目次
妊娠という「実」をつけるために、まず木を育てる
「不妊ルーム」では、妊活を説明するときに、よく「妊活の木」というイメージを使います。
植木鉢に一本の木が植えられていると想像してください。その木の先に、妊娠という「実」がなるのです。
では、木に実をつけてもらうためには、何が必要でしょうか。
もちろん、日当たりのよい場所に置くことも大切です。そして、土に水を与え、必要な栄養を補ってあげなければなりません。
木そのものが弱っているのに、「早く実をつけてください」と枝だけを一生懸命伸ばしても、なかなかうまくはいかないでしょう。
妊活も、私はこれと同じだと考えています。
妊娠を目指すとき、どうしても「いつ排卵するのか」「人工授精をするか」「体外受精に進むか」といった、目の前の方法に意識が向きがちです。
しかし、その前に考えてほしいのが、「妊活の木そのものが元気に育っているだろうか」ということなのです。
「妊活の木」は幹を太くする
私が特に大切だと考えているのが、「幹を太くする」という発想です。
木の幹が細く弱ければ、そこから伸びる枝も細くなります。反対に、しっかりとした幹ができれば、そこからいろいろな枝が伸びていきます。
妊活も同じです。
幹にあたるのは、卵巣を含めた身体全体のコンディションです。月経周期、排卵、ホルモンの状態、栄養状態、生活習慣などを一つひとつ確認しながら、「妊娠を目指すための土台」を整えていく。
これが、私の考える「妊活の木を育てる」ということです。
「不妊ルーム」では、こうした身体のコンディショニングを「卵巣セラピー」と呼んでいます。血液検査などで身体の状態を確認し、必要に応じて甲状腺ホルモン、ビタミンD、亜鉛などにも目を向けます。
また、漢方薬を用いて身体の状態を整えていくこともあります。DHEAについても、適応を検討しながら取り入れることがあります。
もちろん、これらは誰にでも必要というものではなく、検査結果や体調を踏まえて考えます。つまり、「何か一つを飲めば妊娠できる」という話ではありません。
大切なのは、木全体を見渡し、必要なところに手を入れていくことなのです。
自然妊娠も、人工授精も、体外受精も「枝」である

ここで、皆さんに三階建ての家をイメージしていただきたいと思います。
一階が「不妊ルーム」です。ここでは、妊活の木の幹を太くすることを考えます。そして二階が不妊治療、三階が体外受精です。
もちろん、これは人工授精や体外受精が不要だという意味ではありません。年齢、卵管の状態、精子の状態、卵巣予備能、これまでの治療歴などによって、早い段階から生殖補助医療を検討したほうがよい場合もあります。
不妊症の検査では女性側だけでなく男性側の精液検査なども重要です。
私がお伝えしたいのは、「妊娠するための方法」だけを見るのではなく、「その方法を支える身体の土台」も見てほしい、ということです。
自然妊娠という枝を選ぶのか、人工授精という枝に進むのか、それとも体外受精という枝に進むのか。その選択は、それぞれのご夫婦が考えてよいのです。
ただし、どの枝を選ぶにしても、幹がしっかりしていることが重要です。
「ステップアップ」だけが妊活ではない
不妊治療というと、「タイミング法から人工授精、そして体外受精へ」と、階段を一段ずつ上っていくイメージを持つ方が多いでしょう。
しかし、私は必ずしも「上へ上へ」と進むことだけが妊活ではないと思っています。
実際に、人工授精や体外受精まで進んだものの、心身ともに疲れてしまい、もう一度、自分たちの身体や生活を見直してみたいという方が「不妊ルーム」に相談に来られます。
私自身、不妊治療を経験したからこそ、治療そのものが大きな精神的負担になり得ることを実感しています。
だからこそ、時には立ち止まって、幹を育て直すことも選択肢の一つなのです。
二人目の妊娠につながる「希望」という実

私は、できることなら「不妊ルーム」で妊娠していただきたい、と内心願っているのには理由があります。
それは、一人目を自然に近い形で妊娠できた経験が、二人目を望んだときの大きな希望になるからです。
もちろん、一人目が自然妊娠だったからといって、二人目も必ず自然妊娠できるとは限りません。年齢や身体の状態は変化します。
それでも、「自分たちには自然に妊娠できた」という経験は、次の妊活に向かうときの心の支えになるでしょう。
妊活では、目の前の「実」だけを見ていると、どうしても一喜一憂してしまいます。排卵日、検査結果、判定日……。
けれども、本当に大切なのは、その一回だけではありません。
私は、「妊娠できるか、できないか」だけではなく、「妊娠を目指す身体を、どう育てていくか」という視点を持っていただきたいのです。
妊活は「実を急ぐ」より「幹を育てる」
木は、植えた翌日に太くなるわけではありません。毎日の水やり、十分な栄養、適切な日当たり、そして時間。その積み重ねによって、少しずつ幹が太くなっていきます。
妊活も同じです。焦る気持ちは当然です。けれども、妊娠という実を急ぐあまり、幹を育てることを忘れてはいけません。
自然妊娠を目指す方も、人工授精を考えている方も、体外受精を受けている方も、一度「自分の妊活の木は、しっかり育っているだろうか」と考えてみてください。
幹が太くなれば、そこから伸びる枝の可能性も広がります。
妊活とは、ただ「妊娠するための方法」を選ぶことではありません。二人で未来を考えながら、自分たちの「妊活の木」を大切に育てていくことなのです。
その木がいつか花を咲かせ、ふたりの「実」を結ぶことを、私は願っています。


