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DHEAが不足すると妊娠力は低下する
人間の体には、健康を維持するために欠かせない物質が数多く存在します。
そして、その物質が不足すると「〇〇欠乏症」という病気として診断されます。
鉄が不足すれば鉄欠乏性貧血、ビタミンDが不足すればビタミンD欠乏症というように、不足そのものが体の不調の原因になることは珍しいことではありません。
私は長年、不妊診療に携わる中で、「DHEA欠乏症」と呼ぶべき状態が存在すると考えるようになりました。
正式な病名ではありませんが、DHEAが不足していることが卵子の成熟や、妊娠力の低下に関わっている女性は、少なくないと感じています。
DHEAは卵子を育てるための大切な材料

DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)は、副腎や卵巣で作られるホルモンで、女性ホルモンや男性ホルモンの材料となる重要な物質です。
20代をピークに徐々に減少し、40代では若い頃の半分程度まで低下します。
最近では、生殖医療の分野でDHEAが注目されています。
その理由は、DHEAが卵胞の発育や卵子の成熟に深く関わっていることが分かってきたからです。
卵子は排卵するまで約120日もの時間をかけて成長します。
その間、卵巣の中ではさまざまなホルモンが働きながら卵子を成熟へ導いています。
その大切な材料の一つがDHEAです。
DHEAが十分あると、卵子の成熟もスムーズに進みます。
一方でDHEAが不足すると、卵胞が十分に育たず、卵子の質にも影響を及ぼす可能性があります。
私は、この状態こそが「DHEA欠乏症」と呼ぶべきものではないかと考えています。
私が「DHEA欠乏症」を確信した一人の女性
この考え方のきっかけとなった忘れられない女性がいます。
32歳でした。
年齢は若く、生理も比較的規則的でした。
男性側を含めて一般的な不妊検査を行いましたが、原因となる異常は見つかりませんでした。
「何か見落としているものがあるのではないか?」そう考え、当時は35歳以上の女性を対象としていたDHEAの測定を行ってみることにしました。
結果は、32歳であるにもかかわらず、DHEA値は50代女性と同じレベルまで低下していたのです。
そこでDHEAサプリメントの服用を勧めました。
すると、次の月経周期にはDHEA値は30代女性相当まで改善し、その翌周期には妊娠反応が陽性となりました。
そして無事に元気な赤ちゃんを出産されたのです。
それから約2年後、その女性が二人目を希望して再び来院されました。
私は前回の経験が頭にありましたので、最初にDHEAを測定しました。
すると、予想どおり再び50代女性と同じレベルまで低下していたのです。
すぐにDHEAサプリメントを開始しました。
ところが今回は、次の採血を行う間もありませんでした。
服用開始後、すぐの周期で妊娠されたのです。
この症例は私に、「DHEAが不足している女性では、まず不足を補うことが妊娠への第一歩になる」ということを強く教えてくれました。
DHEAは卵子の「成熟スイッチ」を押している

私はDHEAを単なるホルモンの材料とは考えていません。
DHEAは、卵巣の中で眠っている卵胞が順調に成長し、成熟した卵子へと育っていくための重要な土台であり、「卵子の成熟スイッチ」を押す役割を担っていると考えています。
近年の研究でも、DHEA補充によって卵巣予備能が低下した女性の採卵成績や成熟卵数、受精率の改善が期待できることが報告されています。
すべての患者さんに同じ効果があるわけではありませんが、DHEAが不足している女性では、その補充が卵子の成熟環境を整えることにつながる可能性があります。
つまり、良い卵子を育てるためには、「卵子そのもの」だけを見るのではなく、「卵子を育てる環境」を整えることが重要なのです。
「DHEA欠乏症」を見逃さないために
「不妊ルーム」では、DHEAを重要な指標として考えています。
現在、年齢が若くても原因不明不妊や卵巣機能の低下が疑われる場合には、積極的に測定をおこなっています。
私はこれまで数多くの患者さんを診療してきましたが、DHEAが低い方ほど、補充後に卵胞の育ち方や採卵結果、そして妊娠経過が改善する場面を何度も経験してきました。
妊娠は年齢だけで決まるものではありません。
たとえ30代前半でもDHEAが低下している方がおられる一方で、40代でも十分なDHEAを保っている方もおられます。
だからこそ、一人ひとりの体の状態を正しく知ることが大切なのです。
不足しているものを見つけ、適切に補うことは、「卵巣セラピー」の重要な柱です。


