働く女性の課題、「仕事と不妊治療の両立」について考える

img img
Home

>

コラム

働く女性の課題、「仕事と不妊治療の両立」について考える

clock

2023年7月19日

不妊治療の大きな壁、仕事と不妊治療の両立

不妊治療には多くの負担や制限がつきまといますが、その中でも解決しがたいのが不妊治療と仕事の両立ではないでしょうか。

1985年に制定された男女雇用機会均等法以降、女性の社会進出は目まぐるしく変化し、昨今では、女性も仕事を持つのが当たり前で結婚や出産を経ても仕事をずっと続ける人が多い時代になりました。しかしその一方で、「子どもが欲しい」と願い、その為の積極的な手段として不妊治療を選択している女性も多く、不妊治療を行いながら仕事を続ける事の難しさに直面しているのです。

不妊治療は、通院が頻繁に必要な上、卵胞の育ちや子宮内膜・各種ホルモンの状態によって採卵・胚移植などの予定日が変化します。治療内容によっては体調を崩しやすくなることも珍しくありません。そのため、どうしても先の予定が立てづらく、仕事との兼ね合いも難しくなってしまう場合が多いようです。
また、当然ながら、不妊治療を行っている方の多くは
「数か月後は妊婦である自分の状態」を目標としているため、その頃の行動にある程度の制御をかけなければならない葛藤にも直面します。

例えば、大事な会議に参加したり、プロジェクトのリーダーといった責任ある仕事を担当したりするなど、どれだけやりたいという思いがあっても、その頃の自分の状態が分からないため、自分の気持ちにブレーキをかけてしまうことも。
「もしかすると、周囲に迷惑をかけてしまうかもしれない」という考えもよぎり、二つ返事で引き受けにくくなってくるかと思います。
特に、これまで頑張ってキャリアを積み重ねてきた人や、好きな仕事を一生懸命している人であるほど尚更「頑張りたい仕事を、思うように頑張れない」というジレンマが非常に辛く、時としてそれが精神的な負担になってしまう場合もあります。

実際に、仕事と不妊治療の両立についてアンケートを実施したところ、92%の人が「両立が困難」と答えたという調査結果もあり、働く女性にとって、仕事と不妊治療の両立は、いずれも自分の将来のためであるにも関わらず、両立が難しいジレンマを抱えてしまう大きな壁であるといえるでしょう。

女性の社会進出とフェミニズムの衰退

ある著名月刊誌の女性編集長と話をした時のことです。
多くの採用に携わってきた彼女は、「弊社で採用試験を行うと、面接でも筆記でも優秀な人から順番に採ると女性ばかりになってしまう。これではまずいということで男性も適度に採用することにしている」と、最近では優秀な女性が非常に多いことを話していました。
また、別の編集長からも同様の意見を聞いたことがあり、これは決して出版という世界に限ったことではなく、いろいろな分野においても、こうした現象が見られるのでは、と私も時代の変化を感じるようになりました。

こうした女性の社会進出と反比例するかのように、「フェミニズム(女性解放思想)」という言葉が急速に色あせていきました。とりわけ活字メディアにおいては、そうした文字を目にする機会が少なくなりました。
フェミニズムの衰退は男性側が力ずくでそうさせたのではなく、女性たち自らが社会進出をし、大きな活躍をすることによって、自然にそうなったように私には思えるのです。

私は不妊診療でお悩みの方と接していますが、社会の中で働き輝く彼女たちの口からは、旺盛な向上心、仕事に対するロイヤリティの高さが伝わってきます。

男女関係なくチャレンジを続け、仕事に責任感をもって取り組み、公平に評価されたい、という当然の思いがある一方で、妊娠という女性固有のライフステージに対する思いにも向き合わなければなりません。
フェミニズムという鎧や兜が必要でなくなり、「男女平等」となった一方で、男性とは異なる事情を働く女性たちは抱えながら、キャリアデザイン・ライフプランを模索しているのです。

働きながら不妊治療を続けている方の気持ち

仕事をしながら、不妊治療をおこなっている方はたくさんおり、実際に様々な思いを抱えています。
ここでは、当院に寄せられた声の一部をご紹介しましょう。

1)
不妊治療・高度生殖医療は、わたしにとって生き方の大きな選択の一つであり、
「自分にとって子どもとは何か」
「家族とは何か」
「何に価値をおいて生きていきたいのか」
「何を正しいと考えるのか」
などといったことを自分に問い選択する契機であったと今は考えています。
そういった意味で、今思うことは、単に治療の成功ばかりを目指すのではなく、
「本当はどうしたいのか」をじっくり考える機会も持ちつつ治療できる環境が必要だと感じています。

2)
妊娠する事に関心が行き過ぎて、夫に当り散らしたあとは、必ずスキンシップや言葉で、子どもよりも大事だと夫に伝わるようにしました。夫は私の話をよく聞くことを重視していたようです。将来については意見の一致を見なくても、何度も話し合いました。

