AMHは卵子の〝数〟の指標に過ぎない

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コラム

AMHは卵子の〝数〟の指標に過ぎない

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2024年8月16日

そもそもAMHとは?

不妊治療の現場では、いま「AMH」の三文字が大きな影響力を持っています。AMHの検査を受けた方がたくさんおられると思います。しかし、AMHの測定が行われるようになってきたのは、最近のことです。

AMHとは、「抗ミューラー管ホルモン(Anti-Müllerian hormone」の略です。このAMH値が何を意味するのか。ごく簡単に言えば「女性の卵巣の中に残されている卵子(原始卵胞)の〝数〟の指標」です。すなわち、AMHの値が低いということは、女性の卵の数が少ない(減ってきている)ということです。 これは女性の年齢と相関します。

卵子の数は、年とともに減り続けるわけですから、年齢が高くなるにしたがってAMHの値が低くなるのは自然なことです。繰り返しますが、AMHは卵子の数の指標です。

ところが、最近の不妊治療の現場では、AMHの値から、「あなたは35歳ですが、あなたの卵巣年齢は42歳前後です。ですから早く体外受精にエントリーしましょう」という流れが顕著になってきているのです。すなわち、「AMH低値=体外受精への誘導」というパターンができあがりつつあるのです。私はこれを、ゆゆしきことだと思っています。

卵巣の老化を示す値には、FSHやLHなどいくつかありますが、「AMH」は、そうしたもののひとつにすぎないのです。これは、検査結果一般について言えることなのですが、数値をそのまま受け止めてしまうと、袋小路にはまり込んでしまうといった例が少なくありません。たとえば男性はよく、精液検査の数値が悪いことを気にしますが、精子の数や運動率は、男性のコンデション、あるいは仕事の忙しさなどによって大きく左右されることもまた事実なのです。

 

卵子の数が減っても、質のよい卵子は存在している

「AMH」の問題を、わかりやすく説明したいと思います。「AMHと卵の数、卵巣年齢との関係」を理解するために、抽選会や福引きなどでよく使われる、あのガラガラと回して玉がポンと一個出てくる抽選器に例えてみます。

普通はいろいろな色の玉が入っていますが、話をシンプルにするために、「白い玉=ハズレ」、「赤い玉=当たり」の2種類の玉だけが入っていると考えてください。そして、それを卵子に置き換えると、「赤い玉が、赤ちゃんになりうる卵子」、「白い玉が、そうでない卵子」と考えてみてください。女性が若いということは、その器械の中に入っている玉の数そのものが多いということです。さらに、「白い玉」よりも「赤い玉」の割合が高いわけです。

そうすると、その器械をまわすと、若い女性の場合、「赤い玉」が飛び出すことが多いはずです。そして、年齢が進むにつれて、玉の数全体が減っていくとともに、「赤い玉」と「白い玉」の比率が逆転していきます。したがって、「白い玉」が出てくる場合が、年齢が上がるにつれて高くなっていきます。

しかし、ここで大切なことは、「毎月出てくる玉は1個だけ」ということです。そして、「AMHの値は玉全体の数と年齢が相関する」という、ただそれだけなのです。AMHの値をもって、玉の色を評価することはできません。20代の女性であれば、1年に12回排卵があれば、そのうち7〜8回が赤い玉が排卵されると思います。そして女性が35歳であれば4〜5回程度に、さらに40歳に近づけば2〜3回程度に減っていくだろうと予想できます。しかし、年齢が高いからといって、「赤い玉」が全く出てこないわけではありません。

繰り返しますが、「赤い玉」と「白い玉」の比率ということについても、AMHという値からは、何も読みとれないのです。むしろ、この「卵の質の評価」に関しては、以前より使われているFSHの値の方が、相関性が高いと思います。

また、数値というのはあくまでも指標ですから、あまり鵜呑みにしすぎないことも肝要です。というのも、「あなたは37歳ですが、AMHの値が40代半ばです、早く体外受精を行いましょう」とすすめられた方が、「不妊ルーム」で、〝漢方薬のみ〟で妊娠に至るなどといったことを、私はたびたび経験しているからです。

 

「不妊ルーム」の妊娠例から‐AMHについて

「不妊ルーム」で妊娠された40歳の女性をご紹介したいと思います。彼女は30歳で結婚して3年しても子どもに恵まれなかったため、不妊治療を開始しました。1年以上タイミング法を行ったのち、人工授精を10回以上も行いましたが妊娠に至りませんでした。そして体外受精にエントリーして3回目の体外受精で第一子を授かりました。この時彼女は36歳でした。

それから3年後、2人目の妊娠を希望して、再度不妊治療を始めたわけですが、この時にAMHの検査を行いました。そしてその数字が0・82で、医師から50代半ばの女性の数字だと伝えられたそうです。すぐに体外受精を行うようにすすめられ、それでまた体外受精を行うことになりました。おかしな話しだと思いませんか?

〝50代半ばの女性の数字〟であれば、妊娠はあり得ないはずです。それなのにカップルを体外受精にエントリーさせてしまう、こういう医師が、残念ながらいるのです。そして、体外受精を3回行っても妊娠に至りませんでした。それで「不妊ルーム」に相談にこられたのです。彼女は40歳になっていました。

私は彼女の卵巣機能の指標である、生理中のFSHの値を調べましたが、30代半ばの数字と判断しました。しかしながらDHEAの値が低かったので、私は彼女にDHEAサプリメントの服用を勧めたのです。そして漢方薬も併用するという「卵巣セラピー」を行ったところ、妊娠に至りました。

彼女が当院に来たとき、「高度生殖医療はもうあきらめました。やりきったと思います。もしまだ少しでも自分に妊娠する可能性があるならば……」という言葉が印象的でした。

AMHは卵巣年齢の指標という言い方をされますが、正確ではありません。繰り返しますが、AMHの値が示すものは、卵巣の中に残されている卵の数の指標です。数字というものを、あまりに頭ごなしに信じてしまうことは、気をつけなくてはなりません。ときどき深呼吸してみることも大切なのです。

著者:こまえクリニック院長 放生 勲

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≪院長プロフィール≫
こまえクリニック院長 放生 勲

昭和62年3月 弘前大学医学部卒業

都内の病院にて2年間の内科研修

フライブルク大学病院および
マックス=プランク免疫学研究所留学

東京大学大学院医学博士課程修了
(東京大学医学博士)

平成11年5月こまえクリニック開院


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