45歳の女性が体外受精によって妊娠され、無事に産科へ転院されました。
もちろん45歳での妊娠は決して簡単なことではありません。
しかし、「年齢だけ」で妊娠の可能性を決めてしまうのは早計です。
私たちは、年齢だけでは見えない「妊娠できる力」をできる限り引き出すことを目標に診療を行っています。
今回の患者さんが妊娠できた理由は、大きく2つあると考えています。
妊娠の第一の理由は、適切な高度生殖医療施設を選択したこと
体外受精は、どこの医療機関でも同じ結果になるわけではありません。
採卵技術、培養技術、胚の評価、移植のタイミングなど、それぞれの施設の経験や技術によって結果は変わります。
だからこそ「不妊ルーム」は、患者さん一人ひとりの状態を見極め、その方に最も適した高度生殖医療施設をご紹介することを大切にしています。
しかし、それだけでは十分ではありません。
妊娠の第二の理由は、卵巣セラピーによるDHEAのコントロールでした
今回、私が特に重要だったと考えているのが、当院で行っていた「卵巣セラピー」、とりわけDHEA濃度のコントロールです。
DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)は、副腎から分泌されるホルモンで、女性ホルモンや男性ホルモンの原料となる非常に重要な物質です。
ところがDHEAは20代をピークに年齢とともに減少し、40代になると大きく低下していきます。
実際に今回の患者さんのDHEA濃度を測定すると、45歳でありながら数値はさらに低く、50歳前後に相当するレベルでした。
この状態では卵巣が十分に働きにくくなり、採卵しても良好な卵子が得られにくくなる可能性があります。
そこでDHEAサプリメントを開始し、定期的に血液検査を行いながら、過不足のない適切な濃度になるよう細かく調整を続けました。
DHEAは「飲めばよい」のではなく、「適切な濃度」が重要です
ここで誤解していただきたくないことがあります。
「DHEAが低いなら飲めばいい」という考え方は正しくありません。
DHEAは少なすぎても問題ですが、多すぎてもホルモンバランスを崩し、かえって卵巣環境に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、私は血液検査でDHEA濃度を確認しながら、一人ひとりに合わせて補充量を調整しています。
つまり大切なのは、DHEAサプリメントではなく、「DHEA濃度の管理」なのです。
最も重要なのは排卵周期・採卵周期のDHEA濃度です
私が重視しているのは、排卵周期、あるいは採卵を行う周期にDHEAが適切な濃度になっていることです。
卵子は排卵や採卵の数日前に急に成熟するわけではありません。
卵胞は数か月という時間をかけて発育し、最後の成熟段階を迎えて排卵・採卵へと進みます。
その最終段階で卵胞を取り巻くホルモン環境が整っていることは、卵子の成熟にとても重要なのです。
今回の患者さんについて採卵周期のデータを振り返ると、DHEA濃度は理想的な値に改善していました。
その数値は、30歳前後の女性に相当するレベルだったのです。
もちろん、DHEAを30歳相当にしたから45歳の卵子が30歳の卵子になるわけではありません。
しかし、卵巣が本来持っている力を最大限に発揮できる環境を整えることは十分可能です。
その結果として、良好な卵子が得られ、受精・胚発育・着床へとつながった可能性は十分に考えられます。
年齢は変えられませんが、卵巣環境は整えられます
「45歳だから無理でしょうか」という質問をよく受けます。
確かに年齢は妊娠率に大きく影響する因子です。
しかし、同じ45歳でも卵巣の状態やホルモン環境は一人ひとり大きく異なります。
だからこそ私は、年齢だけではなく、DHEAをはじめとするホルモン状態を詳しく調べ、卵巣が最も働きやすい状態へ近づけることを目標にしています。
このような「卵巣セラピー」を行ったうえで体外受精に進むことで、当院から紹介した患者さんが妊娠されるケースは珍しくなってきました。
体外受精の前にできることがあります
体外受精は高度な医療ですが、その成功は採卵当日から始まるものではありません。
採卵までの数か月間に、卵巣をどれだけ良い状態に整えられるかが、その後の結果を左右します。
私は、妊娠には排卵周期・採卵周期のDHEA濃度を、適切な範囲に維持することが非常に重要であると考えています。
「年齢だから仕方ない」と諦める前に、まず現在の卵巣の状態を正しく評価し、必要なコンディショニングを行うことが大切です。
年齢を若返らせることはできませんが、卵巣が本来持っている力を引き出すことはできます。
その積み重ねが、今回の45歳の患者さんのような妊娠という結果につながるのだと私は考えています。


