オキシトシンは「愛情ホルモン/絆ホルモン」と呼ばれるだけでなく、脳と体の両方に働く多機能な物質。心の安定から子宮・卵巣の環境改善まで、妊娠を多面的にサポートします。
オキシトシンって何?
オキシトシンは、脳でつくられるホルモンの一種であり、同時に神経伝達物質としても働きます。一般には「愛情ホルモン」「絆ホルモン」と呼ばれ、夫婦や親子のスキンシップで分泌が増えることが知られています。でも、オキシトシンは単なる“心のホルモン”ではありません。脳と体の両方に影響を与える、非常に多機能な物質なのです。ここでは、脳内での働きと、子宮・卵巣に対する影響を科学的に解説します。
オキシトシンはどこで作られる?
オキシトシンは、脳の視床下部(ししょうかぶ)という部分でつくられます。視床下部は、体の自律神経やホルモン分泌をコントロールする司令塔のような場所です。視床下部で作られたオキシトシンは、2つの経路で体内に広がります。
- 血液を通じて体に働く(ホルモンとして)
下垂体後葉(かすいたいこうよう)から血液中に放出され、子宮や乳腺などに届きます。 - 脳内で神経を通じて働く(神経伝達物質として)
視床下部から脳のさまざまな部位へ送られ、感情や行動に影響を与えます。
この二重の働きが、オキシトシンを“特別なホルモン”にしている理由です。
脳内での働き:どうやって「心」を変えるのか?
オキシトシンが脳内で神経伝達物質として働くと、次のような効果が生まれます。
- 安心感をつくる:オキシトシンは、扁桃体(へんとうたい)という不安や恐怖に関係する部分を落ち着かせます。その結果、ストレスホルモンのコルチゾールが減り、心が穏やかになります。
- ドーパミンと連携して快楽を高める:脳の報酬系である「側坐核(そくざかく)」に作用し、ドーパミンの働きを強めます。これにより、スキンシップや性交が「気持ちいい」「うれしい」という感覚につながります。
- セロトニンとの協力で気分安定:セロトニンは幸福感やリラックスに関与します。オキシトシンが分泌されると、セロトニンの神経の働きもサポートされ、気分が落ち着きます。
こうした作用があるので、オキシトシンは「愛情ホルモン」「絆ホルモン」と呼ばれるのです。
愛情ホルモン・絆ホルモンと呼ばれる理由
スキンシップ、抱っこ、授乳、夫婦の性交などでオキシトシンは急増します。脳内でオキシトシンが増えると、次のような行動や感情が促進されます。
- 人への信頼感が増す
- 親子のきずなが深まる(母親が赤ちゃんをかわいいと感じる)
- パートナーへの愛情が強まる
心理学や神経科学の研究では、オキシトシンが多い人ほど、共感力や協調性が高い傾向にあることが示されています。
子宮や卵巣に対してどう働くのか?
ここからは、オキシトシンの「体への作用」を見ていきましょう。
- 子宮収縮を促す
出産時に陣痛を起こすホルモンとして有名ですが、性交時にも軽い収縮が起きます。子宮が軽く収縮することで、精子が子宮の奥に引き込まれ、受精の可能性が高まります。 - 卵巣の血流を改善
オキシトシンは、血管を拡張させる作用があります。卵巣への血流が良くなると、栄養や酸素が行き渡り、卵子の質が改善されやすくなります。 - ストレスを減らし、ホルモン環境を整える
ストレスが強いと、排卵に必要なホルモンが乱れやすくなります。オキシトシンはストレスホルモンを減らし、脳下垂体—卵巣のホルモン軸を正常化します。
このように、オキシトシンは「精子の輸送」「卵巣環境の改善」「ホルモンバランスの安定化」という3方向で妊娠を助けます。
科学的メカニズムをまとめると
●脳内では…
- 扁桃体を抑えて不安を軽減
- ドーパミンと協力して快楽や愛情を強化
- セロトニンと協力して気分を安定
●体では…
- 子宮収縮を促し、精子をサポート
- 卵巣の血流を良くして卵子の質をアップ
- ストレスを減らし、ホルモン軸を整える
つまり、オキシトシンは「心」と「体」をつなぐハブ(中心的な役割)」を果たすホルモンなのです。妊娠に必要なのは、体の機能だけでなく、心の安定やパートナーとの信頼関係です。オキシトシンは、そのすべてをサポートする、まさに「妊娠のキーホルモン」といえます。