基礎体温表を活用しよう
不妊ルームでは基礎体温表で
妊娠にナビゲートします。
BBTは女性の体を映し出す鏡
基礎体温(BBT: Basal Body Temperature)は、朝目がさめて、ベッドから出る前に計る体温のことをいいます。このBBTを毎日計り、記録をつけていく表が基礎体温表です。
基礎体温表はいうなれば、子宮と卵巣の状態を映し出す鏡のようなものだと考えてよいでしょう。きちんとつけていれば、生理周期や排卵日だけではなく、体内のホルモンや体の状態、その時に抱えているストレス量まで、さまざまなことが分かるようになります。基礎体温表から女性が自分自身の体調を知り、ひいては自分の「妊娠力」を知るうえでとても有用性の高いセルフチェック・ツールだといえます。
ところで、このすばらしい基礎体温表を世界で最も賢く使っているのは、実は日本人女性です。というのも、海外に暮らす日本人の女性から寄せられるメールの中で、日本を除くほとんどすべての国で、基礎体温表は一般的ではなく、その存在すら知らない医師が多いという訴えを数多く受け取っているからです。海外に暮らす彼女たちは、せっかく基礎体温表というデータを持っていながら、それを活用してくれる医師にめぐり合えないがために、私にアドバイスを求めてくるようです。
基礎体温表は日本女性が誇るべきツール
しかし残念なことに、最近では日本でも医師が基礎体温表に関心を持ってくれないという訴えをよく聞くようになりました。患者が基礎体温表をきちんとつけ、医師がそれを見てアドバイスを行うという日本の不妊治療の歴史は、世界に誇れることだと私は思います。
基礎体温表を不妊治療に利用するというのは、日本独特の方法といってもよいものです。しかし、基礎体温表そのものは、1930年代にアメリカで避妊を目的として発明されました。しかしながら、その後ピルが普及すると、基礎体温表はアメリカでは急速に廃れていきました。日本には戦後になって紹介されましたが、日本人は基礎体温表を避妊のためだけに用いるのではなく、妊娠するためのツールとして転用し、タイミング法としても広く普及させていったのです。そして、この体温の変化を記録し、自分なりにその意味を読み取るということは、日本女性がごく自然におこなっていることなのです。
日本では、ティーンエイジャーでも、基礎体温表のことは知っているでしょう。ましてや、赤ちゃんができにくいと感じている場合、ほとんどすべての女性が基礎体温表をつけています。この日本女性に連綿と続く文化、世界に誇れる女性の知恵を、失うべきではないと、私は思います。余談ながら、ロシア人の女性がカウンセリングに見えられたことがあり、お話を聞いたところ、ロシアでは基礎体温表が広く普及しているとおしゃったのには、すこし驚きました。
基礎体温表から読み取れる情報
基礎体温表を活用できずに困っているのは、海外に住んでいる女性だけではありません。日本においても、この情報を重要視する医師は減りつつあります。なかには、「必要ない」と断言する医師がいるということを、私はカウンセリングを行った女性の方から、何度も聞かされました。
こうした背景には、経膣超音波法による卵胞チェックが普及したことがあります。基礎体温表は、体温の変化を通して間接的に卵巣の状態を知るものです。しかし、経膣超音波法では直接卵胞の状態をチェックできるのですから、より確実というわけです。
ところが、この検査にも短所があります。この検査を卵胞の成熟しているときにタイムリーに行えればいいのですが、必ずしもそううまくはいかないのです。前回の検査ではまだ未成熟、次の検査ではすでに排卵してしまった、ということもしばしばです。つまり、検査と検査が点でしかなく、変化が線でつながらないということです。その点、基礎体温表は、昨日、今日、明日が線でつながるところがすぐれていると言えます。
卵胞チェックは婦人科の診察室においてしか行えませんが、基礎体温表をつけることと、排卵日検査薬を使用することは、家庭で行えるという大きなメリットがあります。こうした方法は、女性の心身に負担をかけることなく、女性自身が自立した妊娠へのステップを踏むことを可能にする、方法だと考えます。
基礎体温表をつける
5つのポイント
基礎体温表を有効に活用するには?
