妊活と流産の落とし穴

「妊娠できた」という事実が示すもの

妊活をしていると、思いがけず早く赤ちゃんが宿ってくれる方がいます。

「こんなに早く妊娠できるなんて」と、胸がふわっと温かくなるあの瞬間。

きっと、あなたも同じように嬉しい気持ちでいっぱいだったのではないでしょうか。

しかしその後、流産という現実が訪れると、まさに“天国から地獄”のような落差を味わいます。

その苦しさ、喪失感、言葉にならない思い——

それは決して軽いものではなく、私たち医療者も心から理解しています。

けれども、ここにひとつ、妊活における大きな落とし穴(ピットホール)が潜んでいるのです。

その落とし穴とは、「ショックのあまり、慌てて必要のない不妊治療のドアをノックしてしまうこと」

妊娠できたという事実は、あなたの身体が妊娠する力をもっていることの証拠です。

これは、実はとても大きく、前向きな意味をもっています。

流産後に「すぐ不妊治療」は必要か?

流産のあと、心の不安を抱えたまま医療機関を受診すると、多くの方は言われるがままに検査の流れに乗ってしまいます。

すると当然、気づけば“治療”が始まっている、ということになります。

しかし、私は皆さんに必ずお伝えしたいことがあります。

「その治療、本当に必要でしょうか?」

流産は、「妊娠したからこそ」起こるものです。

つまりあなたは、妊娠できた人なのです。

その大きな事実を、マイナスではなくプラスとして捉えてみませんか。

もちろん、頻回の流産(いわゆる反復流産)では検査や治療を検討する必要が出てきますが、1回の流産で“治療が必要な体質”と決まるわけではありません。

むしろ、多くの女性がその後ふつうに妊娠・出産へと進んでいます。

この自然な流れを忘れないでほしいのです。

「また妊娠できる」—この姿勢が次の妊娠を呼び込む

妊活では、心の状態が体の状態に驚くほど影響を及ぼします。

これはスピリチュアルな話ではなく、医学的にもホルモンバランスや自律神経と深く関わっています。

私は多くの女性を診てきた中で、ある確信をもつようになりました。

「私は一度妊娠できた。だからまた妊娠できるはず」

この開き直りの心が、次の妊娠を引き寄せるのです。

逆に、「また流産したらどうしよう」

「治療しなければ妊娠できないかもしれない」

と、恐怖や不安が心を占めてしまうと、体のリズムが乱れ、妊娠しにくくなることもあります。

だからこそ、流産後の時期こそ、あなたの心の回復が何よりも大切。

治療を始める前に、まず自分の“妊娠できた力”に目を向けてみませんか。

不妊治療がセックスの回数を減らすという皮肉

私が診療の中でしばしば痛感することがあります。

それは、不妊治療に踏み込んだことで、かえってセックスの回数が減ってしまうカップルが多いということです。

治療に入ると、どうしても「排卵日を当てる」「病院の指示に合わせる」「タイミングを外さない」という“義務のセックス”になりがちです。

すると当然、楽しい気持ちは薄れ、パートナーとの距離が遠ざかることもあります。

これは本末転倒です。

本来、不妊治療とは妊娠のチャンスを最大化するためのもの。

しかし、自然の営みであるセックスの回数が減ってしまえば、どれだけ医療を投入しても妊娠の確率は上がりません。

だから私は、流産後に慌てて治療に入るよりも、

  • まずは夫婦の時間を取り戻すこと
  • セックスを「義務」ではなく「心地よいコミュニケーション」に戻すこと

を大切にしてほしいと思っています。

流産後の“正しい待ち方”とは

「では、流産後はどう過ごせばいいのですか?」と、よく患者さんから質問を受けます。

私はこうお伝えします。

  • まずは心と体をゆっくり回復させる
  • 生理が1〜2回来れば、次の妊娠を目指してよい
  • 治療に入る前に“自然妊娠できる環境”を整える

妊娠は、無理をしないときにこそ訪れます。

焦りでぐっと肩に力が入っているときには、なかなか授かりにくいものなのです。

あなたには「妊娠できる力」があります

流産はつらい出来事ですが、その後のあなたの人生を左右するわけではありません。

むしろ、妊娠する力があることを証明してくれた、ひとつの出来事です。

どうか、「自分は妊娠できる身体なんだ」と、静かに自信を持ってください。

治療を始めるのは、そのあとで十分です。

あなたの妊活が、恐れではなく希望に導かれますように。

そして、あなたが心から笑える未来を、「不妊ルーム」はいつも応援しています。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)