妊活の神様はあまのじゃく 〜追えば逃げる、忘れたころにやってくる〜

私が「不妊ルーム」を立ち上げた理由は、二つの疑問にありました。

  1. なぜ、治療をやめたら妊娠した女性が多いのか?
  2. 不妊に悩むすべての女性に不妊治療は必要なのか?

医師として長年、不妊治療の現場に携わってきました。しかし、多くの女性が高額で長期間の治療を経ても妊娠に至らない一方で、「やめた途端に妊娠しました」という報告が少なくないのです。

これは偶然でしょうか? 私たちが見落としている大切な要素はないでしょうか?

不思議な現象:「レッスン妊娠」や「紹介状妊娠」

「不妊ルーム」でフォローアップを始めてから、私はさらに興味深い事実に直面しました。カウンセリング当日に妊娠が判明するケースが多々ありました。

さらに、私の著書『妊娠レッスン』を読んで妊娠した方々が、「レッスン妊娠」と名付けられるほど多数いたのです。また、体外受精を希望して紹介状を取りに来た日に妊娠していた女性も少なくありません。

なぜ、こんなタイミングで妊娠するのでしょうか?これは、単なる運や偶然では説明できません。ここに「妊活の神様はあまのじゃく」という、深いヒントが隠されていると思うのです。

妊活の神様は、なぜ「あまのじゃく」なのか?

私はしばしば「不妊ルーム」通院されている女性にこう伝えます。

妊娠は追いかけると逃げていく。そして、忘れたころにやってくる。

これは決してスピリチュアルな話ではありません。科学的に説明できるメカニズムがあります。ポイントは「ストレス」と「ホルモンバランス」です。

■ ストレスが妊娠を遠ざける理由

妊活を続ける女性の多くが、毎日排卵日を気にし、ネットの情報に一喜一憂しています。その心理状態を脳は「非常事態」と認識します。

ストレスが高まると、副腎からコルチゾールというホルモンが分泌され、脳の視床下部に影響を及ぼし、生理周期をコントロールするホルモン分泌を乱します。結果、排卵が遅れたり、質のよい卵子が育たなかったりするのです。

一方で、妊活をやめた途端に妊娠するのは、「ストレスから解放されたことでホルモンバランスが整う」ためと考えられます。だからこそ、妊活において「心のゆとり」は治療と同じくらい重要な要素なのです。

不妊治療だけが妊娠への道ではない

「不妊治療は全員に必要ではない」——この言葉を心に留めてください。

もちろん、年齢や卵巣機能、男性側の因子によって治療が必要なケースはあります。しかし、すべての女性に不妊治療をするのは合理的ではありません。

むしろ、体質や生活習慣を整えることで自然妊娠できる可能性は十分にあるのです。そのために「不妊ルーム」では、以下のアプローチを提案しています。

■ 卵巣セラピーで「よい卵子」を育てる

妊娠のカギは、卵子の質にあります。卵巣の働きを整えるために、次の方法が有効です。

  • 漢方薬の活用
    血流を改善し、冷えを和らげることで卵巣の血流を良くします。
  • DHEAサプリメント
    副腎から分泌されるホルモンを補い、卵巣機能をサポートします。
  • 亜鉛と銅のバランスを整える
    どちらも卵子の成熟に不可欠なミネラルです。
  • 甲状腺ホルモンのコントロール
    軽度の甲状腺機能低下が妊娠率を下げることは知られています。必要ならホルモン補充を検討します。

■ オキシトシン生活を取り入れる

「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンは、心を安定させるだけでなく、排卵や着床にも良い影響を与えると考えられています。オキシトシンを増やす方法はとてもシンプルです。

  • パートナーとのスキンシップ
  • ペットや赤ちゃんと触れ合う
  • アロマや音楽でリラックスする
  • 信頼できる人との会話

こうした「幸せを感じる時間」を日常に増やすことが、妊娠力を底上げします。

■ 「3つの法則」で妊娠を後押し

自然妊娠を目指すなら、この3つは基本です。

  • 基礎体温をつける
    自分の体のリズムを知ることが大切です。
  • 排卵日検査薬を併用する
    排卵の予測精度を高めます。
  • セックスを増やす
    タイミングに縛られず、夫婦の関係を楽しむことが、オキシトシン分泌にもつながります。

「妊活の神様」はコントロールできないけれど…

妊活の神様は、たしかにあまのじゃくです。

「どうしても!」と必死に追いかけているときには現れず、「もういいや」と肩の力を抜いた瞬間に、ふと訪れることがあります。これは偶然ではなく、心と体の仕組みがそうさせているのです。

不妊治療は大切な選択肢ですが、ゴールではありません。

「体を整える」「心をやわらげる」「夫婦で楽しむ」——この3つが妊娠への近道であることを、どうか忘れないでください。

著者
こまえクリニック院長
こまえクリニック院長放生 勲(ほうじょう いさお)