3)
相手に感謝する事とプレッシャーを与えないように気をつけました。整理整頓、居心地の良い空間作りを心がけたつもりです。とにかくいっしょにいる時間はいつもケラケラ馬鹿話をして仲よしでいました。

4)
主人が不妊に対して無知だったが、返ってそれが幸いしたようです。不妊の原因は主人のほうでしたが、彼が深く悩んだり焦ったりすることがなく(顕微授精すれば出来るだろー、だったらいいじゃん、という感じだった)私のほうも一人で考えているのがバカバカしくなり、「なるようになるか」と気楽に構えていました。とくに将来について話し合ったりもしなかったし、一致団結して不妊にとりくんでといいうような姿勢というよりも、不妊を自分達のあいだに置かなかったこと、私たち自身は普段と全く変わらずにいたことが結果的に幸いしたと思う。
5)
生理周期11日目に、○○クリニックを受診しました。
結果は以下の通りです。

・フーナーテスト良好
・11日目だが、まだ卵子が大きくなりきっていなくてホルモン値も低い状態。
医師より「○月○日が排卵日と想定される」とのことだったので、ここでの採卵に向けて進めようとなったのですが、指定された日の前後が出張となっており私の仕事のスケジュールが既に動かせなくなっており(指定の日前後は出張)、来院できない事情を申し上げて医師に伝え、次回周期にお願いすることにしました。

しかしドクターからは「治療の日程は神様にしか決められない。私たちスタッフは年中無休で頑張っている。同じように患者さんにも覚悟してもらわないと!」と、かなり怖い面持ちで言われ、半分叱られたような気持になりました。

先生がおっしゃることは良く理解できますし「出来ることなら自分だってそうしたい。」と思っているのですが、あのような口調で非難されてしまうと、働いている女性にとってはかなりつらく感じると思います。ドクターにとっては数ある出来事の一つで、そうそう記憶には残らないのでしょうが、こちらは少々引け目を感じ引きずってしまいます。

「治療を最優先できないなんて考えられない!本気なのか?」ということでしょうが本気でなければ、あんなに朝早くから通院しないですよね。
働いている女性が不妊治療をする時には「職場のみならず、クリニックにまで申し訳なさを感じてしまうのか?」と悲しくなりました。

私が勤めている会社は不妊治療に対し自身は理解がありますし、自分でスケジュール調整できる状況にありますので今後に向けて対策を考えられるのですが…。両立を推進する立場としては、問題の難しさを改めて感じさせられた次第です。

ある女性の“仕事と不妊治療の両立”対する気持ち

ここではある女性から頂いたメールをご紹介いたします。

私は今、派遣で○○グループの会社に勤務していますが、それまで私が働いてきた環境とはかなり違い、子育てをしながら働いている女性がたくさんいることにとても驚きました。それも髪を振り乱して、という感じではなく、自然体の人が多いように思えます。特に家庭を持った場合、男性と女性ではどうしても女性にかかる負担のほうが大きいように思えます。(もちろんケースバイケースだとは思いますが。)

不規則な仕事をしていたこともあり(国際線客室乗務員)、必要な日にお休みが取れなくて確定できずかなり苦労しました。
当初は不妊治療を始める前は「仕事と両立させて…」と思っていましたがそれもまた気づかないうちにストレスになっていたようです。
お休みを申請しようにも女性が多い職場で、しかも上司は独身で仕事一本の人女性が多い為「不妊治療で」という理由を言うことはできませんでした。
ただ全ての物事にも言えることだと思いますが、いつかは必ずプライオリティをつける必要があると思います。私の場合は現在の病院を紹介された時に治療を第一に考える事に決めましたので、病院に行く必要な日は仮病にして通院しました。
(そんな折に会社で早期退職優遇制度の募集があり、応募して辞表を出した途端に妊娠したのは不思議です???)

今後の課題として不妊治療のみならず、妊娠・出産から育児というレールをトータルで、家庭・職場そして社会全体の問題として考えていかなければいけないと思います。そうした取り組みこそが、少子化対策の実行・実現にも繋がっていくものと思います。

男女雇用均等法は確かに大切なことかも知れないけれど、女性にしか出来ない事、男性にしか出来ないことがあると思います。女性はまり大きな事を言ってはいけないのでは?」と思ってしまう。子供を生み、育てるのはとても大切な仕事だと思います。

これまでは、男女の形式的な平等に目が向けられていたように思いますが、これからは、出産・育児と仕事の両立という意味で、男女の実質的な平等を考えていかないといけないと思います。
(仕事を持ちながらの、妊娠、出産、育児はやはり大変だと思います。大企業などでは、だいぶ環境が良くなっていると思いますが…)

