不妊治療をやめると妊娠する!

「先生、不妊治療をやめたら妊娠しました。」

私はこれまで何度も、このようなご報告を受けてきました。

皆さんの周りにも、「長い間不妊治療を続けていたのに、治療をやめた途端に自然妊娠した」という方がいらっしゃるのではないでしょうか。

このようなお話を聞くと、「そんなことが本当にあるの?」と思われるかもしれません。

しかし、実際の臨床現場では決して珍しいことではありません。

私がこまえクリニックに「不妊ルーム」を開設した大きな理由の一つも、まさにこのような患者さんを数多く見てきたからなのです。

不妊治療そのものがストレスになることがある

もちろん、不妊治療は妊娠の可能性を高めるための大切な医療です。

しかし一方で、多くの方にとって、不妊治療は精神的にも、時間的にも、肉体的にも大きな負担になります。

毎月の通院、採血や超音波検査、薬や注射、排卵日に合わせたスケジュール調整、そして「今月こそ」という期待と、「まただめだった」という落胆。

この繰り返しは、ご本人が思っている以上に大きなストレスになっています。

人間の体は、とても正直です。

特に女性のホルモンは、脳の視床下部や下垂体という司令塔から細かくコントロールされています。

卵巣は勝手に働いているわけではなく、脳からの指令を受けて初めて排卵やホルモン分泌を行っています。

そして、その脳はストレスに非常に敏感です。

強いストレスを受け続けると、自律神経やホルモンバランスが乱れ、排卵が不安定になったり、黄体機能が低下したりすることがあります。

つまり、「妊娠したい」という気持ちが強すぎるあまり、そのストレスが皮肉にも妊娠しにくい状態を作ってしまうことがあるのです。

治療をやめることで「重し」が外れる

不妊治療をやめたから妊娠するのではありません。

本当に大切なのは、「ストレスという大きな重しが外れる」ことなのです。

治療を卒業した瞬間、

「もう毎月結果に一喜一憂しなくていい」

「通院の予定を気にしなくていい」

「夫婦でゆっくり旅行に行こう」

「好きなことを楽しもう」。

そんな気持ちの変化が起こります。

すると心だけでなく、体も少しずつ本来のリズムを取り戻していくことがあります。

私はこれを、重たいリュックを背負って山登りをしているようなものだと考えています。

どんなに頑張っても、重い荷物を背負っていれば前へ進みにくくなります。

しかし、その荷物を一度下ろすと、驚くほど体が軽く感じられます。

不妊治療を休むことは、その重い荷物を一度下ろす時間なのかもしれません。

「休むこと」も立派な治療です

そのため私は、「不妊ルーム」に来られた患者さんによくこうお話ししています。

「不妊治療を休んでみるのも、不妊治療ですよ。」

最初は驚かれる方も少なくありません。

しかし、休むということは決して諦めることではありません。

むしろ、心と体を整え、妊娠しやすい環境を取り戻すための積極的な選択なのです。

私たちは風邪をひいたとき、無理に走り続けようとはしません。

まずは休み、体力を回復させます。

妊活も同じです。

心も体も疲れ切っている状態では、本来持っている力を十分に発揮することはできません。

一度立ち止まり、深呼吸をする時間が必要なこともあるのです。

「つかず離れず」の距離感を大切にしています

だからこそ、「不妊ルーム」では患者さんとの距離感をとても大切にしています。

私は、なるべくストレスをかけないよう、「つかず離れず」の距離感を意識しています。

必要なときにはしっかりサポートする。

でも必要以上にプレッシャーはかけない。

「次は絶対頑張りましょう」と追い込むのではなく、「今は心と体を整える時期ですね」と寄り添う。

この距離感が、結果として妊娠につながることを数多く経験してきました。

妊娠は、努力だけでコントロールできるものではありません。

だからこそ、「頑張り続けること」が正解とは限らないのです。

妊娠は「安心」の中で育まれる

赤ちゃんを迎える体は、「安心しても大丈夫」というメッセージを脳が受け取ったとき、本来の力を発揮しやすくなります。

毎日が不安と緊張でいっぱいでは、体は生命を守ることを優先し、生殖機能は後回しになってしまうことがあります。

だから私は、不妊治療だけを見るのではなく、その方の生活全体を見つめたいと思っています。

睡眠、食事、運動、ご夫婦の関係、仕事とのバランス、そして心のゆとり。

これらすべてが妊活には大切な要素です。

もし今、不妊治療が苦しくなっているのであれば、「少し休む」という選択肢があってもよいのではないでしょうか。

休むことは後退ではありません。

むしろ、次の一歩をより確かなものにするための準備期間です。

妊活はマラソンであって、短距離走ではありません。

ゴールにたどり着くためには、ときには歩いてもいいのです。

私たち「不妊ルーム」は、そのような皆さんの歩幅に合わせながら、「つかず離れず」の距離感で寄り添い続けたいと思っています。

ストレスという大きな重しを少しだけ下ろしたとき、本来皆さんが持っている「妊娠する力」が、静かに動き始めることがあるのです。

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著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)