私が妊活には漢方薬と思ったわけ

医学生時代からの関心

私が「不妊ルーム」を開設して、最初に強く関心を寄せたのが漢方薬でした。 その理由は、実は医学生時代にさかのぼります。学業のかたわら、私は西洋医学の教科書に書かれていない“別の視点”を求めて、独学で漢方を学んでいました。なぜなら、西洋医学の薬が「ある症状や臓器に対して、ピンポイントで効果を狙う」ものだとすれば、漢方薬は「人全体をどう整えるか」という発想から成り立っていると知り、そこに強い魅力を感じたからです。

患者さんからの懇願がスタートライン

そして「不妊ルーム」を開設した直後、ある女性の言葉が、私を大きく動かしました。彼女はこうおっしゃったのです。

「妊娠しなくてもかまいません。
不妊治療で薬漬けになり、ボロボロになったこの体を、
漢方で何とかしてください」

私はその言葉に胸を打たれました。彼女にとって大事なのは「妊娠すること」だけではなく、「自分の体を取り戻すこと」だったのです。そこで私は思い切って漢方薬の使用に踏み切りました。結果は驚くべきものでした。想像以上に体が整い、次々と妊娠される方が現れたのです。その中には、タイミング法や人工授精、さらには体外受精まで経験されても結果が出なかった方もいらっしゃいました。私は確信しました──「漢方薬は不妊治療において、大きな力になり得る」と。

西洋医学と漢方医学の違い

西洋医学を学んできた多くの医師にとって、漢方薬は軽視されがちです。「漢方薬なんてお茶のようなもの」「保険適用にしたのは誤りだ」そんな声を耳にしたこともあります。しかし、私にとって漢方の考え方は非常に合理的で、人間的でもあります。

西洋医学の薬は、いわば“ミサイル療法”です。肝臓の薬は肝臓へ、腎臓の薬は腎臓へと、標的を定めて攻撃する。一方で、漢方薬は「臓器」ではなく「体の歪み」をターゲットにします。体の歪みを整えることで、その中心にある病気や不調も改善していく──この全体性のあるアプローチに、私は深く共感しました。

妊娠を求める方にとっての漢方

実際に使用してみると、妊娠に至る方が増え、しかも副作用がほとんど見られませんでした。これは西洋薬の限界を見てきた私にとって、大きな発見でした。 そして何より、患者さんが求めているのは「論文に裏付けられたEBM(科学的根拠)」そのものではなく、「妊娠すること」という結果であることに気づかされたのです。そこに寄り添えるのが漢方薬であり、私は今日までずっとその力を信じて使い続けています。

医療現場での漢方薬の位置づけ

かつて漢方薬は「マイナーな治療法」と見なされることもありました。しかし現在では、状況は大きく変わっています。実際に日本の臨床医の約9割が漢方薬を使用し、婦人科医に限れば97%が漢方を処方しているというデータがあります。これはつまり、漢方薬がすでに“特別な治療”ではなく、“日常診療に不可欠な治療”になっていることを意味します。

妊活における漢方の価値

不妊治療は、ときに患者さんの体も心もすり減らしてしまうものです。そんなときに、体をまるごと整える漢方薬が役に立ちます。冷えや血流の滞り、ホルモンのバランス、精神的な疲労──これらは西洋医学だけでは拾いきれない領域ですが、漢方はそこに光を当ててくれます。だからこそ私は、「不妊ルーム」に来られる方々に「漢方」という選択肢を示し続けているのです。

「漢方は妊娠力を上げる魔法の薬ですか?」と聞かれることがあります。私はこう答えます。「魔法ではありません。しかし、あなたの体を本来あるべき状態に戻し、妊娠しやすい環境を整える手助けにはなります」と。

不妊治療に疲れ果てたとき、あるいは一歩立ち止まって自分の体を見つめ直したいとき、漢方薬はきっと、あなたの力になってくれるはずです。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)