体外受精で大切なのは「妊娠率」ではなく「生産率」

妊娠率という数字の落とし穴

体外受精を希望されるカップルに、お伝えしたいことがあります。

それは「どの数字を信じるのか」で、治療の見え方はまったく変わるということです。

多くのクリニックのホームページには「妊娠率50%」など、非常に高い数字が掲げられています。

その数字を見ると、「ここなら大丈夫かもしれない」「思ったより可能性が高い」と感じるのは当然です。

しかし妊娠率という言葉には大きな落とし穴があります。

妊娠率は算出方法によっていくらでも変わるのです。

若い年齢層だけを対象にしたデータなのか、良好胚のみを移植した周期だけを抽出したのか、1回の移植あたりなのか1回の採卵あたりなのかによって、数字は大きく上下します。

極端に言えば、条件を絞ればいくらでも高い数字を作ることができるのです。

しかしあなたが求めているのは「妊娠判定で陽性が出ること」ではありません。

本当の目標は「無事に赤ちゃんを抱くこと」です。

妊娠率はスタート地点に立った割合に過ぎません。

その先に流産があり、途中で止まってしまう妊娠があり、初めて出産というゴールがあります。

妊娠率だけを見て安心するのは、マラソンでスタートラインに立てた割合を見て喜んでいるようなものです。

大切なのは完走率、つまり生産率なのです。

卵子の老化という避けられない現実

体外受精を受ける方の中心は30代後半から40代前半、とくに39歳から43歳前後の女性です。

この年代では、妊娠率と生産率の間に非常に大きな隔たりが生じます。

その理由は卵子の老化です。

女性は生まれたときに一生分の卵子を持っており、新しく作り出すことはできません。

年齢とともに卵子の数は減り、質も低下していきます。

特に問題になるのは染色体異常の増加です。

40歳を超えると卵子の染色体異常率は急激に上昇します。

体外受精では受精自体は起こりますし、胚盤胞まで育つこともあります。

しかし見た目がきれいな胚でも、その中に染色体の異常があれば、着床しない、あるいは妊娠しても心拍確認前後で流産する可能性が高くなります。

シビアですが、避けて通れない現実です。

私は日々の診療の中で、妊娠判定で喜び、数週間後に流産と告げられたカップルを何度も見てきました。

医療技術が足りないわけではありません。

子宮の環境が悪いわけでもありません。

主な原因は卵子の染色体異常なのです。

つまり「妊娠しました」という言葉の裏には、「その妊娠がどこまで続くのか」というもう一つの問いが隠れています。

生産率が示す40代の現実

では実際の生産率はどのくらいなのでしょうか。

日本産科婦人科学会が体外受精の全国データをホームページ上に公表していますが、おおよその移植あたり生産率は40歳で約10%、42歳で約5%、43歳では2%前後と報告されています。

これは「最終的に出産できた割合」です。

仮に妊娠率が25%あったとしても、その中の多くが流産に至れば、生産率は大きく下がります。

42歳で生産率5%ということは、統計的には20回に1回程度という計算になります。

もちろん個人差はありますが、確率としては非常に厳しい世界です。

しかし、大切なのは悲観することではなく、現実を知ることです。

流産率は40歳を超えると30〜40%以上、さらに年齢が上がると50%近くに達することもあります。

この数字を知らずに妊娠率だけを見て治療を始めると、「こんなはずではなかった」という強い失望に襲われます。

数字を正しく理解することは、心を守ることにもつながります。

医療だけに頼らないという選択

40代女性の生産率は、体外受精であっても自然妊娠であっても変わらないという婦人科医の指摘があることも、私たちは知っておくべきでしょう。

医療だけが妊活ではありません。

卵子の老化という現実を前提にしつつ、心身の状態を整え、血流やホルモン環境を改善し、流産を減らす努力を重ねることも同じくらい重要です。

妊娠率という派手な数字に一喜一憂するのではなく、流産率をいかに下げるか、そして生産率をいかに高めるかという視点で治療を選択すること。

それこそが、遠回りのようでいて実は最も現実的な道なのです。

数字の魔法に惑わされず、最終的に赤ちゃんを腕に抱くというゴールから逆算して治療を考える。

その冷静さが、これからの妊活に本当に必要な視点だと、私は思っています。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)