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妊娠された方のカルテを振り返ってみると
「不妊ルーム」の通院者が妊娠された時、あるいは紹介先の医療機関で体外受精などを行い、妊娠の報告を受けた時、私は必ずその方のカルテを振り返ります。そして、妊娠した周期にどのような治療をしていたのか、その時の検査データはどうだったのかを、あらためて詳しく見直します。
長年これを続けていると、ある共通点が見えてきます。それは、妊娠された周期には、亜鉛と銅のバランスやDHEAなど、卵巣や卵子の成熟に関係する項目が、良い状態に整っているケースが少なくないということです。
もちろん、妊娠は一つの検査値だけで決まるものではありません。年齢、卵巣機能、精子の状態、排卵、卵管、子宮内膜、タイミングなど、さまざまな要素が関係しています。しかし、「卵子が妊娠できる状態に成熟しているか」という視点は、妊活を考えるうえで非常に重要です。
卵子は「数」だけを見ていてはいけない
妊活では、AMHがよく話題になります。AMHは卵巣に残っている卵胞の数を推測するうえで有用な検査ですが、基本的には「卵子の数」を見る指標です。AMHが高ければ妊娠しやすく、低ければ妊娠できない、という単純なものではありません。むしろ年齢とともに重要性を増してくるのが、「残っている卵子が、いかに成熟していくか」という問題です。
卵子は、ただ卵巣の中に存在していればよいわけではありません。排卵に向けて成熟し、受精できる状態になる必要があります。その過程には、さまざまな栄養素やホルモンが関わっています。私は、この「卵子が育っていく環境」を整えることを、卵巣セラピーという考え方で捉えています。
亜鉛は「卵子の成熟」に関わる重要なミネラル

卵巣セラピーを考えるうえで、私が特に注目している栄養素の一つが亜鉛です。亜鉛は、体内でさまざまな酵素反応や細胞の分裂・増殖などに関わっている必須ミネラルです。そして、卵子の成熟過程にも亜鉛が関与していることが研究から分かってきています。
卵子が成熟する際には、亜鉛の動きが大きく変化します。受精後には、卵子から亜鉛が一気に放出される「亜鉛スパーク」と呼ばれる現象も知られています。これは、卵子の活性化と関係する重要な現象です。
つまり、亜鉛は単なる「妊活サプリ」の一成分として考えるのではなく、卵子の成熟や受精後の初期過程にも関わる栄養素として考える必要があります。
ただし、亜鉛は多ければ多いほどよいというものでもありません。亜鉛を補う場合には、銅とのバランスにも注意が必要です。私は「亜鉛を足せばいい」のではなく、「亜鉛と銅のバランスを整える」という視点を大切にしています。
もう一つのキーワードがDHEA
卵巣セラピーで、もう一つ重要なキーワードがDHEAです。DHEAは副腎などで作られるステロイドホルモンで、体内では性ホルモンの材料にもなります。年齢とともにDHEAの分泌量は低下していきます。特に40代以降の妊活では、卵巣機能を考える際にDHEAを意識することには意味があります。
私は必要に応じてDHEAの状態を確認し、その人に補充が適しているかを検討します。ここで大切なのは、「DHEAサプリメントを飲めば卵子の質が必ず上がる」という単純な話ではないということです。DHEAはあくまで卵巣環境を考える一つの要素です。血液検査などを踏まえ、その人にどの程度必要なのかを判断することが重要です。
「卵巣セラピー」は卵子を若返らせることではない
卵巣セラピーという言葉から、「卵子を若返らせる治療」をイメージする方がいるかもしれません。しかし、そういう意味ではありません。年齢による卵子の変化を、薬やサプリメントだけで元に戻すことはできません。だからこそ私は、「卵子を若返らせる」のではなく、「今ある卵子ができるだけ良い環境で成熟できるようにする」という考え方が大切だと思っています。
私が考える卵巣セラピーは、漢方薬、DHEA、亜鉛と銅のバランス調整、甲状腺ホルモンのコントロールなどを、その人の状態に応じて組み合わせていくものです。これは、単に卵巣だけを見る治療ではありません。卵巣を取り巻く「土壌」を整えることです。
卵子の質の大切さは、自然妊娠も体外受精も同じ

質の良い卵子が排卵されれば、タイミングが合って自然妊娠に至る可能性があります。また、体外受精を行う場合でも、採取された卵子が成熟し、受精し、胚として発育していくことが重要になります。つまり、「自然妊娠を目指す人」と「体外受精を受ける人」で、卵子の質を考える必要性が違うわけではありません。
体外受精をすれば卵子の問題が解決するわけでもありません。体外受精は、卵子と精子を出会わせる場所を医療によって変える治療です。その先にある受精、胚発育、着床、妊娠という過程には、卵子そのものの状態も深く関係しています。だから私は、体外受精を始めるかどうかを考える前に、「卵巣の環境を整える」という視点を持ってほしいと思っています。
妊娠できる体を整えることが大切
長年、「不妊ルーム」で妊活をサポートしてきて、私が強く感じるのは、妊娠は単に排卵すればよい、受精すればよい、というものではないということです。卵巣の中で卵子が育ち、成熟して排卵される。その卵子が精子と出会い、受精し、その後の発育を経て妊娠につながっていく。そのスタート地点にある卵子の状態を考えることは、とても大切です。
妊活年齢が高くなっている今だからこそ、「卵子を育てる環境を整える」ことにも、もっと目を向けてほしいと思っています。それが私の考える「卵巣セラピー」です。
妊娠を目指すなら、卵巣を酷使するのではなく、卵巣をいたわり、卵子が成熟していくための環境を整える。亜鉛、DHEA、甲状腺ホルモン、漢方薬などを必要に応じて見直しながら、卵巣という「妊娠の土台」を整えていく。「卵子の数」だけを見るのではなく、「卵子の質と成熟」に目を向ける。それが、これからの妊活に必要な視点だと私は考えています。


