おそらくその医師の本音は、「それよりも体外受精へのエントリーを急がせたい」というところなのでしょう。
けれど私は、この流れをとても残念に感じています。
だからこそ、今あえて伝えたいのです。
“Back to 基礎体温表”。
妊娠力の原点に、もう一度立ち返ろう、と。
基礎体温とは何か——とてもシンプルで、とても奥深いもの
基礎体温とは、朝、目が覚めてすぐ、起き上がる前に測る体温のことです。
口の中に婦人体温計を入れ、舌の下で測定します。
その毎日の体温を記録し、グラフにしたものが基礎体温表です。
排卵後、プロゲステロン(黄体ホルモン)の影響で体温が上昇し、低温期と高温期の二相性が現れます。
この切り替わりがあるか、高温期が何日続くか、体温が安定しているか。
これらはすべて、卵巣と子宮の働きを反映した結果です。
基礎体温表は、女性にとって「自分の体の状態を映し出す鏡」のような存在なのです。
「避妊の道具」だった基礎体温表の歴史
基礎体温表は、1920年代にアメリカで使われ始めました。
当初の目的は妊娠ではなく、避妊でした。
排卵日を予測し、その前後の性交渉を避けることで妊娠を防ぐ。
自然避妊法の一つとして活用されていたのです。
しかし、その後ピルが登場すると、手間のかかる基礎体温表は急速に使われなくなり、アメリカ本国ではほぼ姿を消しました。
一方、日本では違う道を歩みました。
戦後、進駐軍(GHQ)によって基礎体温表が日本に持ち込まれ、婦人科診療の中で少しずつ普及していきます。
日本では、避妊だけでなく「妊娠を望む女性のためのツール」として使われるようになりました。
毎日コツコツと記録を続ける日本人の気質とも相性が良く、長い間、基礎体温表は妊活の基本として位置づけられてきたのです。
なぜ、基礎体温表は軽視されるようになったのか
ところが近年、不妊治療の現場では基礎体温表の存在感が薄れています。
その最大の理由は、体外受精の拡大です。
採血をすればホルモン値が分かり、エコーを見れば卵胞の発育が分かる。
数値や画像は一見すると「正確」に見えます。
その結果、患者さん自身が自分の体を理解するためのツールである基礎体温表は、不要なものとして扱われがちになってしまいました。
しかし私は、これは本末転倒だと考えています。
基礎体温表の本当の価値は、女性自身が自分の体の声を聞けるようになることにあります。
排卵が起きているのか、高温期は十分に続いているのか、ストレスや睡眠不足が体にどう影響しているのか。
これらは、一度の診察や検査では分かりません。
毎日の体温の積み重ねによって、初めて見えてくるものです。
基礎体温表は、妊娠を無理にコントロールする道具ではありません。
妊娠を、自然に、静かに呼び込むためのツールなのです。
オキシトシン妊活と基礎体温表は、実は相性がいい
私が大切にしている「オキシトシン妊活」や「自宅タイミング法」は、リラックスし、自分の体を信頼することを土台にしています。
そのためには、まず自分の体の状態を知っていることが欠かせません。
基礎体温表をつけることは、体を管理することではなく、体と対話することです。
「今月は少し疲れているな」
「この周期は体がよく頑張っているな」。
そうした小さな気づきの積み重ねが、結果として妊娠力を底上げしていきます。
もう一度、原点へ
最新の医療を否定するつもりはありません。
体外受精が必要な方も、もちろんたくさんいます。
ただ、その前に、あるいは並行して、自分の体のリズムを知ることを手放さないでほしいのです。
基礎体温表は古いツールかもしれませんが、古いからこそ本質的です。
妊娠力の原点に立ち返る。
その象徴が、「Back to 基礎体温表」なのです。

