年齢の高い女性が妊娠する時は—40代が妊娠する医学的背景と条件—

40代半ばでなぜ妊娠するのか

最近、「不妊ルーム」で46歳の女性が妊娠されました。

決して頻繁な出来事ではありませんが、当院では40代半ばの方が妊娠されるケースを何度も経験しています。

通院されている女性から、

「なぜこの年齢で妊娠できたのですか?」

「何が違ったのでしょうか?」と質問を受けます。

年齢が上がるほど妊娠が難しくなるのは事実ですが、それでも妊娠が起こる背景には、いくつか共通した条件があります。

妊娠はゼロか百かの話ではなく、確率の問題です。

年齢とともに確率は下がりますが、条件がそろえば妊娠は起こります。

年齢と妊娠力の現実を正しく知る

女性の妊娠力は年齢と密接に関係しています。

女性は生まれた時点ですでに一生分の卵子を持っており、年齢とともに卵子の数は減少し、同時に質も低下していきます。

40代になると、排卵される卵子の多くは染色体異常を含む可能性が高くなり、受精しても着床しにくい、あるいは妊娠が継続しにくくなります。

これは体質や努力の問題ではなく、加齢に伴う生理的変化です。

この現実を正しく理解することが、高齢妊活の第一歩になります。

それでも「妊娠できる卵子」は残っている

一方で、年齢が高くなったからといって、妊娠できる卵子が完全になくなるわけではありません。

40代半ばであっても、卵巣の中にはごくわずかですが、妊娠につながるポテンシャルを持った卵子が存在しています。

その卵子が排卵され、精子と出会い、子宮内膜の環境が整えば、妊娠は起こり得ます。

重要なのは、「卵子が育つ環境が整っているかどうか」です。

「不妊ルーム」で40代半ばの妊娠が見られるのは、まさにこの可能性を大切にしているからです。

「卵巣セラピー」が目指しているもの

このコラムで何度もお伝えしているように、「不妊ルーム」では妊活女性の高齢化に備え、「卵巣セラピー」に力を入れてきました。

卵巣セラピーの目的は、卵子の数を増やすことではありません。

減ってしまった卵子の数を元に戻すことはできないからです。

私たちが重視しているのは、今ある卵子が育ちやすい環境を整え、排卵される卵子の質をできるだけ高めることです。

卵巣は血流と神経の影響を強く受ける臓器です。

年齢とともに卵巣周囲の血流は低下し、酸素や栄養が十分に届きにくくなります。

その結果、卵子を支える顆粒膜細胞の働きが弱くなり、卵子の成熟が不十分になりやすくなります。

自律神経のバランスも乱れやすくなります。

その結果、FSHやLHといったホルモンの指令が卵巣に届いても、十分に反応できなくなってしまうのです。

卵巣セラピーでは、骨盤内の血流改善、自律神経の調整、ホルモンが卵巣に届きやすい状態づくりを重視し、卵巣という卵子の「水槽」を整えることを目的としています。

高齢妊活に必要な「3つの条件」

年齢の高い女性が妊娠する時には、

「卵巣セラピー × タイミング × 運」

この3つがそろっています。

どれか一つ欠けても、妊娠にはつながりにくくなります。

卵巣セラピーは妊娠の土台であり、タイミングはその土台の上で実行される行動です。

そして「運」とはなんでしょうか? 偶然でしょうか?

「運」とは偶然ではなく確率の話

「運」という言葉に違和感を覚える方は多いかもしれません。

しかし、これは単なる偶然や奇跡を意味しているわけではありません。

40代の卵巣では、毎周期排卵される卵子の多くが妊娠に至らないのが現実です。

その中で、良好な卵子が排卵される周期があります。

その「当たりの周期」に精子と出会い、子宮内膜の状態が整っていれば、妊娠が成立します。

医学的に言えば、これは「確率が重なった結果」なのです。

確率をゼロにしない妊活の考え方

重要なのは、この確率をゼロにしないこと、そして可能な限り高めていくことです。

卵巣セラピーによって卵巣環境を整えることは、「妊娠できる卵子」が育つ確率を高めることです。

また、基礎体温やホルモンの動きを丁寧に確認し、排卵のタイミングを見極めることは、貴重なチャンスを逃さないために欠かせません。

さらに「オキシトシン妊活」という、「愛情ホルモンを高める生活」を心がけることも重要です。

こうした積み重ねの先に、「運をつかめる周期」が訪れます。

年齢が高いからこそ大切にしたい姿勢

年齢の高い妊活では、結果が出るまでに時間がかかることも多く、不安や焦りが強くなりがちです。

しかし、「まだ可能性は残っている」という事実を知り、自分の体の状態を理解した上で取り組むことは、精神的な安定につながります。

過度なストレスはホルモンバランスを乱し、妊娠のチャンスを遠ざけてしまうこともあります。

年齢が高いからこそ、無理をせず、体の声に耳を傾けながら、今できる最善を積み重ねていくことが大切です。

「不妊ルーム」では、その方の年齢や卵巣の状態、これまでの経過を踏まえた現実的なサポートを行っています。

40代半ばでの妊娠は決して簡単ではありませんが、ゼロではありません。

その可能性を一緒に見極め、納得のいく妊活を続けていくことが大切です。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)