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「妊娠するまで」を人生の待ち時間にしない
妊娠を望んでいる方に、あえてお伝えしたいことがあります。それは、「妊娠していない今を、もっと楽しんでください」ということです。
不妊治療をしていると、いつの間にか「妊娠すること」が人生の最大の目標になってしまいます。今月は妊娠できるだろうか。排卵はいつだろうか。生理が来なければいいのに——。頭の中が妊娠のことでいっぱいになり、妊娠できていない自分の人生を、どこか「おあずけ」にしてしまうのです。
けれど、あなたの人生は「妊娠するまでの待ち時間」ではありません。妊娠していない今も、あなたの人生そのものなのです。
隣の芝生は青く見える
街を歩いていて、目の前をベビーカーを押したカップルが通り過ぎる。そんな光景を見れば、複雑な気持ちになることもあるでしょう。「どうして私には……」と、心がざわつくこともあると思います。
でも、隣の芝生は青く見えるものです。
子どもがいる生活には、もちろん大きな喜びがあります。一方で、子どもがいるからこそ生まれる時間的な制約もあります。たとえば、子どもと一緒にファミリーレストランへ行くことはできても、夫婦二人でラウンジに入り、ゆっくりワイングラスを傾けるような時間を持つのは簡単ではありません。思い立ったときに海外へ出かけることも、仕事に思い切り情熱を注ぐことも、子どもがいない今だからこそできることがあります。
世界中を飛び回っていた34歳の女性

以前、「不妊ルーム」に34歳の女性が来られました。彼女はツアーコンダクターで、世界中を飛び回る仕事をしていました。
持参した基礎体温表を見ると、測定できていない日がかなりあります。ところが、その空欄の下には「ケープタウン」「北京」「パリ」など、世界各地の都市名が記されていました。
私はその基礎体温表を見ながら、「なんて素敵な人生を送っているんだろう」と思ったものです。
そんな彼女が、通院を始めて4カ月ほどで妊娠しました。もちろん、妊娠したことは喜ばしいことです。
ところが、その後、流産予防の漢方薬を取りに来院されるたびに、彼女の表情から少しずつ元気がなくなっていきました。
話を聞いてみると、「妊娠がわかってから、グランドワークになったんです」と言います。そして、こう続けました。
「私は、お客さんと一緒に世界中を飛び回ることに喜びを感じていました。でも、今はチケットの手配をしていても、楽しくないんです」
私は、なるほどと思いました。彼女は妊娠したことで、それまでとはまったく違う生活に入ったのです。それまで生き生きと楽しんでいた仕事が、妊娠を境に「できないこと」の多い仕事になってしまいました。
妊娠すれば、すべてが幸せになるわけではない
妊娠を望む気持ちは自然なものですし、赤ちゃんを授かることは大きな喜びでしょう。ただ、「妊娠さえすれば、今より幸せになれる」と考えることとは別問題です。
妊娠したら、妊娠したときの人生が始まります。出産すれば、子どもがいる人生が始まります。そこには、それまでとは違う喜びがあり、同時に、それまでにはなかった制約や責任も生まれます。
だからこそ、妊娠していない今を「妊娠するまでの期間」と考えないでほしいのです。
今だからこそできることを楽しもう

旅行に行く。仕事に打ち込む。夫婦で食事をする。友人とお酒を飲む。好きな映画を見る。思い立ったときに遠くへ出かける。あるいは、何もしないでのんびり過ごす。
こうしたことの一つひとつが、今のあなたの人生です。
妊娠したらできなくなることがあるから、今のうちに楽しんでおきましょう——というだけの話でもありません。今の自分には、今の自分にしかない自由があり、今の自分にしか味わえない時間があります。その価値を、妊娠できていないという理由だけで小さくしてしまわないでほしいのです。
「不妊ルーム」からの提案
私は「不妊ルーム」で、妊娠を希望する方をサポートしています。卵巣セラピーなどを通じて、妊娠への道のりを一緒に考えていきます。しかし、その道のりを歩いている間も、人生を止める必要はありません。
妊娠を追いかけることに疲れたら、少し立ち止まってみましょう。そして、「妊娠していない私は不幸だ」という考えを、いったん手放してみてください。
あなたには、あなたにしか楽しめない「今」があります。
妊娠する日を待ちながら生きるのではなく、妊娠していない今を生きる。それが、私の提案する「Non-妊娠ライフ」です。
さあ、妊娠していない今を、思い切り楽しみましょう。


