「不妊ルーム」25年を振り返って(2)

img img
Home

>

コラム

「不妊ルーム」25年を振り返って(2)

clock

2024年12月20日

「不妊ルーム」の25年は、漢方薬抜きには語れないと思います。というのも「不妊ルーム」で妊娠される女性の8割は、妊娠反応陽性時に漢方薬を服用しているからです。ですから、私がなぜ漢方薬を使用するに至ったのか、その辺の話からしてみたいと思います。

 

漢方薬の使用に至った理由

「妊活」というお言葉がなかった時代、不妊の方のフォローアップをおこなうにあたって、最初に私が目をつけたのが漢方薬でした。漢方薬に関しては、私自身大学時代に自分で興味を持って勉強していたという事情がありました。

ある時、当院に訪れた不妊治療を経験された女性が、「妊娠できなくてもかまいません。不妊治療で注射漬け、薬漬けでボロボロになった私の体を漢方薬でなんとかして欲しいのです」と訴えられたのです。それで彼女の症状を聞いて、最もふさわしいと思われる漢方薬を処方してみたところ、みるみるうちに彼女の体調は回復していきました。

それがきっかけとなり、不妊の女性に漢方薬を使ってみたところ、不妊治療で妊娠されなかった女性が、漢方薬のみで妊娠されることが、ちょくちょく見られるようになりました。それからしばらくして、漢方薬で妊娠された女性に漢方薬を見せてもらったところ、それはメジャーな製薬会社ではなく、保険適用の漢方薬ではあるものの、あまり知られていない会社の漢方薬でした。私が漢方薬のメーカーをその会社に指定して、服用するよう勧めるトライをしてみたのです。そうすると、妊娠される女性がさらに増え始めたのです。それで現在に至るも、漢方薬はメーカー種類によって吟味して使用しています。

 

漢方薬に批判的な医師もいますが

漢方薬に批判的な医師が少なからずいることも、私は承知しています。そうした方々は、漢方薬は科学的な根拠に乏しいという主張をします。漢方薬のほとんどすべてがいろいろな生薬の合剤となっています。個々の成分の効能は解析されているのですが、それらの合剤としての漢方薬の効果は、なかなか評価がしづらいのです。そうしたことがEBM (根拠に基づく治療)の時代にあっては、受け入れない医師もいるのでしょう。

しかし「不妊ルーム」に来られる妊活女性が求めているのは、EBMではなく妊娠です。私はたとえ科学的根拠が充分でなくとも、妊娠という結果が出せて、副作用が少ないのであれば、漢方薬は使用すべきと判断しました。そして、実際に使用してみると、私の予想以上の効果があったわけですから、漢方薬を使用しない理由はないと考えています。

 

漢方薬は西洋薬と相乗効果を発揮する

さらに漢方薬を使用する大きな理由として、世界中で広く使用されている排卵誘発剤クロミッドのとの相乗効果を挙げることができます。クロミッドは経口の排卵誘発剤であり、容易に使用できるのですが、副作用として使用量が増え、使用期間が長くなると、頚管粘液が減少する、子宮内膜が薄くなると言う問題が出てきます。

ここで漢方薬の登場となるのです。クロミッドに漢方薬を併用することによって、こうした副作用をうまく回避して妊娠に至るケースが少なくないのです。実際、「不妊ルーム」においては、「漢方薬+クロミッド」というのが、妊娠する成功パターンのひとつともなっています。

 

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を例に漢方薬の効果を考える

漢方薬の効果について、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を例に考えてみましょう。PCOSは不妊治療の現場で、とてもよく見られる排卵障害の代表的な病気です。PCOSは卵巣という倉庫の中に卵子はたくさん存在するのですが、その扉がロックされているため、排卵できないような状態です。

私は、1)若い女性に、2)月経不順が見られ、3)妊活につまずいていたら、まずPCOSを疑いますし、実際そういう女性の8割前後がこの病気です。

PCOSに対する治療ですが、不妊治療ではしばしばhCG注射が用いられます。これは排卵を強く促す注射ですから、この病気に使うのは理にかなっています。しかし、強く卵巣を刺激するため、いちどにたくさんの卵子が飛び出してしまい、卵巣過剰刺激症候群(OH SS)を起こしやすくなります。

