Aさんが45歳で母親になれた理由

Aさんがご主人と一緒に、お子さんを連れて挨拶に来られました。

お子さんを抱くAさんの姿を見た瞬間、私は胸がいっぱいになりました。

Aさんが母親になるまでには、決して平坦ではない時間があったからです。

何度も体外受精を受けても妊娠しなかった

Aさんが当院を受診されたのは、それまでに何度も体外受精を受けていたにもかかわらず、妊娠に至らなかったからでした。Aさんは当院の「卵巣セラピー」のことを聞いて相談に来られました。

Aさんには、「これからも体外受精を続けたい」というはっきりとした意思がありました。私はその気持ちを尊重し、後方支援をしようと考えました。しかし、残念ながら、その後も妊娠には至りませんでした。

妊活では、努力すれば必ず結果が出る、というわけではありません。特に年齢を重ねるほど、卵子の数や質など、本人の努力だけではコントロールできない要素が増えてきます。何度挑戦しても結果が出ないと、「もう自分には無理なのではないか」と気持ちが沈んでしまうのも無理はありません。

ところが、Aさんには大きな転機が訪れました。

「体外受精をやめて、タイミング法に戻ります」

「体外受精をやめて、タイミング法に戻ります」

今から2年ほど前のことです。Aさんから突然、「体外受精をやめました。タイミング法に戻りますので、引き続きお願いします」と言われました。

私は少し驚きました。しかし、そこにはAさん自身が考え抜いたうえでの決断がありました。

体外受精を続けることだけが妊活ではありません。もちろん、医学的に適切な治療を受けることは大切です。しかし、治療方法を選ぶときには、「自分はどうしたいのか」という気持ちも大切にしなければなりません。

そこで私は、漢方薬などを用いながら、Aさんの体調を見守っていくことにしました。そして半年ほど経ったある日、Aさんから「妊娠反応が陽性になりました」と報告を受けたのです。

その後も通院を続けながら、漢方薬によるフォローを続けました。そしてAさんは無事にお子さんを出産し、45歳で母親になることができました。

Aさんから学んだ「前向きな気持ち」の力

では、Aさんが45歳で母親になれた理由は何だったのでしょうか。

もちろん、一つの理由だけで説明できるものではありません。妊娠・出産には、年齢、卵巣機能、卵子や精子の状態、排卵、子宮の状態など、さまざまな要因が関係しています。また、Aさんの場合、漢方薬を含めた当院でのサポートが一助になった可能性もあります。

ただ、私が長くAさんを見てきて、強く感じることがあります。それは、Aさんがいつも前向きだったということです。

妊活では、「検査薬が陽性にならなかった」「また生理が来てしまった」「今回もダメだった」という出来事に、どうしても心を奪われます。しかしAさんは、うまくいかないことがあっても、それだけで「自分は妊娠できない」と決めつけませんでした。

体外受精を何度も経験しても、妊娠しなかった。それでも妊娠をあきらめなかった。そして、「体外受精をやめる」という選択をした後も、「妊娠する可能性がなくなった」と考えるのではなく、「タイミング法で続けてみよう」と前を向いたのです。

私は、この姿勢こそがAさんの妊活にとって、とても大切だったのではないかと思っています。

ポジティブ・シンキングは「何でも楽観的に考える」ことではない

ここで誤解していただきたくないのは、ポジティブ・シンキングとは、「絶対に妊娠する」と根拠なく思い込むことではない、ということです。

妊活では、努力しても思うような結果にならないことがあります。その現実を無視する必要はありません。つらいときには、つらいと感じていいのです。

大切なのは、「今回うまくいかなかった」ことと、「これからもずっとダメ」ということを同じにしないことです。

「今回はダメだった。でも、次はどうしようか」
「治療方法を変えてみよう」
「少し休んで、また考えてみよう」

このように、目の前の結果で人生全体を決めつけないこと。それが、私の考える妊活におけるポジティブ・シンキングです。

妊活は「心」と「体」を一緒に考える

妊活は「心」と「体」を一緒に考える

私は漢方薬によるサポートを行っていますが、薬だけで妊娠を説明することもできません。一方で、「気持ちの持ち方だけで妊娠できる」と考えるのも適切ではありません。

大切なのは、体の状態を整えることと、自分の気持ちを大切にすること。その両方です。

Aさんは、45歳という年齢で母親になるという素晴らしい結果を手にしました。しかし、私はAさんのケースを「45歳でも簡単に妊娠できる」という意味でお伝えしたいのではありません。年齢による妊娠の難しさは、決して軽く考えてはいけません。

それでも、妊活には「可能性を自分で閉ざさない」という姿勢が大切だと思うのです。

お子さんの名前にまでなった漢方薬

最後に、Aさんから聞いて驚いた話があります。

Aさんは、漢方薬がとてもよく効いたことに感激し、なんと生まれたお子さんの名前に、その漢方薬の名前を採用されたというのです。

これには私も、「そこまでですか!」と驚いてしまいました。しかし、それほどまでに、この妊活と出産がAさんにとって大きな意味を持つ出来事だったのでしょう。

Aさんが45歳で母親になれた理由を一言で表すことはできません。けれども、長くAさんを見てきた私は、「前向きな気持ちを失わなかったこと」は、その大きな理由の一つだったのではないかと思っています。

妊活中の皆さんにも、ぜひ覚えておいていただきたいことがあります。

「今回ダメだった」ことと、「もうダメだ」ということは違います。

医学的な情報をきちんと受け止め、自分に合った治療や方法を考えながら、それでも最後まで自分自身の可能性を決めつけないこと。妊活では、そんな前向きな姿勢を大切にしていただきたいと思います。

Aさん親子の笑顔を見ながら、私は改めてそう感じました。

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著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)