最近読んだ本で「平等」と「フェア」は違う、という話があり、まったくそうの通りだと思っています。
妊娠、出産、育児 と仕事とを並行する(私は両立という言葉も違うと思います)ことは当たり前ですがとても大変なことです。
妊娠前と同じように仕事ができないのは当たり前のことなのに、「男女雇用均等法」という言葉の裏に「同じだけ働いてこそ平等」という「無言のプレッシャー」があるような気がします。
本来、自分ができるところまで仕事をし、それが妊娠前の6割だったらその分報酬も6割にするなど 柔軟な社会の対応があれば、それこそが本当に「フェア」なのだと思います。また10割働けるようになったらそのときはそのとき。
「男女」だけでなく同僚の女性や、同じ子供をもつ立場の女性との間にも「フェア」な関係が必要です。そうしないとますます 子供を持とうとする女性は肩身が狭く、働きにくくなります。

多くの女性からの訴えに関して思うこと

このように実際に多くの女性が、仕事や不妊治療にジレンマを抱えています。
社会や職場での対応がまだ働く女性にとって十分に配慮されたものではないかもしれません。しかし、そういったことに頭を抱えていても時間だけが過ぎていくのが現実。
自身がどういった思いで、仕事を続けるのか、妊娠を望むのか…といったことは、時には感情に折り合いをつけながら向き合っていく必要があるように感じます。

不妊治療や不妊の悩みに生活を占領されないで
多くの方とお会いしてきて漠然とですが、仕事している方のほうが不妊治療に対して悩みを抱え過ぎないという印象があります。

なぜなら、仕事中はもちろん仕事に集中しますので、その間は子どもができないという現実を忘れて、目の前の仕事に打ち込むことができるからだと思います。

「不妊治療のために、仕事をあきらめました」という方もいらっしゃいますが、それがかならずよい結果につながるとも限りません。
実際に私の患者様の中にも「不妊治療に専念するために仕事をやめたが、生活が不妊治療一辺倒になってしまいつらくなったので、気持ちを入れ替えて仕事に戻ろうと思ったら、妊娠した」
——そんな複雑な(?)報告メールもいただいたこともあります。

このように書くと、仕事をしているほうが、妊娠しやすいと思われるかもしれませんが、
仕事のストレスが非常に強かったり、仕事で疲れ果ててまっとうな夫婦生活が送れなかったりというのも妊娠しづらい原因となることもあるため、どちらが良いとは言い切れないでしょう。

もっと自分を好きになろう

不妊治療を受けていると、女性は“子どもができない自分”を嫌いになりやすい傾向にあります。
不妊は決して自分を責めるべき事ではありませんが、思うような結果が出ないことが続くと悩んでしまう女性も少なくはありません。
ですが、そこで立ち止まって、今までのことを少し思い出してみてはいかがでしょうか。
打ち込んでいたスポーツ、趣味はありませんでしたか?
どんなところに出かけるのが好きでしたか?
これだけは人に自慢できるという長所はどこですか?
好きな仕事で輝いていた時や成功体験はありませんでしたか?

妊娠のことばかりに悩まされないで、自分のいいところを発見して、もっと自分のことを好きになってみましょう。
仕事や不妊治療の両立は決してラクなものではありません。何かしらの制約があったり、時には諦めなければならないこともあったりするでしょう。
そんな時、自分が大切なものや打ち込めるものがあれば、 きっと妊娠に対してもポジティブになれると思います。

私は、不妊治療の医師として、女性たちのごく一部の人生に関わっていますが、仕事などを前向きに楽しんでいる女性が、不妊治療にも前向きに向き合っているようです。
共通しているのは、彼女たちが「自分や自分の人生を好きでいる」こと。
男女平等とは言え、まだ公平ではない社会において、女性が仕事と不妊治療を両立するためにはまだ多くの社会課題がありますが、私も医師として、女性の思いをサポートしていきます。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

KEY WORD

この記事に関連するキーワード

“予約もできる”
公式LINEをはじめました

“予約もできる” 公式LINEをはじめました

当クリニックのカウンセリング予約を取ることができます。

不妊治療に関する当院のスタンス、情報を発信する「こまクリ通信」も一部配信しています。

まずはお友だち登録からぜひご活用ください。

友だち追加 友だち追加

  • 予約もできる公式LINEを始めました
  • カウンセリング
  • 無料相談フォーム
  • お問合せはお気軽にどうぞ
  • 妊活コラム
≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


≪アクセスMAP≫

こまえクリニック 地図
クリックで拡大します

〒201-0014
東京都狛江市東和泉1-31-27
小田急線狛江駅南口徒歩2分
電話:03-3430-1181

≪診療受付時間のご案内≫
■診療受付時間
月・火・金
午前9:00~12:20
午後4:00~6:50
木曜
午前9:00~12:20
午後6:00~8:50
土曜
午前9:00~12:20
日曜
午前10:00~12:50
(第2・第4)
■休診日
水曜・日曜(第1・3・5)
・祝祭日