OH SSは大量のホルモンが分泌されることによって、お腹がパンパンになったり、さらに腹水が溜まって入院が必要な場合があります。重症のケースとして、hCG注射は血管にも作用して、水分を血管外に押し出しますので、血液が濃縮されます。血液が濃くなると、血小板の働きで赤血球同士がくっついて、血栓という血の塊ができ、それが血流に乗って、脳の血管などに詰れば脳梗塞もありえます。

「不妊ルーム」では、PCOSに対して注射はおこないません。温経湯という排卵誘発作用のある漢方薬を用いて、穏やかに排卵を誘発します。ロックされている卵巣の扉の鍵を開けるようなイメージです。温経湯だけで排卵する女性もいますし、それが無理な場合には、この漢方薬に排卵誘発剤クロミッドを加えます。こうした方法で妊娠に至る女性がたくさんいるのです。

 

漢方薬+クロミッドで妊娠に至ったPCOSのケース

写真の基礎体温表のケースを見てください。

この方は私に、「私は1日にクロミッドを3錠飲んでも排卵しないのです」と言われました。それで私は、温経湯を処方し、その後にクロミッド1錠を5日間服用してもらいました。その結果、無事排卵しただけでなく、そのまま妊娠に至りました。このようにPCOSの方でも、hCG注射を用いなくても排卵します。軽いPCOSであれば多くの場合、この方法で妊娠に至ると思います。

私は漢方薬と西洋医学の薬を併用することによる相乗効果で、妊娠に至るケースを数多く経験しています。不妊治療に関して、漢方薬は大きなポテンシャルを持っていると日々感じています。

 

漢方薬にエントリーする際の注意点

もし西洋医学の薬で副作用が強く出て体がしんどくなったり、妊娠という結果が出ない方は、漢方薬へのエントリー考えてもよいかもしれません。そしてここで注意しておきたいのは、漢方薬は必ず医師から処方してもらうことです。なぜなら、町の漢方薬屋さんなどで漢方薬を購入すると、毎月の薬代が4万〜5万円という人も少なくなく、私の方が驚いてしまいます。漢方薬は40年以上前から保険適用となっていますので、医師から処方してもらえば大部分の人は3割負担で済みます。

もう一つ医師から処方してもらう大きな理由は、検査を行えることです。例えば、黄体機能不全で漢方薬を処方した場合、使用する前後で黄体ホルモンの値を測定し、そのホルモン値が改善されて、なおかつ基礎体温が良くなっていれば、その漢方薬が効いていると考えて良いと思うのです。要するに、漢方薬の効果を、西洋薬と同様、採血、超音波検査などで追跡することで、その効果の判定もできますし、妊娠につながりやすくもなるのです。私はこの「不妊ルーム」での25年の経験から実感しています。こうした背景がありますから、私はこれからも保険適用漢方薬を使用し続けます。(つづく)

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

KEY WORD

この記事に関連するキーワード

“予約もできる”
公式LINEをはじめました

“予約もできる” 公式LINEをはじめました

当クリニックのカウンセリング予約を取ることができます。

不妊治療に関する当院のスタンス、情報を発信する「こまクリ通信」も一部配信しています。

まずはお友だち登録からぜひご活用ください。

友だち追加 友だち追加

  • 予約もできる公式LINEを始めました
  • カウンセリング
  • 無料相談フォーム
  • お問合せはお気軽にどうぞ
  • 妊活コラム
≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


≪アクセスMAP≫

こまえクリニック 地図
クリックで拡大します

〒201-0014
東京都狛江市東和泉1-31-27
小田急線狛江駅南口徒歩2分
電話:03-3430-1181

≪診療受付時間のご案内≫
■診療受付時間
月・火・金
午前9:00~12:20
午後4:00~6:50
木曜
午前9:00~12:20
午後6:00~8:50
土曜
午前9:00~12:20
日曜
午前10:00~12:50
(第2・第4)
■休診日
水曜・日曜(第1・3・5)
・祝祭日