基礎体温表をきちんとつけている人の中にも、記入することで安心して、その情報をまったく活用できていない人は案外多いものです。また、あまり生真面目につけていると、少しでも書き忘れがあれば気になってしまいますし、「書かなければならない」等のプレッシャーのせいで逆に長続きしない場合もあります。
基礎体温表は、とりあえず3か月間、気楽につけてみましょう。ここでは、基礎体温表を記入するうえでの、いくつかのポイントをピックアップしてみましょう。
1.基礎体温は目が覚めたときに計る
基礎体温は、毎朝ぴったり同じ時刻に計測するものだと思う人が多いようですが、そこまで生真面目に考える必要はありません。早起きする朝もあれば、ちょっと寝坊してしまう日もあるのは当然。基礎体温は、目が覚めたとき、布団から出る前に計りますが、その時間は毎日同じでなくて大丈夫。少々ズレがあっても、長続きすることのほうが大事です。
2.基礎体温表はひと目でわかるものを
基礎体温表は、時間の経過と体温の変化がひと目で見られる一覧性のあるものをすすめます。そのため、一枚の紙に長く記入でき、さらに高温期と低温期の境界線である36・7℃に明確な線が引いてあるものがよいのです。この36・7℃の線を境に、高温期と低温期が、周期的に繰り返されることが、妊娠のためには大切です。
3.なるべく多くの情報を書き込む
生理の日、セックスをした日、体の変化、服用薬や服用時期といった情報を分かりやすく書き込んでいきましょう。これにより、自分たちの状況を客観的に見ることができます。その情報をもとにいろいろと試してみたり、医師から処方された薬が効いているのかを確認することもできます。私は、次のようなチェック方法を指導しています。
- 生理日には×印をつける
- おりものなど、女性特有の症状があった日に印をつける
- 排卵日検査薬の結果〔陰性(-)か陽性(+)〕を記入する。
(-)(+)の判定があやしい場合は、(±)と記入する。 - 通院日、検査結果、服用した薬などを記入する
4.排卵日を自分で予想してみよう
基礎体温表をある期間つけて自分のリズムがわかってきたら、排卵日を予測してみましょう。
低温期が長く続いたあと、最後に体温がすこし下がる日があります。これを「最低体温日」といいます。それからすこしして、卵巣の中で育った卵胞が破れて排卵され、卵胞は黄体に変わります。その黄体から分泌される黄体ホルモンの影響で体温が上昇するため、高温期に移行するのです。
排卵は、体温が最も下がった日、もしくはその翌日頃に起こることが多いです。統計的には、最低体温日の前日が5%、最低体温日当日が22%、翌日が40%、翌々日には25%の確率で排卵されることが分かっています。 この最低体温日前日からの5日間が「GOLDEN 5DAYS」。この期間のセックスは、惜しまず、楽しんでしてほしいと思います。
5.排卵日検査薬で排卵のタイミングを
さらに正確につかもう
「排卵日検査薬」は、薬剤師さんがいる薬局で売っています。1週間分で3000円~4000円程度です。排卵日検査薬は、排卵直前にLH(黄体形成ホルモン)の分泌が急に上昇する現象(LHサージ)をチェックするためのものとなります。検査のやり方は、妊娠検査薬と同じく、尿をかけて反応を見るだけ。いたって簡単です。
使用のタイミングとしては低温期の終盤、そろそろ排卵日が近いかなと思ったところから始めましょう。時間は何時でもかまいませんが、毎日だいたい同じ時間帯で検査することをおすすめします。はっきり陽性という判別ができない状態で排卵日へと近づいているような気がする時は、朝と夕の2回確認を行い、忘れないように基礎体温表に結果を記入しておきましょう。これを何周期か繰り返すうちに、自分の排卵のパターンが見えるようになってきます。
また、排卵日検査薬は陽性になってから再び陰性の反応が出るまでおこないましょう。また基礎体温表を見ても、どの時期が低温期終盤か分かりづらい場合、少し早めに使いはじめるとよいです。
理想的は
カウボーイハット型
妊娠しやすい基礎体温のパターンは、跳び箱を跳び越えるような形です。平らなグラフの低温期が継続したのち、急に勢いよく体温が上昇して高温期へと入り、そのまま高温が平らな状態で続いてから急降下するように落ち、そして生理がはじまる「カウボーイハット型」を描くのです。
低温期から高温期への境界があいまいで、ゆっくりとした上昇が見られる場合、うまく卵子が成熟できていない可能性があります。また、高温相と低温相が二相に分かれず、平坦な場合は、生理があっても排卵されていない疑いがあります。
基礎体温表はあなたの卵巣や子宮を映す鏡。この表があなたに、お医者さんに相談しなさいとサインを発することもあるのです。