「愛のあるセックスは妊娠率を高める」──そんな言葉を聞くと、多くの人はそれを感情論や精神論と受け止めてしまうかもしれません。でも、もしそれが、私たちの脳内で実際に起きている“ホルモン”の働きによって裏づけられているとしたら?
そう、愛と快感、安心感が引き起こす“脳と身体の反応”は、妊娠という生命の奇跡を後押しする原動力なのです。今回は「妊娠しやすいセックス」のために、体内で起こっている見えない変化をひも解いていきます。そして、「不妊ルーム」での取り組みにも触れながら、妊活における“心と身体のつながり”の大切さを考えてみたいと思います。
「今がチャンス」を知らせる身体のサイン
妊娠の準備は、脳から始まります。視床下部—下垂体—卵巣というホルモンのネットワークが排卵に向けて動き出すとき、女性の身体にはある変化が訪れます。それがエストラジオール(E2)、通称「女性ホルモン」の急上昇です。
このホルモンは子宮内膜をふかふかに整え、頸管粘液をさらさらにして、精子が通りやすい状態に変えます。さらに、性欲も自然と高めてくれます。身体はまるで、「今こそ命を迎えるタイミングですよ」と囁いているのです。
快感が“脳を味方にする”
セックス中に分泌されるドーパミンは、「ご褒美ホルモン」と呼ばれ、快感や幸福感、親密さを高める重要な存在です。実はこのドーパミン、排卵をうながすホルモンの調整にも関わっており、「気持ちいい」と感じることが、ホルモン環境全体を整える力を持っています。
オキシトシンというホルモンは、愛情の象徴ともいえる存在です。セックスやオーガズム、肌のふれあいなどで分泌され、子宮の蠕動運動を促して精子の旅をサポートします。また、ストレスホルモンであるコルチゾールを抑える働きもあります。オキシトシンは、あまりに重要な妊活ホルモンですから、回をあらためて詳しくお話しします。
プロゲステロンは、受精卵が着床しやすいよう子宮内膜を整え、妊娠の維持に欠かせないホルモンです。そしてこのホルモンもまた、「安心感」によってスムーズに働くという性質があります。
セックスのあと、ふたりで抱き合う時間。深く眠る夜。こうした“セックスのあと”の過ごし方も、ホルモンには大きな影響を与えているのです。
妊活目的のセックスは妊娠を遠ざける
「不妊ルーム」に見えるカップルには、性交渉=妊娠の手段と捉えすぎてしまっている方が少なくありません。私はそこにあえて、“快感”という視点を取り戻すよう促します。セックスは義務ではなく、ふたりをつなぐ大切な時間。排卵日を狙う前に、心地よさや楽しさを取り戻すことの方が、かえって妊娠への近道になるのです。
しかし、妊活中の多くのカップルは「リラックスしなければ」と自分にプレッシャーをかけてしまいがちです。「不妊ルーム」では、「緊張と弛緩のバランス」がホルモン分泌のカギであることを伝えています。
「不妊ルーム」の向き合い方
「不妊ルーム」は医療機関ですから、ふたりのプライベートに立ち入ることはありません。外側から、ホルモンチェック、卵胞チェックなどをおこなうことで、相乗効果を期待して、妊娠へナビゲートしています。妊活がつらくなったとき、「不妊ルーム」のドアをノックしてください。医学と心の両方からアプローチし、あなたたちらしい妊活のあり方を、一緒に見つけていきましょう。
カレンダーより、こころの声に耳をすませて
「排卵日だから今日しなきゃ」──その考えに囚われてしまうと、セックスは義務になり、心がすり減ってしまいます。けれど本来、妊娠に必要なのは、カレンダーよりも“こころの声”に耳をすますこと。
「不妊ルーム」では、「排卵日セックス」だけに依存しない、ふたりの感情と向き合う妊活を提案しています。身体と心がつながり、自然と「今だ」と思えるタイミングが訪れたとき、そのときこそが妊娠に最もふさわしい瞬間なのかもしれません。
妊活は“愛のプロセス”
医療のサポートが必要なときもあります。ですが、妊娠は「心と身体の共同作業」。ふたりが触れ合い、支え合い、信頼し合うこと。それこそが、妊娠という奇跡を後押しする、もっとも根源的な力だと私は考えます。
妊活は、単なる結果を求める医学的な行為ではなく、パートナーと向き合い、人生を深める“愛の物語”なのです。