「原因不明不妊」の中に隠れているもの
「検査では異常がないのに、なかなか妊娠しない」。
不妊治療の現場では、このような“原因不明不妊”と呼ばれるケースを少なからず経験します。
しかし本当に「原因がない」のではなく、まだ十分に注目されていない要素が隠れていることがあります。
そのひとつが「DHEA(ディーエイチイーエー)」です。
DHEAとは、副腎から分泌されるホルモンの前駆体で、女性ホルモンや男性ホルモンの材料となる非常に重要な物質です。
若いころには豊富に分泌されていますが、年齢とともに減少していきます。
特に40代以降では大きく低下しますが、実際には若い女性で低い方がいます。
32歳だったNさんのケース
Nさんが「不妊ルーム」を初めて受診されたのは32歳のときでした。
検査を進めても、ホルモンバランスも、卵管にも問題はなく、ご主人の精液検査にも異常はありませんでした。
いわゆる「原因不明不妊」の状態でした。
当時、私はDHEAの検査を主に35歳以上の方に行っていました。
なぜか「もしかしたら」と思って、NさんのDHEAを測定してみたのです。
すると驚いたことに、彼女のDHEA値は基準値の5分の1以下。
実際には50代後半に相当するような非常に低い数値だったのです。
32歳という年齢だけを見れば、通常は卵巣機能が大きく低下しているとは考えにくい時期です。
しかし体の中では、すでに“ホルモンの老化”のような状態が起きていたのでしょう。
そこで私は、NさんにDHEAサプリメントの摂取をすすめました。
すると血中濃度は改善し、その後わずか2周期目で妊娠となったのです。
さらに驚いた「2人目妊娠」
それから約2年後、Nさんは「2人目が欲しい」と、「不妊ルーム」に来院されました。
前回の経過がありましたので、まずDHEAを測定しました。
すると、やはり前回と同じように極端な低値だったのです。
そこで再度DHEAサプリメントを開始していただきました。
すると今度は、再検査を待つまでもなく、次の周期で妊娠となりました。
この経験から私は、Nさんは「DHEA欠乏症」とも言える状態だったのではないかと考えるようになりました。
DHEAは卵子の“元気”に関わる
DHEAは単なるホルモンではありません。
卵巣環境を整え、卵胞の成長を支える大切な役割を持っています。
卵子は毎月ゼロから作られるわけではありません。
何カ月も前から卵巣の中で育ち始め、少しずつ成熟していきます。
その過程では、十分なホルモン環境とエネルギー環境が必要です。
DHEAが不足すると、卵胞の発育が弱くなったり、卵子の質に影響を与えたりする可能性があります。
特に、
- 採卵しても成熟卵が少ない
- 受精率が低い
- 胚の成長が弱い
- 良好胚ができにくい
- 若いのにAMHが低い
このような方では、DHEA低値が隠れていることがあります。
もちろん、DHEAサプリを服用すればすぐに妊娠するという単純な話ではありません。
しかし、血中DHEA濃度が不足している方にとっては、突破口になる可能性があるのです。
年齢だけでは判断できない時代
妊活では、どうしても年齢ばかりに目が向きがちです。
しかし実際には、同じ32歳でも卵巣年齢やホルモン環境には大きな個人差があります。
逆に40代でもDHEAがしっかり保たれている方は、卵巣が比較的元気なこともあります。
「不妊ルーム」においては、年齢だけを見るのではなく、「その方の体の中で何が起きているのか」を重視しています。
その中でDHEAは、非常に重要な指標のひとつです。
妊活は「不足を補う医療」
妊娠は奇跡のように見えて、実は非常に精密な体のバランスの上に成り立っています。
そして、そのバランスが少し崩れただけでも妊娠しにくくなることがあります。
もしDHEAが不足しているのであれば、それを適切に補うことで、本来持っていた妊娠力が回復することがあります。
Nさんの2回の妊娠は、私にそのことを強く教えてくれました。
「原因不明」と言われた方の中にも、実は“見逃されている不足”があるのかもしれません。
不妊治療とは、単に高度な医療を行うことだけではなく、その方の体に足りないものを丁寧に見つけ、整えていく医療なのだと思っています。


